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第五話 思い出を抱いて
【九】ぷくぷくの知る事実
しおりを挟む「来たか」
ザワザワと葉擦れの音が頭上を流れゆく。
見上げると空へと伸びる青々とした竹が風にユラユラと揺れていた。
竹の騒めきとともに一瞬、「腹減った」との樹実渡の声と「鬼退治だ」との火乃花の声を耳にした気がした。
二人の姿はどこにもない。どうやら空耳らしい。
当然だ、いるはずがない。樹実渡と火乃花は本に戻って今手元にあるのだから。
もちろん、声を発することはない。少しばかり焦げ臭さが残っているだけだ。
樹実渡と火乃花は完全に消えてしまったのだろうか。手にした焦げた二つの本をみつめて、小さく息を吐く。
不意に横たわるハルに寄り添う樹実渡と火乃花の姿が脳裏に蘇る。
「おい、流瀧。俺様はこっちだぞ。なにしている」
流瀧は目線を下げて目の前の悪魔小僧ぷくぷくを凝視する。ぷくぷくは本当に悪魔なのだろうか。今はそんなことを考えている場合じゃない。
「ぷくぷく……。なぜ、ハルも樹実渡も火乃花も逝ってしまったのでしょうか」
「流瀧、落ち込んでいる場合じゃないぞ。次に狙われるのはおまえだ。きっと」
狙われる。誰に。
顔が強張っていく。
「ぷくぷく、どいうことです」
「俺様はあいつらの会話を聞いちまった。これはいわゆる逆怨みってやつだな。いや、違うか。いや、そうだ、きっと」
「なんのことです。わかるように話してください」
いったい、ぷくぷくは何を聞き、何を見たというのだろうか。
放火犯を目の当たりにしたのか。
あの火は普通じゃない。人ではなかったはず。ぷくぷくをみつめたまま、まさか悪魔の仕業かと心の中で呟く。ぷくぷくの見知った悪魔ってことだろうか。だがすぐに頭を振った。
悪魔から怨みを買うようなことはしていないはず。ぷくぷくの口ぶりだと自分たちの知っている者ってことなのか。
「わからないのか。あいつらは本の御魂三人衆のこと知っていたようだがな。そういや、おまえらと似た感じだったぞ」
似た感じだって。
流瀧は腕組みをして黙考した。
もしや……。
「その者は二人でしたか」
頷くぷくぷく。
「ならば、鳶色と黄金色の衣でしたか」
「うむ、そうだな。それにしてもあつら強過ぎだ」
そうか、あの二人が戻って来たのか。あいつらの仕業だと言うのか。
あいつらに怨まれているというのか。怨まれる謂れはないと思うが。
流瀧はハッとした。
ぷくぷくの言葉通りだとすると、伴治も狙われるかもしれない。急いで帰らなくては。流瀧はぷくぷくに軽く頭を下げて茶トラ猫に跨り「急いでください」と声をかけた。
「おい、こら。俺様をおいて行くな。待て、返事くらいしろ」
ぷくぷくの怒鳴り声が背後からしてきたが、今はそれどころではない。
二冊の本を左手でギュッと握りしめ、茶トラ猫の首筋に右手だけでしがみつき背に揺られた。
『もう誰も死なせはしない』
なんでこんなにも視界がぼやけるのだろう。
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