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第二話 悲しき本の声
【二十二】樹実渡の言葉
しおりを挟む「みんな、湿っぽいな。こういう時こそ、美味いもの食べて忘れることだ。この饅頭、美味いぞ」
樹実渡がニコリとして食いかけの饅頭を掲げている。結局食べているのか。
仕方がない奴だ。
遼哉は苦笑いを浮かべ、樹実渡をみつめた。そう簡単に忘れられるわけがないだろう。けど、前向きに考えなきゃいけないのかもしれない。
「こら、樹実渡。あんたみたいに単純じゃないんの。もう、まったく」
火乃花は樹実渡を蹴り飛ばしていた。
「痛いって。まったく。暴力反対」
「なに、もっと遠くに蹴り飛ばそうか」
「ごめん」
「ふん。馬鹿、樹実渡」
「馬鹿って言うなよ。それはそれとして、火乃花。ずっと沈んだ気持ちでいれば解決するのか。しないだろう。ならば楽しいほうがいいじゃないか。身勝手な親なんか忘れて、いっそのこと朋美と暮らせばいいんじゃないのか。いや、それはダメか。美里には祖父母はいないのか。祖父母と暮らすってのもありだと思うぞ。おいらたちだっていつでも遊びに行ってやる」
そう話すと樹実渡は饅頭を頬張り「うまい、うまい」と一人頷いていた。
「それ、いいかも」
小海は手を叩き、頷くと美里へ前のめりになって言葉を続ける。
「ねぇ、そう思わない。そのほうが意外と美里も気持ちが休まるかもよ」
「そう、かな」
美里は力なく笑っていた。そんな美里にハルは優しい笑みを向けて口を開いた。
「妙案かもしれないよ、これは。美里が最終的には決めることだけど、今は親のことを考えたくはないだろう」
「樹実渡、凄い。やるじゃない」
火乃花がバシッと樹実渡の背中を叩いた拍子に口に入れた二つ目の饅頭の欠片が飛び出した。
「だから、なんで叩くんだよ。ああ、もったいない、もったいない」
饅頭の欠片を拾い再び口にいれて、樹実渡はニヤリとした。
「樹実渡、汚い」
「うまいんだからいいんだ。それよりもおいら凄いのか」
「まあね、凄いわよ。いい考えだもん」
流瀧は横に来て樹実渡の肩に手を置き頷いている。
「そうか、なんか照れ臭いな」
祖父母と美里が一緒にか。なんだか自分のことが思い出された。源じぃと暮らした日々が蘇っていく。自分とは立場は違うけど、離れることでわかることもあるだろう。いいかもしれない。
「美里さん、どうだろうねぇ」
ハルに言葉を投げかけられて美里は「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんのところですよね」と呟き考え込んでしまった。
もしかして、祖父母とも仲があまりよくないのだろうか。
「それも無理なの、美里」
朋美が不安そうに話すと美里は朋美と目を合せて頭を振った。
「いいかもしれない。私、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんのこと好きだから」
なんとなく美里の顔が和らいでいる。
これで解決できそうだ。緊迫した空気感も和らいでいる。
きっと、大丈夫だ。遼哉はふぅーと息を吐いて足を崩した。
「よし、これで少しは前進した。樹実渡じゃないけど、美味しいもの食べて英気を養おうか」
真っ先に賛成したのはもちろん樹実渡だ。
続けて小海も賛成してくれた。結果として伴治の家で夕飯をみんなで食べることになった。
朋美と美里は両親に連絡をとり夕飯のことを承諾してもらっていた。
よかった。良い解決案が出て。
正直、自分は何もできなくて不甲斐ない。もっと、頑張らなきゃいけないな。
何気なく美里へと目を向けると、少しだけ目に光が宿っていた。気のせいではないだろう。きっと、うまくいく。そう信じたい。
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