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第四話 消えた挿絵
【二十五】次、行ってみよう
しおりを挟む「葵ちゃん、凛子さんのよく行く神社とか知らないかな」
小海はしゃがみ込み葵に訊ねていた。なんてことない仕種にほっこりする。
「うーん、わかんない」
「そうか」
隣にいた葵の母の翔子が話に割り込み「あの、確か渡海神社にたまに行くようなことを聞いたことがありますよ」と話す。
渡海神社か。この辺の神社なのだろうか。
どんな神社だろう。海とつくから、海の守り神様だろうか。
「それなら、そこに行きましょうよ。きっと力になってくれるはずよ」
火乃花が意気込んで今にも外へ飛び出して行きそうになっているのを引き止めた。
「なに、行くんでしょ」
「そうだけど、火乃花はどこにあるのか知っているのか」
「そうだ、そうだ。知ってるのか」
「なによ、樹実渡まで」
火乃花はふくれっ面をして「知らないけど」と言葉を続けた。
おいおい、知らないのに行こうとしたのか。遼哉は苦笑いを浮かべつつ、火乃花らしいなと思った。
「あの、渡海神社なら知っていますよ。ここから車で十分くらいでしょうか」
佐久間店主の言葉に樹実渡と火乃花が前のめりになって「じゃ行こう」と言い放っていた。その横で、流瀧が仕方ないなとばかりに首を左右に振っている。
***
渡海神社の鳥居の前に車を止めるて降りると、心地よい風が頬を撫でていった。
生い茂る木々が風に揺られて、これまた心地よい音色を醸し出している。
遼哉は天を仰ぎ、深呼吸をした。
「ほお、極相林か」
樹実渡の声に振り返ると看板があった。この森のことを説明しているようだ。
「おいら、ここ好きだな。森が歓迎してくれている」
樹実渡には森の声が聞えているらしい。そう思ったのだが自分にも森の声が聞えてきた。まだ樹実渡から貰った葉の効力は消えていないようだ。
「よく来たな。うれしいぞ」
「ふふふ、可愛い子たちね」
「おや、猫もいるのか。爪とぎさえしなけりゃ歓迎するぞ」
そんな声が四方八方からしていた。
「ねぇ、極相林って普通の森と違うの。あ、森じゃなくて林なのかな」
小海は首を傾げている。
「そうだな、林って感じかもな」
正直、よくわかっていない。森というほど範囲は広くないみたいだし、林なのだろう。けど鎮守の森とか言うよな、こういう場所のこと。まあ、それほど深く考える必要はないか。
翔子も葵もあたりを見回していた。佐久間店主も「なんとも雰囲気ある場所だ」なんて口にしている。
「僕が極相林について説明しましょう」
流瀧が一歩前に出てひとつ咳払いをして話し出す。
樹実渡と火乃花ばかりが目立っているから少しは流瀧も目立ちたかったのかもしれない。ふとそう思ったが、流瀧はそんなことは気にしないのだろうか。
「極相林とは……。
植生は自然のまま放置しておくと群落として次々と生活のパターンを変えていくのです。
苔から始まり、一年草、多年草、低木、高木というように。そして、豊かな土壌の森へとなるのです。この変わり行く末の最終段階が極相林なのです。簡単に言うとそんなところでしょうか」
ふーん、なるほどね。というかこの看板にも説明はあるけど。それは言う必要はないか。流瀧は凄い。それでいい。
「とにかく、すごい場所ってことよね」
小海はいまいちよくわかっていないようだ。すごいことには間違いないだろうけど。この森が出来るまで相当な年月がかかっているのだろう。
流瀧のことを感心していたら、火乃花と樹実渡がグレンに跨って拝殿のほうへ行ってしまった。大丈夫かあいつら。また、無礼者と叱られそうな気がする。
そう思っていたら、急ブレーキをかけたグレンに振り飛ばされて石畳に身体を打ち付けていた。また狛犬にやられたようだ。懲りない奴だ。
まさか狛犬がそんなことをしているとは思っていない小海は「あの二人、なにやっているんだか」とクスクス笑っていた。
翔子も葵も佐久間も笑っている。流瀧は首を左右に振り呆れ顔だ。
さてと、神様に凛子のことをお願いしないと。
拝殿前に来ると二礼二拍手をして手を合わせる。
なんだ。何か来た。
あれは天狗か。天狗がここの神様なのか。
あれ、もう一人来た。女性だ。若い女性だけど夫婦ってわけじゃなさそうだ。
「よくいらしてくださいました。わたくしは綿津見大神のもとで修業をし、ここを任されています。願いはわかりました。綿津見大神に話して見ましょう。そして隣の者は」
女神と思われる女性がチラッと天狗を見遣り話すように促した。
「我は猿田彦大神の眷属の者だ。今、猿田彦大神は留守をしておる。と言っても、ここを任されているのは、猿田彦大神のもとで修業した神様であるが」
神様も修行が必要なのか。浅間神社でもそうだった。
それなら、綿津見大神と猿田彦大神はどこの神社にいるのだろう。一番大きな神社にいるのだろうか。それがどこだかはわからない。どちらにせよ、凛子のことは伝えられるのだろう。うまくいくことを祈るだけだ。
「んっ、グレン。そいつは誰だ」
樹実渡の声に振り返ると、そこにはグレンと向き合っている一匹の三毛猫がいた。見た瞬間、何か不思議な気を感じて少しだけ仰け反ってしまった。まさか、この猫も神様なのか。
三毛猫と目が合うと、一瞬金縛りのように身体が強張ってしまった。目力の強い猫だ。
「おまえたちは凛子の知り合いか。吾輩はネムという。眠多猫と呼ぶ者もいるがな」
えっ、しゃべった。空耳ではない。
あっ、もしかしてこれも樹実渡からもらった葉の効果なのか。なら、グレンもと思いみつめると「ニャ」と鳴いた。
ということは、つまり……どういうことだ。
なんだか混乱してきた。
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