本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
113 / 161
第四話 消えた挿絵

【二十五】次、行ってみよう

しおりを挟む

「葵ちゃん、凛子さんのよく行く神社とか知らないかな」

 小海はしゃがみ込み葵に訊ねていた。なんてことない仕種にほっこりする。

「うーん、わかんない」
「そうか」

 隣にいた葵の母の翔子が話に割り込み「あの、確か渡海とかい神社にたまに行くようなことを聞いたことがありますよ」と話す。

 渡海神社か。この辺の神社なのだろうか。
 どんな神社だろう。海とつくから、海の守り神様だろうか。

「それなら、そこに行きましょうよ。きっと力になってくれるはずよ」

 火乃花が意気込んで今にも外へ飛び出して行きそうになっているのを引き止めた。

「なに、行くんでしょ」
「そうだけど、火乃花はどこにあるのか知っているのか」
「そうだ、そうだ。知ってるのか」
「なによ、樹実渡まで」

 火乃花はふくれっ面をして「知らないけど」と言葉を続けた。
 おいおい、知らないのに行こうとしたのか。遼哉は苦笑いを浮かべつつ、火乃花らしいなと思った。

「あの、渡海神社なら知っていますよ。ここから車で十分くらいでしょうか」

 佐久間店主の言葉に樹実渡と火乃花が前のめりになって「じゃ行こう」と言い放っていた。その横で、流瀧が仕方ないなとばかりに首を左右に振っている。


***


 渡海神社の鳥居の前に車を止めるて降りると、心地よい風が頬を撫でていった。
 生い茂る木々が風に揺られて、これまた心地よい音色を醸し出している。
 遼哉は天を仰ぎ、深呼吸をした。

「ほお、極相林きょくそうりんか」

 樹実渡の声に振り返ると看板があった。この森のことを説明しているようだ。

「おいら、ここ好きだな。森が歓迎してくれている」

 樹実渡には森の声が聞えているらしい。そう思ったのだが自分にも森の声が聞えてきた。まだ樹実渡から貰った葉の効力は消えていないようだ。

「よく来たな。うれしいぞ」
「ふふふ、可愛い子たちね」
「おや、猫もいるのか。爪とぎさえしなけりゃ歓迎するぞ」

 そんな声が四方八方からしていた。

「ねぇ、極相林って普通の森と違うの。あ、森じゃなくて林なのかな」

 小海は首を傾げている。

「そうだな、林って感じかもな」

 正直、よくわかっていない。森というほど範囲は広くないみたいだし、林なのだろう。けど鎮守の森とか言うよな、こういう場所のこと。まあ、それほど深く考える必要はないか。

 翔子も葵もあたりを見回していた。佐久間店主も「なんとも雰囲気ある場所だ」なんて口にしている。

「僕が極相林について説明しましょう」

 流瀧が一歩前に出てひとつ咳払いをして話し出す。
 樹実渡と火乃花ばかりが目立っているから少しは流瀧も目立ちたかったのかもしれない。ふとそう思ったが、流瀧はそんなことは気にしないのだろうか。

「極相林とは……。
 植生は自然のまま放置しておくと群落として次々と生活のパターンを変えていくのです。
 苔から始まり、一年草、多年草、低木、高木というように。そして、豊かな土壌の森へとなるのです。この変わり行く末の最終段階が極相林なのです。簡単に言うとそんなところでしょうか」

 ふーん、なるほどね。というかこの看板にも説明はあるけど。それは言う必要はないか。流瀧は凄い。それでいい。

「とにかく、すごい場所ってことよね」

 小海はいまいちよくわかっていないようだ。すごいことには間違いないだろうけど。この森が出来るまで相当な年月がかかっているのだろう。

 流瀧のことを感心していたら、火乃花と樹実渡がグレンに跨って拝殿のほうへ行ってしまった。大丈夫かあいつら。また、無礼者と叱られそうな気がする。

 そう思っていたら、急ブレーキをかけたグレンに振り飛ばされて石畳に身体を打ち付けていた。また狛犬にやられたようだ。懲りない奴だ。
 まさか狛犬がそんなことをしているとは思っていない小海は「あの二人、なにやっているんだか」とクスクス笑っていた。

 翔子も葵も佐久間も笑っている。流瀧は首を左右に振り呆れ顔だ。
 さてと、神様に凛子のことをお願いしないと。

 拝殿前に来ると二礼二拍手をして手を合わせる。
 なんだ。何か来た。
 あれは天狗か。天狗がここの神様なのか。

 あれ、もう一人来た。女性だ。若い女性だけど夫婦ってわけじゃなさそうだ。

「よくいらしてくださいました。わたくしは綿津見大神わたつみのおおかみのもとで修業をし、ここを任されています。願いはわかりました。綿津見大神に話して見ましょう。そして隣の者は」

 女神と思われる女性がチラッと天狗を見遣り話すように促した。

「我は猿田彦大神さるたひこのおおかみの眷属の者だ。今、猿田彦大神は留守をしておる。と言っても、ここを任されているのは、猿田彦大神のもとで修業した神様であるが」

 神様も修行が必要なのか。浅間神社でもそうだった。
 それなら、綿津見大神と猿田彦大神はどこの神社にいるのだろう。一番大きな神社にいるのだろうか。それがどこだかはわからない。どちらにせよ、凛子のことは伝えられるのだろう。うまくいくことを祈るだけだ。

「んっ、グレン。そいつは誰だ」

 樹実渡の声に振り返ると、そこにはグレンと向き合っている一匹の三毛猫がいた。見た瞬間、何か不思議な気を感じて少しだけ仰け反ってしまった。まさか、この猫も神様なのか。
 三毛猫と目が合うと、一瞬金縛りのように身体が強張ってしまった。目力の強い猫だ。

「おまえたちは凛子の知り合いか。吾輩はネムという。眠多猫ねむたねこと呼ぶ者もいるがな」

 えっ、しゃべった。空耳ではない。
 あっ、もしかしてこれも樹実渡からもらった葉の効果なのか。なら、グレンもと思いみつめると「ニャ」と鳴いた。

 ということは、つまり……どういうことだ。
 なんだか混乱してきた。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

処理中です...