本の御魂が舞い降りる

景綱

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第三話 溜め息を漏らす本たち

【六】危機に嘆く本の声

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 グレンに跨り樹実渡は宝文堂へとやってきていた。
 聞こえる。
 あちこちから溜め息がこだまする。本たちの嘆き声が飛んでいる。

「ぼくたち、みんなにもう読まれることはないのかな。返品されちゃうのかな」
「そうだよな。保立さん、頑張ってくれていたのに残念だ」
「みんな、諦めちゃだめよ。私は保立さんが元気になって、またこの店を開いてくれると信じているわ」
「そうは言っても、お客さんが来なくてはどうにもならないぞ」
「確かに。俺たちを盗む奴もいるしな。結局、この店は閉ざされる運命なのかもしれないな」
「私たちの命も終わりってことね」
「それは言い過ぎだろう。けど、同じようなことか」

 大きな溜め息が書店中に響き渡った。
 樹実渡もつられるように溜め息を吐く。

 このままではいけない。
 流瀧と火乃花にも話さなきゃ。小海がもう火乃花には話しているかもしれないけど、一度集まって話し合ったほうがいい。遼哉に話して集められるだけ人を集めてもらおうか。多ければ多いほどいい。いい対策が出てくるはずだ。

『ここは、おいらにとっても思い出深い場所だ』

 宝文堂を昔みたいに客があふ場にしたい。
 よし、そうと決まれば家に戻るぞ。

「グレン、帰ろう」

 グレンは「ニャ」と短く鳴き、走り出す。

「えっ、何あれ。可愛い」

 そんな声がどこからか聞こえてきたが気にせずに、グレンの背に揺られて黙考した。
 何かいい方法がみつかるだろうか。保立の息子にも力になってもらいたい。
 保立のところにお見舞いに行って、少し話したほうがいいのだろうか。やっぱり先に遼哉と話すべきかと首を捻る。よし、決めた。遼哉に話そう。

「グレン、家に急げ」

 樹実渡はグレンの耳元でこそっと囁いた。
 グレンは返事をせずにスピードをあげた。少しばかり風が冷たいが我慢しよう。


***


 なるほど。
 樹実渡の話に頷き、天井を見上げた。
 宝文堂をどうにか存続させたい。気持ちは樹実渡と同じだ。
 遼哉はすぐに小海に連絡を取った。

「樹実渡、行くぞ。小海の家で知恵を出し合おう」
「おお」
「ニャ」

 グレンがこっちをじっとみつめていた。まさかと思うが、返事をしたのか。

「グレンも頑張るってさ」
「本当にそんなこと言ったのか。というか、樹実渡は猫の言葉がわかるのか」
「なんとなくそう思ったっだけだ」

 なんとなくか。

「とにかく急ごう」

 遼哉は樹実渡をポケットに入れて、小海の家に向かった。チラッと背後を見遣ると、グレンがついて来ている。本当に不思議な猫だ。


***


 小海の家に着くと、連絡をしていた皆がすでに集まっていた。
 小海はもちろん、ハルと火乃花も自分の家だからいる。
 伴治と朋美と流瀧も御魂三人衆繋がりでいるのはわかる。

 その隣にいる老夫婦は誰だろう。あれ、あの子は美里だ。朋美が呼んだのかもしれない。ということはあの老夫婦は。
 視線に気がついたのか。老夫婦がニコリとしてお辞儀をした。

「はじめまして、美里の祖父です。佐々木徳治ささきとくじといいます。で、妻の真理子まりこです」

 紹介された真理子が頭を下げてきた。

「その節は孫の美里がお世話になりました。本当にありがとうございました」
「あ、いえ。そんなお礼を言われるようなことはしていませんから。お礼なら小海と本の御魂三人衆にしてください」
「御魂三人衆ですか」
「ああ、あの、あそこの人形みたいな三人のことです」
「ああ、あの子たちのことですか」

 なんとも心が落ち着く笑顔をする二人だ。きっと、話は聞いていたのだろう。驚いてはいない。ただ、御魂三人衆に目が釘付けだ。

 この二人なら美里の心も少しは救われただろう。金持ちだと聞いていたからちょっと心配ではあったがそれは杞憂きゆうだったようだ。金持ちっていうとなんとなく自分本位で独裁的なイメージを持ってしまうけど、それは単なる偏見だとこの老夫婦を見ると気づかされる。ドラマを観過ぎだろうか。
 思わず『すみません』と謝りたくなってしまう。

「それでは、皆さん。そろそろ話し合いをはじめましょうか」

 流瀧の言葉に一同頷く。
 えっと、今ここにいるのは御魂三人衆を入れて全部で十一人か。

「ニャニャ」
「あっ、おまえもいたな」

 頭を撫でて口角を上げた。
 遼哉は全員の顔を見回して、あれっと思う。

 そういえば宝文堂の息子の達哉がいない。小海が連絡してくれたはずだが来ていないのか。これから来るのだろうか。それとも断られたのか。
 当事者が来ないとはじまらない。どうしたものか。先にいろいろと案を出しておくのもいいのか。

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