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第三話 溜め息を漏らす本たち
【十二】新たな作戦
しおりを挟む「おいらに考えがある」
いつの間にか、足元に樹実渡がいた。
「樹実渡、ダメじゃないか。誰かに見られたら大変だぞ」
「わかっているさ。けど、それが一番の客寄せになるってもんだ。きっと遼哉が考えているSNSとかいうもので大騒ぎになるはずだ」
樹実渡はグレンに跨り「行くぞ」と叫ぶ。
『行く』ってどこに。
なにやら旗らしきものを掲げている。
あれはもしかしてブックカバーか。旗じゃない。割り箸にブックカバーを貼りつけてあるのか。
「おい、樹実渡」
「大丈夫だ、人形のふりをするからさ。それでも宣伝効果ばっちりのはずだ」
樹実渡は振り返ってブックカバーの旗を揺らせて行ってしまった。
「おい、待てって」
呼びかけたのに、グレンに跨る樹実渡はどんどん遠ざかっていく。
どうするつもりなのだろう。一番の客寄せになるって。宣伝効果ばっちりって。
大丈夫だろうか。
もしかして、あいつはわざわざ人の目に触れさせて宝文堂の宣伝をするつもりなのか。だからブックカバーを旗のようにして持っていったのか。ブックカバーには書店名も書かれている。
あんな姿を見たら、絶対に写真を撮りたくなる。猫に跨る人形か。しかも、宝文堂の特製ブックカバーを掲げているとなれば。
なるほど、そういうことか。写真を撮った人はきっとツイッターとかインスタグラムとかブログに投稿するだろう。拡散されるはずだ。それを見た人たちは、グレンと樹実渡に会いたいと思うはずだ。
うまくいくかもしれない。気がかりではあるが、いい方法と言える。
宝文堂の文字を見て、ここに来るかもしれない。本を購入してくれるかはわからないけれど、来てくれるだけでもいい。来さえすれば、本を売り込むチャンスが舞い込んでくる。
樹実渡の奴。うまいこと考えたものだ。まだ成功するとは限らないが、なにかしらの効果が期待できそうだ。
「もう樹実渡にやられたわ。暴走するのは私の役目なのに」
火乃花は怒った口調のわりには顔は笑っていた。
「仕方がない奴ですね」
そう言いつつも流瀧は笑みを浮かべていた。
「流瀧、私たちも宣伝しに行きましょうよ」
「僕たちも、ですか」
「そうよ、じっとなんかしていられないわよ」
「けど、グレンはいないのですよ。僕たちが走ってもあまり遠くまではいけないですよ」
「大丈夫よ。私ね、猫の友達出来たの。というか、グレンの友達と言ったほうがいいかもしれないけどね。呼んだからすぐ来ると思うわよ。あっ、ほら来た」
火乃花の指差す先には確かに猫の姿があった。白猫と茶トラ猫が走って来るところだった。
「行くわよ」
「火乃花、宣伝するのであればブックカバーの旗が必要ですよ」
「あっ、そうね。じゃ、作ろう」
火乃花がバックヤードに戻っていく。
「すみません、遼哉。三枚ブックカバーが不足してしまいますが、これも宣伝のためです。使わせてもらいます」
「心配するな。何かトラブルあったときのために余分に作ってあるから、三枚くらい問題ない」
「流石ですね」
「出来たわよ、流瀧。行くわよ」
火乃花がブックカバーの旗をふたつ掲げて叫んでいる。
「それでは、行ってきます」
「ふたりとも、人形のふりをするんだぞ。絶対に動かないようにな」
「わかっているわよ、任せて」
火乃花は笑みを浮かべて白猫に跨り走って行った。その後を流瀧は茶トラ猫に跨り走っていく。突き当りの丁字路で左右に分かれて行く姿が見えた。どうやら別方面に向かうようだ。おそらく流瀧がそう話したのだろう。
火乃花はずっと動かず黙っていられるだろうか。ものすごく心配だ。そうなったら、どうするか考えておいたほうがいいだろうか。
流瀧と火乃花がいなくなっても丁字路をしばらく見ていたら、幹夫がそばにきてポンと肩を軽く叩いた。
「本当にありがたいことだ。あの子らにも遼哉くんにも小海ちゃんにも感謝してもしきれない」
「感謝だなんてとんでもない。無理させてしまっているんじゃないかって心配していたんですよ。それに皆、この宝文堂をなくしたくないだけですから」
「無理だなんて、そんなことはないよ。私は嬉しくてたまらないよ」
よかった。こんなにも喜んでくれているのならそれだけでも成功だ。
もしも閉店になったとしてもいい思い出になる。
違う、ダメだ。
どうにかここに客が戻ってくるような書店にしなくては。本の御魂三人衆の頑張りに期待したい。
「遼哉、そんなところにいつまでも立っていないで手伝って。お客さんが来る前に源蔵さんの本をもっと前面に押し出して売り込む準備するわよ」
小海の声が背後から飛んでくる。
遼哉は頷き「保立さん、いいですよね」と同意を求めた。
「もちろん」
このために源じぃの本をたくさん事前に持ち込んでいた。『御魂のままに』と『本の御魂』のサイン本も十冊ずつ用意している。
源じぃのサインではなく本の御魂三人衆のサインだ。
グレンは関係ないけど、グレンの肉球印も押してある。すでに目立つ位置に本を並べてはいたが、小海は更にスペースを拡大して展開するつもりでいるようだ。
チラッと横を見ると、幹夫もなにやら本を置き直しているようだ。猫関連の小説、エッセイ、雑誌、絵本などを一ヶ所に集めて何冊か表紙が見えるようにしている。なるほど、グレンが看板猫だから、猫好きが買っていくかもしれない。
今度こそ、うまくいくはずだ。客が来ることを祈ろう。
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