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第四話 消えた挿絵
【十】これは祝うべきか
しおりを挟む「ふうちゃんが病気を治してくれたんじゃなかったの」
風狸はしょんぼりした顔をして俯いていた。
「どうして、どうして……」
「葵、おばあちゃんはいなくなるけど生まれ変わって帰ってくるから。泣かないでおくれ」
「えっ、生まれ変わるの」
「そうだよ。ふうちゃんがね。生き返りの風をくれたんだよ。病気には効果はなかったけどね。その風が生まれ変わりの通り道を開いてくれてね。運よくすぐに生まれ変われることになったんだよ。だから、泣かないでおくれ」
生まれ変わるのか。風狸はそんな力もあるのか。
待てよ。本当に会えるのか。どこの家に生まれてくるのかわからないだろう。というか、そんなことありえないだろう。なのに信用している自分がいた。
「おばあちゃん、葵、よくわからない。生まれ変わるって何?」
「そうか、わからないか。そうだねぇ。おばあちゃんは、赤ちゃんからまたやり直すんだよ」
葵は少し考えている風だった。
「おばあちゃん、赤ちゃんになっちゃうの」
「まあ、そういうことだねぇ」
凛子は苦笑いを浮かべて頷いている。凛子が赤ちゃんにか。間違いではない。そんな解釈でもいいと思う。
さっきまで頬を膨らませて食べるのに夢中になっていた樹実渡が「風狸が生まれ変わりを手伝うってことか」と言い出した。
風狸は樹実渡に目を向けて二カッとして笑っていた。
「すごいね、そんな力あるんだ」
火乃花は食べながらしゃべったせいで口から食べている物が零れ落ちている。
「汚いですよ。食べるか話すかどっちかにしてください」
「ごめん」
流瀧に注意されて火乃花は俯き、食べるのをやめてしまった。
「そこまで落ち込まないでください。火乃花は笑顔が一番似合うのですから」
「えっ、えっ。そ、そう。そうよね」
再び火乃花は寿司に焼き豚にと頬張りはじめた。なんてわかりやすい性格をしているんだろう。
「本当に可愛い子たちだねぇ」
源じぃのときもそうだったが、こうして凛子と話していることが不思議だ。
優しい眼差しで本の御魂三人衆をみつめる凛子は、今も生きているように思えてしまう。
「ふうちゃん、おばあちゃんをお願いね」
「葵、任せておけ」
佐久間も翔子も話についていけてないのかずっと黙って聞いていた。
任せておけと言っても、やっぱり気にかかる。遼哉は風狸に疑問をぶつけてみた。
「生まれ変わると言っても、どこに生まれ変わるかわからないだろう。会えるかどうかわからないんじゃないのか」
風狸はニヤリとして尻尾を振り上げた。
「それは大丈夫だ。任せておけ。とは言え明日すぐにというわけにはいかない。三ヶ月ほど時間をくれ。あっ、会えるのはもうちょっと先だな。いろいろと準備があるからな」
「そうか」
「ふうちゃん、もうバイバイだよ。そろそろ行くとしましょうかね、風狸」
「そうだな。凛子」
凛子と風狸はお互い見つめ合い、スッと煙のごとく姿を消した。
「行っちゃった」
沈んだ声の葵の頭を小海は優しく撫で微笑んでいる。
葵は涙目になって項垂れている。見ているだけで、こっちまで泣けてきてしまう。
「おばあちゃんにもう会えないのかな」
「大丈夫よ、生まれ変わるって言っていたでしょ。ふうちゃんを信じましょう」
「おばあちゃん、戻ってくるんだよね。本当の本当に戻ってくるんだよね。おねえちゃん」
「きっとね。赤ちゃんになっちゃうけどね」
「うん、そうだね。赤ちゃんになっちゃうんだよね。けど、戻って来るんだよね」
「そうよ」
「ふうちゃんは約束守ってくれるよね」
葵と目が合い、遼哉は頬を緩ませて頷いた。小海も頷いている。
「よっしゃ、湿っぽい話は吹っ飛ばして凛子の生まれ変わりを祝って美味いもの食おう」
樹実渡がマグロの握りを掲げて叫んだ。その隣でもぐもぐと何を言っているのかわからない火乃花がいた。頬張って口を利けないようだ。きっと賛同しているのだろう。口からエビの尻尾が見えているのには笑える。
なんだか火乃花も樹実渡みたいに食いしん坊になってしまったみたいだ。
流瀧だけは冷めた目でふたりを見ている。
何はともあれ、凛子は生まれ変わる。樹実渡の言う通りここは偲ぶ会というよりも生まれ変わることを祝う会としたほうがいいかもしれない。生まれ変わるのはまだ先の話らしいけど。
チラッと葵の様子を見遣ると、いつもの笑顔でいた。
本の御魂三人衆の明るさに葵の涙も消え失せたのだろう。冷めた目でみていた流瀧でさえサーモンの握りを「美味い、美味い」と頬張っていた。
なんだか葬儀をしたあととは思えない雰囲気だ。
これでいい。明るくしていたほうが凛子も喜ぶはずだ。
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