本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
81 / 161
第三話 溜め息を漏らす本たち

【十五】宣伝はまだ始まったばかり

しおりを挟む

 駅前商店街に差し掛かったとき、たくさんの視線がこっちへ向けられた。

「うわっ、まただ。今度は巫女さんの人形が乗っている。これって何かのイベントなの」
「かわいい」

 火乃花は『ありがとう』と手を振りそうになり、すぐにやめた。
 危ない、危ない。流瀧に怒られちゃうところだった。

「ねぇ、さっきの黄色い人形も同じ旗持ってなかった。あれ、なんだろうね」

 どうやら樹実渡は商店街に来ていたみたい。
 この辺にまだいるのだろうか。それらしき姿は見えない。駅前にでも向かったのだろうか。そうであってほしい。樹実渡も神社に行っていたらどうしよう。

 ううん、大丈夫。
 もしも、行っていたとしても自分たちのことが強く頭に残るだろう。そう考えれば作戦は成功。

「白ちゃん、ちょっとスピード緩めてね。写真撮ろうとしている人が結構いるから」

 火乃花の囁きに白猫が「ニャニャン」と応えてゆっくりと歩き出す。
 カシャ、カシャとのシャッター音があっちからもそっちからも鳴り響く。

 なんだかモデルにでもなった気分で心地いい。違う、違う。気持ちよくなっている場合じゃないでしょ。ここは頑張って宣伝しなきゃ。

 気づかれないようにブックカバーの旗が写るように向きを変えつつ、しばらく商店街を移動した。
 そろそろいいだろう。

 火乃花は「神社に向かってくれる」と白猫の耳元で囁く。白猫は頷き、足を速めて神社へと続く道へと入っていった。
 背後から「待ってよ」との声がしたが気にしないことにした。


***


 駅前に来たはいいが、思ったよりも人が少ない。田舎町の駅だからこんなものか。
 選択を誤っただろうか。こっちじゃなかったか。
 樹実渡は肩を落とし小さく頭を振った。
 商店街に引き返すか。そのほうがいい。

「グレン、すまない。商店街へ戻ろう」

 小声で伝えたところ背後から声がしてビクッとした。

「なんだ、この猫」

 思わず振り返ろうとして、思い留まった。
 危ない、危ない。動いていたらとんでもないことになっていたはずだ。グレンが代わりに振り返ってくれたおかげで、声を発したのがビジネススーツ姿の年配の男性だと判明した。
 営業マンだろうか。思ったよりも至近距離に立っている。

 このままだとまずい。ちょっと離れたほうがいい。どうする。この距離だとグレンに伝える声が聞えてしまう恐れがある。
 ちょっと様子見だ。ここはじっと我慢だ。一番いいのは、グレンが気をきかせて離れてくれたらいいのだが。

「可愛いもんだな」

 笑顔の男性はポケットからスマホを取り出して写真を撮った。

相良さがらさん、どうしたんです」

 もうひとり来てしまった。早くここから立ち去らないとダメだ。グレンの身体を足で軽く蹴ってみた。お願いだから、後ろへ下がってくれ。
 ダメか。動いてくれない。

「ああ、この猫を見てくれよ」
「えっ、なんですか。これって何かの宣伝ですかね」
「そうかもしれないな。宝文堂か。書店のようだが」
「それよりも、そろそろ打ち合わせに早く行ったほうが」
「わかっているよ。じゃ行こう」

 相良と呼ばれた男性は腕時計に目を向けて、チラッとだけこっちに目を向けると立ち去って行った。
 助かった。
 樹実渡は大きく肩で息をして胸を撫で下ろす。

「グレン、駅前を少し歩き回ってから、また商店街に戻ろう」
「フニャ」

 空を見上げて、雲の流れを目で追いかける。
 流瀧と火乃花はどうしているだろうか。そんなことを思いながらグレンの背中の上で揺られていた。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。 目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸 3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。 「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

【完結】冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

退屈令嬢のフィクサーな日々

ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。 直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

処理中です...