本の御魂が舞い降りる

景綱

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第三話 溜め息を漏らす本たち

【一】源蔵の本の見本が届く

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 父の経営する出版社から郵便物が届いた。
 待ちに待った本がやっときた。

「おい、何が届いたんだ。その笑顔は美味いものでも取り寄せたのか」
「違うよ、樹実渡。これは源じぃの本の見本だよ」

 遼哉は封を開けて、二冊の本を取り出すと口許くちもとを緩ませた。
 源じぃのエッセイ『御魂とともに』と新装改訂版『本の御魂』だ。

「おお、出来たのか。おいらにも見せてくれよ」

 遼哉は二冊をクッションの上に置き、「いいだろう」と樹実渡に見せた。

「うん、うん、いいな。この新品の本の香り。何といってもこの表紙が最高じゃないか。おいらが男前に写っている」
「そうだな。でも、流瀧も格好いいぞ。火乃花だって可愛らしいじゃないか。そうそうグレンも凛々しく写っているな」

 樹実渡も頷いている。

「ほら、グレン。寝ていないでこっちに来いよ。本の表紙になっているんだぞ。真ん中でグレンが主役みたいに陣取っているぞ」

 グレンは薄目を開けたものの再び目を閉じてしまった。どうでもいいみたいだ。そりゃそうだ。猫が興味津々で表紙に釘付けになってニヤけていたら、怖いだろう。
 けど、グレンならしそうだ。

「なぁ、来ないのか」

 呼びかけてみたが、グレンは来なかった。やっぱり、ニヤけたりドヤ顔なんてしないか。夜な夜な誰もいないところで本を眺めているなんてことするかもしれない。変な想像してしまった。

 遼哉は頭を振り、再び本の御魂三人衆とグレンが表紙になった『本の御魂』を眺めた。
 やっぱりいい表紙だ。感無量だ。

 きっと読者は表紙を見て、本の御魂三人衆が実際に動いて話すとは思わないだろう。それにしてもよく撮れている。もしかしたら、この人形が欲しいなんて問い合わせがくるかもしれない。
 グッズ販売するのもいいのかもしれない。あとで父に話してみよう。

 もう一冊のほうは、エッセイ『御魂とともに』だ。地下室にあった源じぃの自画像が表紙になっている。見ているだけで源じぃとの思い出が蘇ってくる。
 源じぃが見たら、きっと喜ぶだろう。

 パラパラと本をめくると真新しい本の香りがしてくる。
 自分がこの本に携われたことに感謝だ。
 源じぃにも、父にも母にも兄にも感謝だ。ハルや伴治、小海にも感謝だな。

 熱い思いが込み上げてくる。なんだか景色がぼやけてきた。自分は泣いているのか。
 涙を拭い、父のことを考えた。
 一番感謝すべきことは父に『本の御魂』に少し手を加えてみるかと言われたことだ。まさかそんなこと話すなんて思ってもみなかった。物語を台無しにしかねないのに。
 もちろん、ハルと伴治に相談してのことだ。

 結果、満足行くものに仕上げることができた。
 そのせいだろう。嬉しさは倍増している。
 自分にもやれることがみつけられた。本当に、ありがとうと言いたい。

 今回のことで、たくさんのことを学ぶことができた。
 加筆修正や校正は正直辛いこともあった。それ以上に、楽しさや学びのほうが多かっただろうか。
 目が痛くなるくらい文字と格闘したのを思い出す。それだけ校正作業は大変だ。誤字脱字をみつけるのも疲れた。日本語ってつくづく難しいと思った。

 同じ読み方する文字が多すぎる。正直、頭がこんがらがってしまった。正解の漢字はどっちだと何度も辞書を見直した。父に確認の電話をしたこともある。

 地味な仕事だけど根気がいる仕事だ。改めて日本語の勉強をしたほうがいいのかもしれないとも思ったくらいだ。
 誤字脱字はほとんどなかったからまだよかったのかもしれない。さすが、源じぃと言うべきか。かなり慎重に見直したつもりだ。それでも間違いがあることもある。

 出来上がってきた本を見て、愕然がくぜんとすることもある。
 はたして自分の仕事は完璧だったろうか。半人前だから正直不安だ。いや、きっと大丈夫だ。最終的な確認は父がしてくれている。

「今日はお祝いだな」

 樹実渡がニコリとして話す。

「そうだな」
「よし、そうと決まれば小海の家に行こう」
「えっ、なんで」
「早く、見せたいだろう。それ」
「いやいや、小海はもうじきこっち来るだろう」
「あっ、そうだった。けど、ハルにも伴治にも流瀧にも火乃花にも見せたいぞ。あと朋美と美里にもだ」
「まあ、落ち着け」

 そう言うと、樹実渡は深呼吸をして「落ち着いたぞ。落ち着いたら腹減ったな」と呟いた。遼哉は思わず吹き出してしまった。
 本当にこいつときたら。最後には結局食べ物のことになってしまう。

 あっ、ドアベルが鳴った。

「おっ、小海が来たな。何か手土産てみやげでも持ってきたかな」

 樹実渡は玄関へと走って行った。
 本当に面白い奴だ。

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