本の御魂が舞い降りる

景綱

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第三話 溜め息を漏らす本たち

【八】宝文堂を閉店にするな(一)

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 えっと、このあたりのはずだけど。

 遼哉は保立幹夫みきおの病室を探しつつ歩みを進めた。

「ここだ」

 小海と目を合わせて頷き中へ入る。
 六人部屋の一番奥右側に幹夫はいた。そこには息子の達哉もいた。これは丁度いい。宝文堂の今後のことが訊けるかもしれない。

「おや、遼哉くんに小海ちゃんじゃないかい。わざわざ来てくれなくてもよかったのに。ほら、達哉、この二人が救急車を呼んでくれたんだよ。お礼を言いなさい」
「今回は本当にありがとうございました」

 達哉は深々とお辞儀をしたが、どこか素っ気なく感じた。

「そんな、お礼だなんて。当たり前のことをしただけですから。本当に元気そうでよかったです」
「遼哉くん、ありがとうね。小海ちゃんも」
「私はたいしたことしていないですから」

 手を振り、小海は苦笑いを浮かべていた。
 だいぶ顔色もいいし、順調に回復しているようだ。おそらく樹実渡の力のおかげでもあるのだろう。遼哉は胸を撫で下ろして小さく息を吐く。

 問題は、宝文堂のことだ。
 すぐに訊きたいのになかなか言い出せない。世間話ばかりが続いてしまう。それは小海も同じなのだろう。チラチラとこっちに目を向けている。
 早いところ切り出さなくてはいけない。

「そうだ、遼哉くん。源蔵さんの本が発売したっていうのに店を開けられなくてごめんよ」
「いえ、それは気にしないでください」

 今だ。訊き出すチャンスだ。そう思い、言葉を続けた。

「それよりも、あの、ちょっと訊きたいことがあるんですけど」
「何かな」

 心臓の鼓動が速まっていく。

『落ち着け、大丈夫だ』

 遼哉は生唾を呑み込み、意を決すると言葉を喉奥から吐き出した。

「宝文堂は今後どうするつもりでしょうか。閉店してしまうのか心配で」

 一瞬、達哉の眉間に皺が寄った気がした。あまり触れられたくない話題なのだろう。
 幹夫のほうはまるで違った反応だった。笑みを浮かべて答えてくれた。

「ありがとうね。心配してくれて。宝文堂か。あそこは私にとっての人生が詰まった店だからね。正直、閉店はしたくはない。だけど、この身体じゃ無理は出来なさそうだし。どうしたものか」

 そこまで話してチラッと息子の達哉に目を向けた。書店を引き継ぐ気はやっぱりなさそうだ。そんな顔をしている。

「やっぱり店は閉めることになるんだろうな」
「そうですか。残念です」

 幹夫の溜め息が床へと落ちていく。錯覚だろうけど、そう見えた。

『達哉さんが引き継いではくれないのですか』

 その言葉をグッと喉の奥へ呑み込んだ。言いたいけど言えない。横にいた小海が何かを言いかけようとするのを肩に手を置き、頭を左右に振った。
 無理強いはできない。

「お願いだ、宝文堂をやめないでくれ。本たちの願いを聞き入れてくれ。なあ、頼むから息子だろう。引き継いでくれよ。協力するから」

 突然、樹実渡が幹夫の寝ているベッド上に現れて、幹夫と達哉を交互に見遣り訴えはじめた。樹実渡の瞳が潤んでいる。

 保立親子は口をポカンと開けて樹実渡に釘付けだ。
 いきなり人形が現れて話し出すのだから当然だ。

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