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第三話 溜め息を漏らす本たち
【十六】順調、順調
しおりを挟む火乃花は仰け反るようにして鳥居を見上げて、そのまま空の青に目を留める。
いい天気。
のんびりしている場合じゃなかった。というか、誰にも見られていなかっただろうか。
大丈夫。
こっちを見ている人はいない。
宣伝しなきゃ。
いるいる。遼哉が言うSNSとか言うものをやっていそうな女子たちがいる。縁結びの岩だったか。そういう名のパワーある岩があるらしい。
あれか。岩を撫でている女子がいる。手を合わせて願い事をしている女子もいる。なにやら本のようなものを手にしている人もいる。
そうか、あれが御朱印帳ってやつか。最近、流行っているって誰かが話していた。
ふと自分の緋色の巫女の衣装を見て、この場所とぴったりの格好だと頷いた。白猫もなんとなく縁起が良さそうだし。
流瀧が目立つって話をしていたことを思い出し、頬が緩む。
「白ちゃん、いきましょう」
白猫はゆっくりと歩いて行く。
鳥居付近にいた女子が気づき「可愛い」との声をあげた。
そうでしょ、可愛いでしょ。もっと言って。
火乃花はまたしても頬が緩みそうになり、慌てて真顔に戻す。危ない、人形が笑ったなんて思われたら怖がられてしまう。
神社の境内や縁結びの岩にいた女子もこっちを振り向いている。
「写真撮ろうよ」
誰かの声にみんながスマホを取り出して構え始めた。
「白ちゃん、ストップ」
ほら、綺麗に撮ってよ。ブックカバーの旗もしっかり写してよ。
「おや、なんとも珍しい光景ですな。白猫に巫女姿の人形ですか。これもいいご縁と言えるのかもしれませんね」
神主と思われる男性が社務所から顔を覗かしている。
「ねぇ、なんか旗を掲げているけど、何かな」
そんな言葉とともに近づいて来るひとりの女子。ちょっと待って。そこで止まって。火乃花は心の中で願った。
「宝文堂って書いてあるみたいだけど」
ダメだ。これ以上近づけさせたらまずい。『宝文堂』の文字が読めたんだから、もういい。
火乃花は白猫にだけ聞こえるように「本堂のほうにお願い」と囁いた。
白猫は小さく鳴くと小走りに本堂に歩みを進めた。
そうそう、いい感じ。
数人の女子の足下をすり抜けて本堂の前に来た火乃花は手を合わせようとしてやめた。見られている。動いちゃダメ。
『宝文堂にお客さんがたくさん来ますように』
心の中で神様に願い、縁結び岩に行くように白猫に頼んだ。
移動する間も、参拝に来ていた人たちは写真を撮ってくれている。
「ツイッターにアップしなきゃ」とか「インスタにアップしよう」なんて声も耳にした。
順調、順調。良い感じ。
白猫はなぜか縁結び岩に身体を擦り付けていた。もしかして、白猫も良縁を願っているのかもしれない。白猫に負けじと、火乃花も良い人に出会えますようにと心の中で願った。
「かわいい。これ映える」
そんな声が届く。
これも宣伝に繋がるはず。
「そろそろ行くわよ」
白猫は縁結び岩をチラッとみて歩み始める。名残惜しいけど、長居は無用。自分たちばかりが目立ったら神様が嫉妬しちゃうかもしれないし。
火乃花は揺れた反動で傾く感じを演じて、大きな鳥居を見上げ神社をあとにした。
このあとどこへいこうか。
樹実渡と合流するっていうのもありかもしれない。どこにいるだろうか。まだ商店街あたりにいるだろうか。いい匂いしていたし、食いしん坊だからいるかも。
食欲を我慢できているか気にはなる。行ってみよう。
「白ちゃん、もう一度商店街に行ってくれる」
白猫がいつもより大きく鳴いた。なんだか嬉しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。
まさか、何か食べられるって思っているの。
そうえいば、小腹が空いたかも。
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