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第三話 溜め息を漏らす本たち
【二】小海とともに
しおりを挟む朋美と美里のことを解決してからもう半年が経つのか。
時が経つのは早いものだ。
小海は高校を卒業して就職をした。社会人だ。正直、務まるのかと心配になった。
自分が偉そうなこと言えないか。
遼哉は溜め息を漏らしてチラッと横を見る。まさか、こうなるとは思っていなかった。
小海の就職先を聞いて心臓が飛び出るかと思ったのを思い出す。
新入社員が入るとは聞いていたが、小海がそうだったなんて。つまり、自分の後輩になる。しかも、自分を補佐する役目だとか。
いいのかそれでと父を問い詰めようと思ったくらいだ。
もちろん、ずっと補佐をしているわけではない。出版社のほうに出社するときもある。こないだ久しぶりに遼哉が出版社のほうに出向いたときに母が「小海さん、気に入ったわ。いつ結婚するの」なんてことを言い出す始末。
父も兄もニヤけた顔をしていた。
まさかとは思うが、すでに嫁になるという条件付きで会社に採用したわけじゃないだろう。遼哉は頭を振って玄関先に立つ小海をみつめた。
「どうしたの遼哉」
「えっ、あ、なんでもない」
小海は父や母にどんな話をしているのだろうか。訊きたい衝動にかられたが、その言葉を呑み込んだ。
「小海、本が出来たぞ。最高の出来栄えだぞ」
樹実渡が飛び跳ねて騒ぎ立てる。
「本って源蔵さんの本のこと」
遼哉は頷き「出来たといっても、見本だけどな」と付け加えた。
「小海、こっちだ見てみろ」
小海は樹実渡に促されるようにして奥の部屋に向かった。
「素敵」との声が奥の部屋から届く。
遼哉も部屋に戻ると「これからこの本の営業かけないといけないな」と話すと小海は「私、頑張るからね」と意気込んでいた。
小海は営業も担当する。地味で根気のいる校正の仕事よりも営業の仕事のほうが小海には向いているのかもしれない。大変なことには変わりがないけど。
自分も小海と一緒に営業したほうがいいかもしれない。小さな出版社だから一人でいろんな仕事を掛け持ちすることはよくある。オールマイティーじゃなきゃダメだ。
「なあ、小海。みんな集まって本の完成パーティーしようよ」
樹実渡が小海の袖を引っ張りながら上目遣いでみつめている。
「そうね、でもこれ見本でしょ。パーティーするなら、出版記念じゃないの」
「細かいこと言うなって。めでたいことには変わりはないだろう。美味いもの食いたいからやろう」
「ふふふ、結局、美味しいものが食べたいだけなんだ」
「それを言うな」
樹実渡は美味しいものが食べられれば満足なんだ。でも、今回は素直に本が出来たことが嬉しいのだろうけど。一応、この見本の本をチェックしなきゃいけない。いや、もうチェックする必要はないだろうか。父がチェックしているから大丈夫か。
出版社のほうに電話をしてみたところ、十分確認したから大丈夫だと返答がきた。いろいろと出版に向けて段取りもあるから、来てほしいとも頼まれた。
小海とも話して明日出社することになった。
これからいろいろと忙しくなりそうだ。
樹実渡は寝ているグレンを無理やり起して、猫パンチを喰らって飛ばされて壁に叩きつけられていた。大丈夫なのか、樹実渡は。
「おい、こら。おいらは軽いんだ。猫パンチはやめてくれ。不意打ちは卑怯だぞ」
そう言いつつも顔は笑っていた。どうやら大丈夫らしい。そう思ったら、また猫パンチを喰らって反対側に飛ばされた。
それなのに樹実渡はすぐにグレンのもとへ舞い戻ってきた。樹実渡の手から蔦のようなものが飛び出してグレンの手に巻きついていた。
おお、これは凄い。
よし、忘れないうちにメモっておこう。小説を書くときに役立つだろう。
「ねぇ、話聞いているの」
「えっ、なに。えっと、ごめん」
しまった。小海がなにか話していたようだ。樹実渡とグレンを見ていて何も聞いていなかった。
「もう、相変わらずなんだから。本の営業の話をしていたんでしょ」
そうか、営業か。
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