本の御魂が舞い降りる

景綱

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第二話 悲しき本の声

【二十三】みんな仲良し

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 なんだか緊張する。
 美里の祖父母の家に招かれたのはいいが、何を話していいのか。まったく、だらしない奴だ。遼哉は小さく息を吐き、自分に活を入れた。

 おや、美里の顔。笑っている。以前の様子とは違う。祖父母との暮らしは美里の心を癒してくれたのだろうか。きっとそうだ。
 朋美と美里の関係も良好のようだ。

 よかった。
 樹実渡の考えが正しかったってことか。

「ねぇ、美里。この本面白いわよ。読んでみて」
「なにこれ、ずいぶん古い本ね。『本の御魂みたま』っていうの。朋美の本なの」
「ううん、違う。お祖父ちゃんたちが書いた本なんだ。再販するって話があるみたいなんだけどね」
「ふーん。そうなんだ」
「読んだら驚くかもよ。あの子たちが出て来るから」
「あの子たちって」
「ほら、あそこ。小海、こっち連れて来て」

 朋美は手を振り、小海を呼んでいる。小海の後ろから一匹の灰色猫グレンが出てきた。その背中には火乃花ほのか流瀧るたき樹実渡きみとの順で並んで揺られていた。

「仲良し復活したのかぁ」

 樹実渡が叫び、飛び跳ねて自分の肩に乗る。

「これはすごい。眩しいです。心が光輝いていますね」

 ほんの少しだけ口角を上げて流瀧が頷いている。

「もう流瀧は大袈裟おおげさね。鬼が退散したってだけでしょ」

 火乃花はやっぱり鬼にこだわっているようだ。

「ああ、その本。私のお祖母ちゃんも関わっているのよ。ここにいる本の御魂三人衆が主役なんだから」

 小さな三人は誇らしげに胸を張っていた。

「その本は新たに出版されるから、その時は買ってくれよな。今、遼哉が必死で校正しているから半年後ぐらいには本屋に並ぶと思うぞ」
「樹実渡ったら、早速宣伝するの。遼哉が喜んじゃうわね。ねっ、遼哉」
「えっ、まあ」

 小海の嬉しそうな顔にあたたかい気持ちになった。

「小海の彼が頑張っているんだもんね。本が出たら買うからね」
「ヤダもう。朋美ったら、そんなんじゃないわよ」

 朱色に頬を染めて小海が肩を叩いてくる。

 痛い、痛い。
 なぜ、自分を叩く。言ったのは朋美だろう。本当に小海はわかりやすい。そういう自分もわかりやすいのかもしれない。顔が熱い。

 美里はそんな会話も耳に届いていないのか、じっと本の御魂三人衆に目を向けていた。そういう反応をするのが普通だろう。人形が動いて話すのだから。そのうち慣れるだろうけど。いや、ずっと慣れないのだろうか。

「何、美里は私の美貌びぼう見惚みとれているの」
「火乃花、そうではないと思いますよ」
「ふん、流瀧には私の美しさがわからないのね」
「まあ、まあ、二人とも仲良く、仲良く」
「樹実渡、私と流瀧は仲良しよ。馬鹿なこと言わないで」
「はい、はい」

 この三人の会話を聞いているとなんだか癒される。

「本当に不思議ね」

 美里はしみじみとそう呟いた。

「確かに不思議よね。けど可愛いでしょ」

 朋美の言う通り、こいつらは可愛い。
 美里と小海も大きく頷いている。

「なぁ、それよりも今日はご馳走してくれるんだろう」
「えっ、あ、そうよ」
「まったく樹実渡ったら、食べること以外に言うことないの。せっかく可愛いって褒めてくれているのに。美里を困らせちゃダメよ」
「おいらは可愛いよりも美味いもの話のほうがいいけどな」
「あっ、そう」

 火乃花はプイとよそ見をして空を見上げている。つられて空を見上げたが、これといって代わり映えのない青い空だった。

「美味いものは幸せを呼ぶんだぞ」
「わかったわよ」

 なんだかいいな。この感じ。あたたかな気持ちになる。これもこの三人のおかげだな。
 本の御魂三人衆か。

「うわわっ」

 何事かと思ったら、グレンがブルブルと身体を震わせて火乃花と流瀧が地面に落とされていた。

「もう、グレン何をするのよ」
「酷いではないか。グレン殿」

 そんな様子に樹実渡は指を差して大笑いしている。

「なによ、樹実渡。笑うんじゃない。炎で焼くよ」
「ちょっと、ちょっと。それは勘弁してくれよ」
「ふん、冗談よ。けど、笑うのは違うでしょ」
「うん、ごめん」

 やっぱり、この雰囲気好きだ。

「はい、はい。喧嘩は終わり。きっとグレンは三人に嫉妬しっとしたのよ。僕も構ってほしいってね」

 小海の言葉に「そうでしたか」と納得した流瀧がグレンに謝った。火乃花も渋々頭を下げている。なんだか平和だ。

「それじゃ、そろそろ行こうか。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが待っているから」
「おお、そうしよう。美味いもの食うぞ」

 樹実渡は腕を上げて叫ぶ。
 朋美も嬉しいのだろう。美里の笑顔が戻ってくれたことに安堵あんどしているようだ。

 美里の両親が離婚してしまった事実は変えられないけど、ひとりじゃない。みんながいる。美里の祖父母も優しい人みたいだし、きっと大丈夫だろう。もう心が病むこともないだろう。

「ほら、グレンご馳走のもとへ行くぞ」

 樹実渡はグレンの背に再び飛び乗り声を張り上げる。流瀧と火乃花も慌ててグレンの背に飛び乗った。

「それゆけ、グレン。出陣だ!!」

 火乃花は鬼じゃなくても、出陣なのか。


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