本の御魂が舞い降りる

景綱

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第三話 溜め息を漏らす本たち

【十一】宝文堂、再開

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 いよいよ、宝文堂が再び開かれる。
 幹夫は大丈夫だろうか。まだ退院してそんなに経っていない。ヤル気満々で元気そうだが、正直不安だ。無理していなけりゃいいけど。

 とりあえず、座っていてもらうだけでいい。あとはこっちでやろう。
 遼哉は、店内を見回して頬を緩ませた。

 この一週間、大忙しだった。それなのに不思議と疲れはない。
 本の返品やらブックカバー作成やら店の掃除やら、いろいろと頑張った。その中でも本のディスプレイには力を入れた。

 店内をもう一度見回して、みんなの姿を確認する。
 ハルや伴治、小海に御魂三人衆。近所の人たちもいる。
 自分だけではおそらくうまくはいかなかっただろう。

 出版社の仕事もあったから、毎日はここへ来ることはできなかった。一番頑張ってくれたのは、本の御魂三人衆だろう。

 宝文堂には行けなくてもやれることをやった。
 自分の仕事の合間に宝文堂のホームページを作り、看板猫のグレンの写真と本の御魂三人衆の写真を載せた。

 本の購入者には特製ブックカバーを百名様にプレゼントとの記載もした。いろんなSNSを使い宣伝をした。
 うまくいくのだろうかとの思いも正直あったが、それはそのときに考えようと小海とも話していた。

 あとはグレンが入り口で看板猫として客を呼び込んでくれればいい。
 呼び込むほどの通行人はいないか。ネットを見たという客が来ることを祈るしかない。来た客がグレンのことをSNSで拡散してくれることを期待しよう。

 そうそう、本の御魂三人衆は店内には出ずに、設置したモニターで挨拶することにした。映像ならば、実際に動いて話す人形がいるとは思わないだろう。作られたものと思ってくれるはず。

 ブックカバーにサインする流瀧、樹実渡、火乃花が映し出されている。源じぃの本の『御魂とともに』と『本の御魂』の宣伝も兼ねての映像だ。

 一番目立つところにセッティングさせてもらえた。幹夫に感謝だ。

「保立さん、そろそろ開店です。今日は俺と小海が手伝いますのでよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく。だが、仕事の方は大丈夫なのかい」
「これも源じぃの本の営業ということで了解はもらっていますから大丈夫です」

 入り口横に設置された台にはちょこんと座ったグレンが客の訪れを待っている。本当に賢い猫だ。

「みなさん、お疲れ様でした。あとは自分たちがやりますので」

 近所の人たちが、お辞儀をして帰っていく。

「私たちはもうちょっといるからねぇ。ねぇ、伴治さん」

 ハルは微笑み伴治の肩に手を置いていた。

「おうよ。と言っても、何をしていいかわからんけどな」

 伴治は大口を開けて笑っていた。
 よし、これからだ。
 気合いを入れたところで、足元を駆けて行く御魂三人衆に目を向けた。

「ちょっと、三人とも早く裏に行ってくれないと」
「わかっています。さあ、行きましょう」

 流瀧はOKサインを出して、樹実渡、火乃花を引き連れてバックヤードに消えていく。

 遼哉は十時になったことを確認すると、自動ドアの電源スイッチを入れて店を開けた。
 一番目の客が来たと思ったら、佐々木夫妻だった。

「今日は、お客として来たんですからね。源蔵さんの本を買わせてもらいますよ。あ、そうそうブックカバーは他のお客様にね」

 そう話して微笑んでいた。
 他に客は見当たらない。大丈夫、きっとこれから来るさ。


***


 結局、午前中に来た客は近所の人が三人とネットを見て来た客が二人だけだった。
 もっと来ると思ったのに残念だ。

 ホームぺージを確認したところ閲覧者はたったの十二名だった。そう簡単にはいかないか。宝文堂のホームページが知られていない状態だから閲覧者も少ないってことか。

 考えてみたら当たり前だ。先日作ったばかりのホームページだ。有名人でも宣伝してくれれば違ってくるのだろうけど。

 ツイッターも同じだ。
 宝文堂のツイッターを知らなきゃ誰も見てはくれない。見ないということは拡散もされない。

 どうする。近所に有名人はいない。源じぃもそれほど有名ってわけでもないだろう。その前に源じぃはSNSをしていなかった。

 遼哉は肩を落として大きく息を吐く。
 知り合いにインフルエンサーでもいたら違ったかもしれない。

 このままではまずい。
 宝文堂は閉店する運命にあるのだろうか。何を言っている。まだ諦めるには早い。何か策を考えなくては。

「遼哉くん、いろいろありがとうね。もう十分だよ。こんな田舎町までわざわざ足を運ぶ客はいないさ。五人の客が来て五人とも本を買ってくれただけでも今の宝文堂にはありがたいことだ。一日売り上げがないってこともあるんだから」
「保立さん、俺はまだ諦めてはいませんよ。もう少し頑張りましょうよ」

 幹夫は力ない笑みを浮かべて頷いた。

「そうだな。まだ一日目だし。諦めるには早いか」

 遼哉も頷き返す。

『頑張りましょう』か。そう言ったものの、本当に大丈夫だろうか。
 正直、いい策が思い浮かばない。今のままでは何も変わらない。小海にも話してみたが、同じだった。

 どうにかしなくては。
 たくさんの人に届く宣伝方法はないのだろうか。


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