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第三話 溜め息を漏らす本たち
【九】宝文堂を閉店にするな(二)
しおりを挟む「樹実渡」
必死に訴える樹実渡に心が締め付けられるようだった。やめろとは言えなかった。いつもだったら火乃花がするようなことを樹実渡がするなんて。
本たちの悲痛な気持ちが樹実渡をそうさせるのだろうか。宝文堂の本たちはどんな思いでいるのだろう。気にはなるが、自分に声が届くことはない。残念だ。
「なあ、頼むって。おいらたちがあの店を盛り上げれば客だってくるさ。売り上げだって伸びるはずだ。源蔵の書いた本から飛び出た本の御魂三人衆が、宝文堂に参上とでもネットに投稿すればうまくいく。相棒の猫のグレンも看板猫になるから、猫好きも集まってくるはずだ。な、いい考えだろう。ここには来ていないが、本の御魂三人衆の流瀧が考えた案だ。賢い流瀧の案だ。うまくいくはずだ」
小海までが前のめりになっている。
「そうですよ、保立さん。私も手伝いますから。宝文堂ならではの特典をつければ本の売り上げもアップするはずです」
「小海の言う通りだ。流瀧はおいらたちのサインと看板猫グレンの肉球印入りのブックカバーを作る案も出していた。欲しがる客は多いはずだ。な、閉店なんて言わないでくれ。頼む」
保立親子はお互いに目を合せてどうすべきか考えあぐねいているようだ。違うのだろうか。困惑しているだけなのだろうか。
樹実渡を見遣り、保立親子に向き直る。
驚きすぎて、話が頭に入っていかない可能性もあるか。
どうする。一旦落ち着かせたほうがいいのか。それとも、ここはもう一押ししたほうが得策か。
わからない。どうすりゃいい。
ああ、もう。どうにでもなれ。
この気持ちを抑えられない。言ってしまえ。
「やってみる価値はあると思いますよ。保立さんは書店に座っているだけでもかまいませんから。俺もですが、小海も力を貸します。他にも協力してくれる人達がいます。ハルさんや伴治さんは知っていますよね。まだ知り合ったばかりですが、佐々木夫妻もいるんです。皆、宝文堂が好きなんですよ。もしかしたら、もっと協力してくれる人がいるかもしれません。だから、お願いします」
幹夫は遼哉の言葉に顔をあげてみつめてきた。
「ハルさんと伴治さんもかい。よく知っているとも、何度も宝文堂に足を運んでくれている。それと、佐々木夫妻というのはもしかして大手印刷会社の人じゃ」
「知っているんですか」
幹夫は頷き、金持ちのわりに庶民的で本好きな夫婦だと話した。そうか、佐々木夫妻も常連さんだったのか。
「ちょっと待って、父さん。それにあなたたちも勝手に話を進めないでください。無理です。この問題は簡単ではないです」
息子の達哉が少し怒り口調で口を挟んできた。
やはり反対なのか。
「そんなことやってみないとわからない」
樹実渡にしては珍しく声を荒げて、身を乗り出していた。達哉は目を見開き、一歩後ろへ下がって口を閉ざした。
「樹実渡、落ち着いて」
「あ、すまない」
やり過ぎたと思ったのか樹実渡は申し訳なさそうに俯いた。
「気持ちはわかるよ」
遼哉は樹実渡の肩に手を添えて頷くと、樹実渡は涙目でこくりと頷き返してきた。
幹夫が大きく息を吐き出して、笑みをこっちへ向けた。
「なんだか力を分けて貰えた気分だ。もう少しだけ頑張ってみるか。そう思えてきたよ。なぁ、達哉。力を貸してくれないか」
「父さん、本気なのか。大丈夫なのか」
「ああ、宝文堂は私の生きがいだからな」
笑顔の幹夫がそこにいた。
「ほ、本当か。本当の本当に、本当か。聞き間違いじゃないよな。おいらの耳ついているよな。幻聴じゃないよな。頑張ってみるって言ったよな。岩盤浴するって言ったんじゃないよな。ガンガン耳鳴りがするとも言っていないよな」
樹実渡が興奮してわけのわからない言葉を連発している。
「父さん、ダメだよ。やっぱり無理だって。俺は手伝えないから」
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