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第五話 思い出を抱いて
【三十四】幸せを見守る人影
しおりを挟む流瀧の話に遼哉は頷き、息を吐く。
隣では小海が項垂れている。
「そう、ダメだったの」
「やっぱり過去は変えられないってことか」
「そうですね。遼哉、小海、力及ばず、すみません」
「流瀧が悪いわけじゃないでしょ」
遼哉は溜め息を漏らす小海の肩に手を置き、ぽんぽんと軽く叩いた。
「ハルさんの分までしあわせにならないとな」
「うん」
「うぉっ、なんだ」
突然の物音に振り返ると、グレンを追いかけて金之丞が走り抜けていく。
「グレン、待てぇ。我を乗せろ」
まったく騒がしい奴だ。空気を読め。いや、わざとやっているのか。そんなことはないか。深読みし過ぎだ。
グレンも逃げないで乗せてやればいいのに。まさか、乗せるのは樹実渡だけと思っているのだろうか。それは違うのか。火乃花も乗せていたはずだ。
ふざけているのか。
「なんだか楽しそうね」
確かに、追いかけまわしているが金之丞は笑みを浮かべている。グレンが笑っているのか表情は読めないが追いかけっこして遊んでいるのかもしれない。
樹実渡とは違うが、これはこれでいいコンビなのかもしれない。
樹実渡と火乃花のことは絶対に忘れない。だからと言って、いつまでも後ろ向きでいたらダメだ。前を向いて進まなくてはいけない。
小海に目を向けると笑みが零れていた。金之丞の騒がしさも少しは役立っているってことか。
ハルがいなくなった今、小海を見守れるのは自分だけだ。
いつまでも伴治のところで厄介になるのもどうかと思うし。
「小海、もしよければだけどさ。ここで一緒に暮らさないか」
「えっ」
小海は一瞬固まっていたが、すぐにニコリとして頷いた。
「素敵です」
土筆がうっとりした顔でこっちをみつめている。
「おい、もしかして今のはプロポーズってやつか。意表をついたいい戦略だ」
「な、なに言っているんだ金之丞。そ、そういうわけじゃ」
小海もそう受け取ったのだろうか。そうかもしれない。そう思うと急に顔が熱くなってきた。
「遼哉、顔が真っ赤っかだぞ」
金之丞にそう言われて余計に顔が火照ってきた。
参った。
今日は妙に暑い。
あれ、風だ。気持ちいい。
遼哉は窓に目を向けて首を捻った。窓は開いてない。なのになんで風が。
あっ、嘘だろう。
目を擦り、もう一度窓に目を向けた。
ハルだ。源じぃも。
「ハルさん、源じぃ」
「えっ、お祖母ちゃんがいるの」
「あそこに。あれ、いない」
見間違いだったろうか。ハルのこと考えていたから、幻を見てしまったのかも。
「お祖母ちゃん、天国にいけたかな」
「きっと、いけたさ」
さっき見えたものが幻でなければ、源じぃが連れて行ってくれたはずだ。
「ハルさん、やっと成仏できたようですね」
「えっ」
流瀧がいつの間にか肩に乗り耳元で囁いた。
そうか気のせいなんかじゃなかったのか。今の話を聞いていたのだろうか。もしかしたら小海のことが心配で様子を見にきたのかもしれない。
ハルを安心させることが出来ただろうか。そうだったらいい。
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