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第四話 消えた挿絵
【八】風狸はなぜ
しおりを挟む「うわぁ、おまえが風狸なの。カッコイイ」
「そうか、カッコイイか。火乃花、ヒョウ柄なのに狸だぞ。カッコイイというか面白くないか」
「樹実渡よりはカッコイイと思うけど」
「な、なにを。おいらよりはか。否定できないか」
火乃花と樹実渡の会話は聞いているだけで、なんか笑える。
風狸はどう思っているのかわからないけど。
「なんだ、おまえらは。付喪神か」
「はい、そうです。騒がしくてすみません。僕たちは本の御魂三人衆といいます。僕は流瀧です」
流瀧がお辞儀すると、火乃花も樹実渡も名乗ってお辞儀をしていた。
遼哉は不意に周りが気にかかった。ここは集中治療室だ。他の患者もいれば、看護師もいる。大丈夫だろうか。不審がられていないだろうか。
「あまり目立つなよ。他の患者さんや看護師に気づかれるとまずいから」
「そうですね」
同意してくれたのは流瀧だけだった。
気にせず、話し続けている。
「この三人、やっぱり可愛い。そう思わない、ふうちゃん」
葵の言葉に渋々と言った感じで風狸は「んっ、まあ」と返事をしていた。
「本当に、可愛い子たちだこと」
凛子は微笑み会話に混ざった。
それにしても、これはいったいどういうことだろう。
凛子の表情が明るくなっている気がする。不思議と頬に赤みを帯びて血色がよくなっているような。気のせいだろうか。まさか、病気が快復に向かっているのか。そんなことはありえない。そうなってほしいけど、末期癌が治るとしたら奇跡だ。
風狸に目を向けると、ほんの少しだけ口角を上げた。
こいつはいったい、何をした。
凛子の病気を治すために本から抜け出したってことなのか。本当に癌が消え失せたというのか。
奇跡が起きているのか。
真実はわからない。
頭が混乱して、もう何も考えられない。
***
気づけば病院をあとにしていた。正直、何を話したのか覚えていない。凛子と何か話しをしただろうか。大事なことを聞いていたらどうしよう。
まったく、何をしに行ったのか。結局、風狸とも話はできなかった。いや、話したのだろうか。
そうだとしても、凛子が快復に向かっているとしたらまた話せるだろう。
「ねぇ、遼哉。風狸ってさ。なんで凛子のところにいるのかな」
「んっ、なんでって。それは」
「それは、病気を治しにいったんだろう」
「もう樹実渡に訊いてない。私は遼哉と話しているの」
「なんだよ、いいじゃないか」
「まあ、いいけど」
「あっ、そうそう。風狸はなんでまだ凛子のところにいるって言ったんだろう」
「さあね。まだやることがあるんじゃないの。いずれ本に戻るって約束したんだしさ。問題解決じゃないの」
「やることって、何だ。凛子は元気になったみたいだぞ。他に何をするっていうんだよ」
「そんなの知らない」
そうか、風狸はまだ凛子のところにいるのか。戻る約束もしたのか。
なんだか、来た意味がないような。何もしていないけど、解決でいいのか。
やるべきことはやった。今回は大した謎じゃない。そういうことにしよう。
佐久間と源じぃが心配し過ぎたってことか。
「それじゃ、家に帰ろうか」
「一泊していかないのか。じゃないと美味しいもの探しの冒険が出来ないじゃないか。なあ、グレン」
樹実渡は不服そうにそう呟いたが「帰って焼肉でも食べよう」の一言で一変した。
効果覿面の言葉だ。
樹実渡は「よし、焼肉だ」と満面の笑みでグレンに跨り騒いでいる。きっとグレンも喜んでいたはずだ。
風狸のことはよくはわからないが、良い奴なのだろう。きっと、今頃は凛子と昔話に花を咲かせていることだろう。
そう思っていたのだが、その夜に佐久間から凛子が息を引き取ったと一報が届いた。あんなに元気そうだったのに。いや、末期癌だ。元気なはずはない。亡くなる直前に元気になるなんてことを聞いたことがある。凛子もそうだったのかもしれない。
風狸が一時的に元気にさせた可能性もあるのか。
風狸はすべてわかっていたのかもしれない。見送るために一緒にいたのかもしれない。
きっと風狸にとって大切な人だったのだろう。
なんだか気持ちが沈む。
凛子の笑顔と風狸を思い描き、溜め息をひとつ。
そういえば、佐久間は気になることも話していた。
戻ってきていいはずの妖怪風狸の挿絵がそのまま空白になっているという。
いったい、なぜ。約束したはずだ。
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