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第三話 溜め息を漏らす本たち
【七】書店継続できるのか
しおりを挟む「小海、達哉さんにも連絡したんだよな」
「うん、したよ。けど、私たちの問題ですから放っておいてくださいって怒鳴られちゃったんだよね」
そうなのか。宝文堂を続けるつもりはないのだろうか。それだと今こうして集まった意味はないのかもしれない。
店主も同じ思いなのだろうか。
一人ではやっぱり無理だろう。息子の助けが必要だ。問題はそれだけじゃないか。
閉店は避けられないのだろうか。
なくなってほしくないという思いは自分たちのエゴなのだろうか。
「皆さん、今日はわざわざ集まっていただきありがとうございます。ただ、当事者の保立達哉さんが来ないとなると私たちだけで勝手に話を進めるのもどうかと思うんですが。どうしましょうか」
「遼哉、おいらはそれでも宝文堂の存続を希望するぞ」
樹実渡が一歩前に出て言い放つ。続いて火乃花も眉間に皺を寄せて言い寄ってきた。
「私もよ。宝文堂の本たちを見殺しになんて出来ないわ」
おいおい、こっちに突っかかってくるんじゃない。自分が悪さしているみたいじゃないか。相変わらず熱いな火乃花は。
流瀧は何も発言せずに、じっと目を閉じている。どうするべきか考えているのだろうか。難しい問題だから当然か。
「こればっかりは保立さんが決めることですからねぇ。閉店するとなればダメだとは言えませんねぇ」
ハルの言う通りだ。
「寂しいものだ。保立さんが閉店すると言うなら誰かがあの書店を引き継ぐってのはどうなのだろうか」
「引き継ぐ?」
なるほど、そういう考え方もあるのか。伴治をみつめ天井を仰ぎ見る。
「それはいいかもしれませんよ」
「ハルさん、そうですね」
佐々木夫妻が同意して頷いている。
「けど、誰がやるの」
美里が疑問を投げかけてきて、再び考え込んでしまう。
確かにそうだ。引き継ぐなんて簡単にできることじゃない。自分がと言い出せないことに情けなさを感じた。
「おいらがやる」
樹実渡がすかさず手を上げたが、皆の視線にすぐに手を引っ込めた。
樹実渡の気持ちはわかるが、無理だろう。そのことに本人も気づいたのだろうけど。
「やっぱり息子さんが引き継ぐのが一番いいんだよね」
小海の呟きに、頷き溜め息を漏らす。
そうなのだが、おそらくその気はないのだろう。その気があるのなら、この場に来ているはずだ。
「あの私たちがやっても構わないのですが、体力的に毎日はちょっと」
「えっ、お祖父ちゃんたちが」
徳治の発言に美里が目を見開き無理だと言い放つ。
「なら、ここにいる人達が交代でやっていくってのはどうなの」
朋美の言葉にそれだと言いかけたが、すぐにどうだろうと思ってしまった。
うまくいくだろうか。ここにいる全員書店で働いた経験はない。それに経営するとなるといろいろと問題が山積みだ。アルバイトで働くのとはわけが違う。
「やはり存続させるのなら、保立店主がいなくてはダメだな。息子と交えてじっくり話したほうがいい」
流瀧の落ち着きある声が響く。
正論だ。間違いなくそうしたほうがいい。
「保立さんのところにお見舞いしに行きましょうよ。けど、容態がもう少し落ち着いてからのほうがいいのかな」
「そうだな、小海。それがいい」
遼哉は同意すると全員を見回した。皆、頷いている。樹実渡も渋々だが頷いていた。樹実渡の耳には宝文堂にいる本たちの叫び声が届いているのかもしれない。樹実渡だけじゃない。流瀧も火乃花も沈んだ顔をしている。
今日の樹実渡はいつもと違う。
『美味いもの食べよう』との言葉が出てこない。
宝文堂の存続が危ぶまれていることが余程辛いのだろう。本たちの声が聞えてこない自分にはよくわからないけど、存続を願う気持ちは一緒だ。
「ちょっといいですか」
流瀧が手を上げている。
「どうした、流瀧」
「もしも宝文堂を再開した場合の話なのですが、そのときは力になれると思うのです。グレンをマスコットとして僕たちも一緒に書店に行けば、おそらく客が噂を聞いて来ると思うのです。グレンの肉球印と本の御魂三人衆のサイン付きブックカバーとか作成すれば本も売れるのではないでしょうか。あくまでも僕個人の意見ですけど」
「それ、いいね」
目を輝かせた小海が、前のめりになって頷いていた。
確かに、それはいい考えだ。皆も「いいね」と頷き合っている。保立親子次第だが。
「書店を続けるかどうかはわからないが、保立さんにその話をしてみよう。まずはそれからだな」
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