69 / 161
第三話 溜め息を漏らす本たち
【三】書店をまわる
しおりを挟む
今日は源じぃの本の発売だ。
梁田書店の店先に立ち、小さく息を吐く。
ここは昔から付き合いがある書店だ。源じぃがよくつれてきてくれた。遼哉は空を仰ぎ見て、源じぃを思う。隣でつられるように小海も空を見上げていた。
「小海、行こうか」
「うん」
梁田書店に遼哉が顔を出すと、梁田店主が「どうも」とお辞儀をした。梁田が指差す先に『御魂とともに』と新装改訂版『本の御魂』が並んで置かれていた。三冊ずつ平積みで目立つ場所にあった。
「ありがとうございます。こんな特等席に置いていただけるなんて」
「源蔵さんとは個人的にもお世話になっていたからね。当たり前のことだよ」
本当にありがたい。源じぃの人柄の良さと顔の広さがこの状況を生んでいるのだろう。初版三千部ずつ刷ったが、果たして源じぃの本は売れるだろうか。
父の出版社は、書店と直接取引をしている。書店から注文を受けて出荷する注文出荷制だ。トランスビュー方式と言うらしい。
梁田書店も注文をしてくれた書店のひとつだ。
書店回りして営業したものの注文してくれるかはわからない。
まあ出だしは順調と言えるだろう。
今日は注文してくれた書店を小海とともにお礼を兼ねて回っている。
本当だったら、全国の書店に並んでほしい本だが部数の少ない源じぃの本はそうもいかない。三千部だからどうしたって全書店には行き渡らない。
厳しい現実がそこにはある。それでも楽しい。やりがいがある仕事だ。
小海と一緒にいられることも楽しい要因のひとつになっているだろうけど。そこは父に感謝だ。
「梁田さん、今後ともよろしくお願いします」
「やだな、そんな他人行儀な。遼哉くんが小さいときから私は知っているんだよ」
「まあ、そうですけど」
遼哉は頭を掻いて微笑んだ。
「小海ちゃんも知っているじゃないか。まさか、二人で来るとは思わなかったけどね」
「梁田さん、これからは私も度々お邪魔しますからね」
「はい、よろしくね」
「それじゃ、そろそろ行きますね。他の書店も行かなきゃいけないですから」
「そうかい、夫婦力を合わせて頑張ってね」
梁田は笑みを浮かべて手を振る。
「ちょっと夫婦じゃないですよ。変なこと言わないでくださいよ」
遼哉は慌てて梁田に言い寄った。それでも顔はにやけていたかもしれない。
「あれ、そうなのかい。親父さんがよろしくなんて言っていたから、てっきりそうなのかと。おや、小海ちゃん」
梁田の言葉に小海の方を振り返ると、不機嫌そうな顔をして「次、行くわよ」とぶっきらぼうに話して行ってしまった。遼哉は梁田にお辞儀をして小海を追いかけた。
「小海、どうした。怒っているのか。父さんがなんか変なこと言ったみたいでごめん」
「怒ってなんてないわよ。それに問題はそこじゃないわよ。遼哉は私のことどう思っているの」
「えっ、どうって」
問題はそこじゃないって、じゃ、どこに怒っているのだろう。えっと……。
「どうせ、遼哉は私のことなんてどうでもいいんでしょ。あんなにはっきり否定しなくたって……」
もしかして、梁田に夫婦じゃないと否定したことを怒っているのだろうか。けど事実だ。でも、もっといい返しがあったかもしれない。
「小海、どうでもいいなんてことはないさ。小海は大切な人だよ。わかっているだろう。さっきはつい照れくさくて否定しちゃって」
「そうなの。ふーん、それならいいわよ。本気で怒っていないから。とにかく書店回りするわよ」
「そうだな。次は、えっと、どこだっけかな」
遼哉は小海の顔色を窺いつつ、予定の書店の確認をした。
本当にもう怒っていないのだろうか。気になってしまう。いやいや、今は仕事だ。しっかり仕事をしなくちゃ。
小海が覗き込んで来て「宝文堂だね」と口にした。もう機嫌は直っているみたいだ。いや、心の内はわからないか。口は災いの元って言うから気をつけなくちゃ。
今日はあと五カ所行く予定だ。源じぃの本が売れて重版かかるといいけど。
梁田書店の店先に立ち、小さく息を吐く。
ここは昔から付き合いがある書店だ。源じぃがよくつれてきてくれた。遼哉は空を仰ぎ見て、源じぃを思う。隣でつられるように小海も空を見上げていた。
「小海、行こうか」
「うん」
梁田書店に遼哉が顔を出すと、梁田店主が「どうも」とお辞儀をした。梁田が指差す先に『御魂とともに』と新装改訂版『本の御魂』が並んで置かれていた。三冊ずつ平積みで目立つ場所にあった。
「ありがとうございます。こんな特等席に置いていただけるなんて」
「源蔵さんとは個人的にもお世話になっていたからね。当たり前のことだよ」
本当にありがたい。源じぃの人柄の良さと顔の広さがこの状況を生んでいるのだろう。初版三千部ずつ刷ったが、果たして源じぃの本は売れるだろうか。
父の出版社は、書店と直接取引をしている。書店から注文を受けて出荷する注文出荷制だ。トランスビュー方式と言うらしい。
梁田書店も注文をしてくれた書店のひとつだ。
書店回りして営業したものの注文してくれるかはわからない。
まあ出だしは順調と言えるだろう。
今日は注文してくれた書店を小海とともにお礼を兼ねて回っている。
本当だったら、全国の書店に並んでほしい本だが部数の少ない源じぃの本はそうもいかない。三千部だからどうしたって全書店には行き渡らない。
厳しい現実がそこにはある。それでも楽しい。やりがいがある仕事だ。
小海と一緒にいられることも楽しい要因のひとつになっているだろうけど。そこは父に感謝だ。
「梁田さん、今後ともよろしくお願いします」
「やだな、そんな他人行儀な。遼哉くんが小さいときから私は知っているんだよ」
「まあ、そうですけど」
遼哉は頭を掻いて微笑んだ。
「小海ちゃんも知っているじゃないか。まさか、二人で来るとは思わなかったけどね」
「梁田さん、これからは私も度々お邪魔しますからね」
「はい、よろしくね」
「それじゃ、そろそろ行きますね。他の書店も行かなきゃいけないですから」
「そうかい、夫婦力を合わせて頑張ってね」
梁田は笑みを浮かべて手を振る。
「ちょっと夫婦じゃないですよ。変なこと言わないでくださいよ」
遼哉は慌てて梁田に言い寄った。それでも顔はにやけていたかもしれない。
「あれ、そうなのかい。親父さんがよろしくなんて言っていたから、てっきりそうなのかと。おや、小海ちゃん」
梁田の言葉に小海の方を振り返ると、不機嫌そうな顔をして「次、行くわよ」とぶっきらぼうに話して行ってしまった。遼哉は梁田にお辞儀をして小海を追いかけた。
「小海、どうした。怒っているのか。父さんがなんか変なこと言ったみたいでごめん」
「怒ってなんてないわよ。それに問題はそこじゃないわよ。遼哉は私のことどう思っているの」
「えっ、どうって」
問題はそこじゃないって、じゃ、どこに怒っているのだろう。えっと……。
「どうせ、遼哉は私のことなんてどうでもいいんでしょ。あんなにはっきり否定しなくたって……」
もしかして、梁田に夫婦じゃないと否定したことを怒っているのだろうか。けど事実だ。でも、もっといい返しがあったかもしれない。
「小海、どうでもいいなんてことはないさ。小海は大切な人だよ。わかっているだろう。さっきはつい照れくさくて否定しちゃって」
「そうなの。ふーん、それならいいわよ。本気で怒っていないから。とにかく書店回りするわよ」
「そうだな。次は、えっと、どこだっけかな」
遼哉は小海の顔色を窺いつつ、予定の書店の確認をした。
本当にもう怒っていないのだろうか。気になってしまう。いやいや、今は仕事だ。しっかり仕事をしなくちゃ。
小海が覗き込んで来て「宝文堂だね」と口にした。もう機嫌は直っているみたいだ。いや、心の内はわからないか。口は災いの元って言うから気をつけなくちゃ。
今日はあと五カ所行く予定だ。源じぃの本が売れて重版かかるといいけど。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる