本の御魂が舞い降りる

景綱

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第五話 思い出を抱いて

【三十三】残念無念

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「なにがしあわせを呼ぶ猫田彦だ。ちっともうまくいかないじゃないか。もう何十回やり直したって言うんだ。頼った俺様が間違っていた。ああ、イライラする。ネズノ、そいつを叩け」

 ぷくぷくは地面をドンドン踏みつけた。ネズノは踏みつける音に合わせて尻尾ムチを振るう。
 ドンドン、ペシペシ。ドン、ペシペシッ。

「いて、いて、いてぇ~。なに、リズム合わせてんだ」
「ああ、スッキリした。イラついたときには叩くに限る」

 ネズノがこっちを向き、ニヤリとした。思わず頬が緩む。
 おかげで少しは胸がすいた。

 やっぱりネズノは悪魔っぽいかも。いや、違うか。心根は優しい奴だ、きっと。自分で言うのもなんだが似たもの同士かもしれない。ぷくぷくは腕組みをしてひとり頷いた。

 それはそうと、なぜうまくいかないのだろう。
 ハルのことに関しては変更不可ということか。樹実渡と火乃花はどうなんだ。
 ぷくぷくは首を捻り、唸りった。

 神が阻止している可能性もあるのだろうか。
 また過去へ行くべきなのか。ハルはもう十分だと話している。ここで打ち止めにしたほうがいいのか。

 流瀧も金之丞も土筆も帰ってしまった。なにやら、大事な用事があるとか話していたけど、それがなんだったのかは忘れた。単なる口実かもしれない。

「おい、そこの悪魔もどき」
「何、もどきとはなんだ。俺様は凄腕の悪魔だ。おまえなど一捻りでだな……。おい、なんだその顔は」
「もう、聞き飽きた。それに、この件に関してはもう諦めろ。これだけやってダメってことは何かしらの力が働いているってことだ」
「ふん、おまえの力不足だろう」
「そう思うのなら、それでいい。けど、おいらの力不足じゃない。こんなことは初めてだからな。これ以上過去へ飛ぶと時空の歪みが生じて取り返しがつなかくなる」

 ネズノが珍しく頷いて同意している。コズノも頷いていた。
 そうなのか。何かの力か。神かどうかはわからないがそうなのだろう。

「いろいろ、ありがとうねぇ。私は孫の小海のところへでもちょっと行きましょうかねぇ」

 幽霊のハルは微笑みを浮かべてスッと消えた。
 行っちまったか、ハルも。

「ぷくぷく、我らも帰ろう。おまえの宿主の小説家も心配しているはずだぞ」

 田川のことか。それもそうか。諦めるしかないか。バズデの言う通り帰ったほうがいいのかもしれない。

「そんなに落ち込まないでください。最善を尽くしたじゃないですか」

 コズノが近づき肩に手を乗せた。

「まあ、よくやったと思うぞ。悪魔にしておくのは惜しい存在だな」

 ネズノがペシッと尻尾で尻を軽く叩いてきた。叩くのは余計だと言いかけて途中で言葉を呑み込んだ。ネズノなりの励ましだろう。

「そうだな、おいらもいい経験させてもらった。悪魔界は追い出されているのだろう。なら、おいらたちの仕事を手伝うって選択もあるぞ。ジャブジャブ洗濯板で服を洗うのもありだぞ。なーんてな」

 ペシペシペシッ。

「いてぇ。なぜ叩く」
「面白くもないオヤジギャグ言うからだ。しかも今時、洗濯板で洗濯する奴がいるか。阿呆田猫」
「うるさい。今のはギャグでもなんでもないだろうが」
「んっ、そうだったか」

 ネズノはとぼけてそっぽを向いていた。
 まったく最後まで漫才しやがって。

「まあ、考えておく。けど、猫田彦の上役だったらの話だがな。俺様は下働きするのはごめんだ。凄腕の悪魔だからな」

『うぎゅ』

「誰だ、踏む奴があるか。謝罪だ、謝罪。踏んでいい理由があるなら言ってみろ」

 踏みつけた足を見遣るとバズデだった。

「うるさいぞ。サッサと帰るぞ。悪魔界を追放された落ちこぼれ悪魔」
「なにを、おまえだってそうだろうが」

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