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第二話 悲しき本の声
【十九】優しく包み込む水の流れ
しおりを挟む流瀧の頭上に。
あれは水の龍。すごい。
もう何がどうなっているの。
炎の龍に水の龍。小海は交互に見遣り、固唾を呑んだ。
なぜだろう。怖いはずなのに、見ていると穏やかな気持ちになっていく。流瀧の水龍がそうさせるのだろうか。炎も見る間に小さくなり萎んでいく。
「樹実渡、火乃花の炎の龍が消えていくよ」
「当然だ。流瀧は『水』の属性だからな。火乃花の『火』には強い」
樹実渡が笑みを浮かべている。そういうことか。
朋美も美里も腰を抜かしてしまったように座り込んでいる。
よかった。もうちょっと遅かったら、大変なことになっていた。火傷で済めばいいが、あの火の勢いだと死んでいてもおかしくはない。本当に止められてよかった。
小海は急に寒気を感じてブルッと身体を震わせた。
本の御魂三人衆ってただ可愛い人形ってわけじゃなさそうだ。怒らせないほうがいい。流瀧がもしも怒りモードになったらどうなってしまうのだろう。止められるのだろうか。ふとそんなことを考えてしまった。
樹実渡に目を向けて、小首を傾げる。樹実渡に流瀧を止められるだろうか。なんとなく頼りない気がするけど。それとも火乃花が止めるのだろうか。火は水に勝てないだろうし。それなら、やっぱり樹実渡が。
小海は樹実渡をみつめて首を傾げた。
「なんだ、どうした。おいらの顔になんかついているのか。それとも腹減ったか」
樹実渡は鞄から飛び出して不満そうな顔で言い放つ。
「もう、そうじゃないわよ」
「えへへ、わかっているよ。おいらだって力はあるんだぞ。おいらは『木』の属性だ。おいらたちはそんな関係だ。わかるだろう」
「ふーん、木の属性ね。で、それが何。よくわからない」
「なんだと。わからないのか。木だぞ」
それはわかったけど。木は水に強いのかな。そうは思えない。水で木は育つかもしれないけど。強いとかというよりも、助けてもらっている感じがする。流瀧がいないと樹実渡は成長できないのかな。
やっぱり、よくわからない。
「小海。あんまり深く考えるな。ここは腹ごしらえだ。よし、美味いもの食いに行こう」
「なんでそうなるのよ。意味がわからない」
そんなことよりも、朋美と美里でしょ。
小海は慌てて二人のもとへ駆け寄り「大丈夫」と声をかけた。
二人とも頷いたものの座り込んだまま呆然としていた。そりゃそうだ。いきなり人形が近寄って来て炎の壁ができあがったら、誰でもそうなる。
この状況をどう説明したらいいのだろう。
朋美は火乃花と一応面識あるから少しは理解できるかもしれない。問題は美里のほうだ。こんな状況、すぐに受け入れることなんてできない。
そういう問題じゃないのか。
朋美だって何もかも拒絶してしまうかもしれない。あんな火乃花を見たら。小海は身体を震わせて、火乃花をチラッと見遣る。自分だって火乃花とちょっと距離を置きたくなる。
「えっと、私は何をしていたの」
火乃花はキョトンとした顔で流瀧をみつめていた。
「大丈夫ですよ。最悪の事態は避けられましたから。今は身体を休めてください。樹実渡、火乃花を頼みますよ」
「おお、任せろ」
樹実渡は火乃花の肩に手を置き「行こう」と声をかけた。
「小海、鞄を開けてくれ」
小海は頷き、鞄を開けると樹実渡と火乃花は中へと飛び込んだ。
火乃花自身もショックを受けているみたい。火乃花は顔面蒼白って感じだ。朋美にも危害を加えるところだったのだから当然か。
それにしても、みんな優しい。
流瀧も樹実渡も火乃花を責めたりしない。自分だったらどうだろう。火乃花のさっきの顔を見たら、責められないか。
んっ、なに。
何かの呪文だろうか。流瀧がなにやらブツブツ唱えている。聞き耳をたててもよくわからない。
ただ朋美と美里は困惑した表情をしている。何か伝わるものがあるのだろうか。
流瀧はどれだけ力を隠しているのだろう。それとも、今回のために勉強してきたのだろうか。伴治に図書館や古本屋に連れて行ってもらっていたらしい。難しそうな本を熟読していたそうだ。そんなことを伴治が話していた。
流石、流瀧と言うべきか。
あれ、流瀧が朋美と美里になにかを振りかけている。あれは水なのだろうか。キラキラと光っている。
小海は小首を傾げつつ、しばらく様子を見ていた。
気づくと朋美と美里の怯えが消えていた。
「流瀧。今のは何」
流瀧は振り返りニコリと微笑むだけだった。
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