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第五話 思い出を抱いて
【三十五】前を向こう
しおりを挟む「ハルさん、源じぃとあの世で楽しんでいるか」
遼哉は遺影の前で口角をあげた。
あれから一年経つのか。早いものだ。
一周忌法要も無事終えたし、あとは小海とのことだ。
『小海のこと大切にするよ。ハルさん』
きっと喜んでくれているはず。あの世で源じぃと祝ってくれているはず。
もしかしたら、小海にプロポーズしたときも、どこかで見守ってくれていたのかも。
三ヶ月後に小海と結婚式をあげる。もちろん、大安吉日。
式は三ヶ月後だけど、すでに小海とは一緒に暮らしている。事実上結婚しているのと変わらない。
騒がしい奴がいて、二人の時間を邪魔されることが多々あるがそれはそれで仕方がないことだろう。いや、いいのかそれで。部屋に鍵がかけられるようにしたほうがいいかもしれない。それはあとで考えるとしよう。
考えなくてもいいのか。ずっと鍵をかけていないのだから、それほど気にしていないってことだ。
「お昼ごはんにしましょう」
小海の一言に金之丞が目を輝かせて飛んできた。
「おお、もうそんな時間か。いったいなんだ昼メシは」
「焼きそばよ」
「そりゃいい。じゃ、大盛にしろよ」
小海はニコリとしてキッチンへと足を向けた。
「わたくしもお手伝いします」
土筆が弾むようにして追いかけて行く。
なぜだろう。一瞬だけ金之丞が樹実渡と重なって映った。
なんだかな。一年経っても樹実渡の幻を見てしまうなんて。樹実渡はもういない。復活するなんて期待しちゃいけない。残念だけど。
金之丞をみつめ、小さく息を吐く。樹実渡の魂が金之丞に宿っていたら。
土筆の中には火乃花がいてほしい。
そんな奇跡が起きないものか。
まったく何を考えているのやら。いつまでも幻影を追うのはやめろ。
今、自分の心は満たされている。そうだろう。小海がいるじゃないか。寂しい気持ちもあるけど、喜びも感じているだろう。
きっと、樹実渡と火乃花、そしてハルの死は意味がある。
ハルがいなくなったことで小海は自分が守らなくてはと強く感じられた。結婚に踏み出すきっかけになったことは間違いない。
過去が書き換えられたとしたら、結婚はまだ先だったかもしれない。それは誰もわからないことだけど、そう思うことにしたんだろう。
小海が淋しい思いをしないよう守ると決めたんだろう。
頑張らきゃ。
過去のことばかり考えていては前には進めないのだから。
そうそう前に進むと言えば、ぷくぷくと御魂三人衆のコラボ小説の話もいい方向に進んでいる。
来年くらいには出版出来そうな雰囲気だ。それを見越して田川と話し合って物語のだいたいのあらすじのようなものを考えている。
絶対に無理だろうと思えることが現実になりつつある。
もしかしたら、見えない力が手助けしてくれているのかもしれない。それがハルと樹実渡と火乃花なのかもしれない。あっちの世界から手助けしてくれている。そう思ってもいいのではないだろうか。
実際のところわからない。神様のみぞ知るってところだろう。
遼哉は仏壇へと向き直り正座をした。
ハルの笑顔の遺影に、書物と化してしまった樹実渡と火乃花がここにいる。
「俺、頑張るからな。応援してくれよ」
「おい、待て。こらーーー」
グレンと金之丞が後ろを駆けて行く。
なんだ、騒がしい。
「待て、待て、待て。グレン、それは我の焼きそばだ。盗人猫、待て」
グレンはどこかにやけているように思えた。気のせいだろうけど。
「おい、走るんじゃない。まったく仕方ないやつらだ。ハルさん、樹実渡、火乃花。あいつらどうしようもないな」
「本当にねぇ」
「おいらにも焼きそばくれ」
「私も参戦する」
えっ。
仏壇の遺影と書物に目を向けたが、誰の姿もなかった。空耳か。
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