本の御魂が舞い降りる

景綱

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第二話 悲しき本の声

【七】朋美の悩みとは?

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 次の日、朋美は欠席した。
 その次の日も、そのまた次の日も欠席した。
 結局一週間も学校を休んでいる。風邪かと思っていたけど、きっと違う。
 何かあったのだろうか。

 小海は小さく息を吐き、考えを巡らせた。
 まさか、ずっと休むつもりじゃないだろうか。どうしたらいいのだろう。
 これは絶対に何かある。伴治の思い詰めた顔がふと浮かび気持ちが沈む。
 自分に何かできることはあるのだろうか。

「あっ、美里」

 振り返った美里は一瞬だけ顔をしかめたように感じた。
 どうしてそんな顔をするんだろう。何か嫌われるようなことをしただろうか。
 そうだ、朋美のこと訊いてみよう。美里は朋美と同じクラスみたいだし、何か知っているかもしれない。

「なんだ、小海か」

 なんだって。それはないでしょ。まあいいか。

「美里、朋美のこと何か知らないかな」
「えっ、急に何よ。知らないけど。なんで」
「ちょっと話したいことがあって。けど、ずっと休んでいるからさ」
「私、知らないから。じゃね」

 何、あの素っ気ない態度は。小首を傾げて、美里を見送った。
 朋美と友達じゃないのだろうか。
 気のせいかもしれないが、美里の顔がゆがんで見えた。何か隠している。そう直感した。

 ふと『鬼』との言葉が頭に浮かぶ。
 何を馬鹿なこと考えているのだろう。火乃花じゃあるまいし。まさか、本当に鬼なのだろうか。ない、ない。
 自分の変な妄想におかしくて笑ってしまった。

 問題は朋美のことだ。
 溜め息を吐き、天井をみつめる。
 こうなったら、朋美の家に行ってみるしかない。先生に家の場所を訊けばいい。本を返すという理由もあるし、お見舞いしたいとも話せば教えてくれるだろう。

 風邪の可能性がまったくないわけではない。インフルエンザという可能性だってある。命の危険がある病気ってことは。いやいや、それは違う。たぶん。

 ふいに美里の顔が浮かび、首を捻る。
 なぜ、美里の顔が浮かんだのだろう。何かが引っ掛かる。
 美里と朋美。何か関係があるのだろうか。
 こういうときの勘は意外と当たる。

 小海は寒気を感じてブルッと身体を震わせた。よくわからないけど、早いところ解決させたほうがよさそうだ。職員室へ急ごう。


***


 えっと、朋美の担任は確か。日本史の鎌ヶ谷先生だったっけ。
 どこだろう。
 いた、いた。

「鎌ヶ谷先生」
「んっ、角橋か。どうした」

 小海は朋美に会いたいことをいろいろと話して、住所を教えてほしいと頼んだ。
 どうなるかと思ったが意外とすんなり頷いてくれた。

「それじゃ、悪いけどこのお知らせの便りも渡してくれるか」
「はい」

 個人情報とか言われるかとドキドキしていたのに。余計な心配だったか。クラスメイトじゃないけど同級生だと意外とゆるいのかも。


***


 小海は学校をあとにすると、朋美の家を訪れた。

「ふーん、ここなんだ」

 この声は火乃花。ポケットから顔を出して手を振ってきた。
 いつからいたのだろうか。学校にいたときからか。それはないか。火乃花は絶対黙っていられない。朋美の家に行く途中のどこかってことか。
 まったく仕方がないな。

「来ちゃダメだって言ったでしょ、火乃花」
「なによ。私、学校へは行ってないでしょ。朋美の家はダメだって言ってないはずよ」

 確かに、その通りかも。違う、違う。納得している場合じゃない。

「とにかく、今日はそこでじっとしていてよね。それに静かにね」
「わかっているわよ。おとなしくしてればいいんでしょ」

 本当だろうか。きっと、黙っていられずに飛び出してくるはずだ。そうなったらそれでもいいか。でもな。どうしたらいいのだろう。
 朋美は伴治の孫だし、いずれバレるだろう。ずっと隠し通すことは難しい。ただ火乃花のことを話すのは、今じゃない気もする。

 ドアベルを押して、玄関先で小海は待った。
 扉から顔を出したのは、朋美に似た雰囲気の人だった。きっと、母親だろう。

「あの、私は朋美さんと同じ学校の角橋小海と言います。朋美さんは大丈夫でしょうか」
「あら、わざわざすみませんね」

 朋美の母親は、朋美の部屋まで案内しながら話を続ける。

「どこが悪いのかわからないんだけどね。本人は体調が悪いって言うもんだから休ませてしまったけど。甘やかし過ぎかしらね」なんて話すのを「そうですか」とだけ答えた。

 風邪ではないのだろうか。まさか仮病。どうなのだろう。
 もしかして火乃花の姿がショック過ぎて体調崩してしまったとか。いくらなんでもそれはないか。どうだろう。ないとは言い切れないのか。

 火乃花は今ここにいる。やっぱり、一緒にいたらまずいかもしれない。
 おとなしくしてくれることを祈ろう。

「朋美。お友達が来てくれたわよ」

 部屋は少し薄暗かった。カーテンを閉め切りにしているせいだろう。
 朋美はベッドから起き上がり、こっちを見ると「帰って」とだけ言い放ち、布団を被ってしまった。
 やっぱり火乃花の影響なのかもしれない。怯えた顔をしていた。自分の勝手な思い込みかもしれないけど、そう見えた。

「朋美、せっかく来てくれたのに」
「いいんです」

 朋美の母親の言葉を遮って頭を振った。
 帰ったほうがいい。正直、親しくないし無理に話すのは逆効果だろう。

「あの、学校からのお知らせと朋美さんが落とした本を持ってきたので渡してください」
「そう、ごめんなさいね」
「いえ、それでは失礼します」

 小海はお辞儀をして、玄関へと向かう。

「待って」

 突然飛んできた朋美の叫び声に足を止めた。

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