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第四話 消えた挿絵
【三十五】めでたい、めでたい
しおりを挟む遼哉はパソコンのキーボードを打つ手を止めた。
第一話、完了。
まさか、父が『本の御魂』の続編を書いてみるつもりはないかなんて打診してくるとは思わなかった。
睡眠時間を削っての執筆は辛いが、嬉しい悲鳴だ。
とりあえず、一話を書き上げることが出来た。とは言え、見直しはしなくてはいけない。
今まで本の御魂三人衆と経験してきたことを書いているだけって感じだが、それだけでもファンタジーの世界観はある。謎あるストーリーと考えるのなら、ミステリーとも言えるのだろうか。
今日はこれくらいにしておこう。遼哉はそのまま寝転がり大の字になる。
見直しは少し時間をおいてからのほうがいいだろう。
大きく息を吸い込み、天井をみつめた。
あれから一年か。
凛子は生まれ変われたのだろうか。これといって情報はない。
考えてみれば、どこに生まれてくるかなんてわからない。神様が教えてくれれば別だが、そんな特別扱いはしてくれないだろう。浅間神社にでも行けば、教えてくれるだろうか。
また佐久間のところに行ってみるのもいいかもしれない。
さてと、そろそろ寝るか。
もう三時を回っている。朝になったらグレンか樹実渡に起こされるから、早いところ寝るべきだ。
「うっ」
乗っかって来たのはグレンか。みぞおちに入った。顔を歪めて、走り去ったあとを見遣る。
こんな夜中に何をしているんだ。
開けっ放しにされた部屋の扉に目を向けると、グレンが顔だけ出してこっちを見ている。
「グレン」
遼哉は手招きをしてグレンを呼んだ。すると、グレンの背中には樹実渡がいた。
「ごめん、痛かったか」
樹実渡が申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「大丈夫だ。けど何をしているんだよ、こんな夜中に」
「暇だったから、昼間観た競馬の真似をして遊んでいた」
「まったく、遊ぶなら昼間にしろ」
「だって、遼哉が起きているからおいらも起きていようかと」
しかたがない奴だ。気遣っているつもりか。その気持ちは嬉しいけど。
「いいから、寝ろ。俺ももう寝る」
「そうか、わかった」
***
鼻の頭を何かが撫でていく。
なんだろう。ザラリとした感じがした。
夢か。
違うか。眠いんだからやめてくれ。
再び、何かが撫でていく。
遼哉はハッとして目を覚ます。目の前にグレンの顔があった。もしかして、グレンが嘗めたのか。今日は肉球じゃなくて舌で起こしにきたか。
グレンの顔が近づき、ペロンと鼻の頭を嘗めた。
「わかった、起きるよ」
正直、ザラリとしてちょっと痛い。それでも可愛い奴だと思ってしまう。
時計の針は七時五分前。四時間くらいしか寝ていないのか。
大欠伸をしてグレンの頭をポンポンと軽く叩くと、気持ちよさげに目を細めて頭を寄せてくる。どうやらポンポンが気に入ったらしい。
「おっ、お目覚めか」
「ああ」
樹実渡もグレンもあまり寝ていないはずなのに元気だ。グレンは昼間よく寝ているから大丈夫なのだろう。
樹実渡はどうなのだろう。訊いたことはないが、付喪神っていうのは寝なくても大丈夫なのだろうか。
「なあ遼哉、お客さんが来ているぞ」
お客さん。
こんな時間にか。まさか源じぃか。期待したのだが、部屋に入ってきたのは風狸だった。
「久しぶりだな」
「ああ、そうだな。で、何かあったのか」
風狸はニヤリと笑みを浮かべて目の前にちょこんと座る。
「あったぞ、嬉しいことが」
嬉しいこと。その言葉に期待が湧き上がる。風狸が嬉しいとなると、凛子のことしか考えられない。
「生まれ変わったのか」
風狸はコクリと頷き、再びニヤリとする。
「翔子の腹に宿ったぞ」
えっ、翔子の腹。
「本当か。それ」
「嘘なんかついてどうする。本当だ」
そうか、そうか。
神様も粋なことをする。翔子の子供として生まれ変わるなんて、すごいサプライズじゃないか。
一年か。長いようで短いような。これもすべて神様たちのおかげだ。そうじゃなきゃ、こんなこと起きないだろう。
そうだ、小海にも知らせてやらなきゃ。
遼哉はスマホを手にしてLINEを送った。
返信はすぐにきて、「そっち行くね」とあった。
これはお祝いしなくちゃ。どうせなら、佐久間のところに行ってみんなで祝ったほうがいいだろうか。それがいい。お礼参りもしなきゃいけない。
なんだろう涙が……。
「なんだ、遼哉泣いているのか」
「うるさいな。そう言う樹実渡だって」
樹実渡もまた目を潤ませていた。
「おいらのはゴミが入っただけだ。ああ、腹減った、腹減った。朝ごはんはなんだろうな」
まったく樹実渡の奴は誤魔化しやがって。なにが、『朝ごはんは何だろうな』だ。
遼哉は涙を拭い立ち上がりキッチンへ向かう。
「よし、朝からカツ丼にするか。昨日の夜食べたトンカツが残っているし」
「めでたいことあったしな、カツ丼食おう。んっ、カツ丼は関係ないか」
樹実渡と二人して朝から大笑いをした。そんな様子をグレンはキョトンとした顔でみつめている。
風狸はいつの間にか消えていた。一緒に朝ごはんを食べていってもよかったのに。
「ニャッ」
「なんだ、グレン。その顔は、おまえもカツ丼食べたいのか」
「遼哉、違うな。グレンは、泣いたり笑ったり変なのって思っているだけだ」
そうなのか。
可愛い奴だ。
遼哉はポンポンとグレンの頭を軽く叩いてあげた。
「遼哉、そのポンポンだけどさ。グレン、気に入っていないぞ。撫でろってさ」
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