本の御魂が舞い降りる

景綱

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第五話 思い出を抱いて

【三十二】すべて無駄なことなのか

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「樹実渡は消し去ったぞ」

 消し去っただと。そんな馬鹿な。
 流瀧はじっと金之丞をみつめて動きを止めていた。
 不敵な笑みを浮かべる金之丞。どこか不安そうな顔色をしている土筆。この対極にある感じはなんだ。

 心が凍りつき、金之丞の言葉が鼓膜にこびりつく。 
 どうして。なぜだ。裏をかかれたということか。いや、それはおかしい。そもそも、自分たちが未来からやてくることを予想することなど出来るはずがない。

 ぷくぷくはどうした。グレンはどうなった。
 樹実渡は本当に消されたのか。何がどうなっている。

 流瀧は考えを巡らせた。ダメだ。頭の中がごちゃついてしまう。今は目の前のことを考えよう。ハルと火乃花だけでも救わなくては。

 金之丞に取り憑く悪魔。問題はあいつだ。
 龍神の力を借りればあの背後の悪魔を倒せる。即行動だ。大きく息を吸い込み、天を仰ぎ見る。

 なに。
 流瀧はサッと飛んできた何かをかわす。
 壁に突き刺さった短刀をチラッと見遣り、金之丞へ視線を移す。
 ダメだ。龍神を呼ぶ時間がない。前回とは違う。今、ここにぷくぷくがいれば。
 どうしたらいい。

「甘いな。流瀧」

 まただ。短刀が飛んできた。
 違う。自分にではない。
 刃先がキラリと光り、すぐ横を通り過ぎていく。

 しまった。
 背後にパッと振り返ると、火乃花の胸に短刀が突き刺さっていた。

 熱い。
 手をかざした瞬間、短刀から炎が噴き出した。

「やめろ。やめてくれ」

 流瀧は膝をつき、炎に包まれる火乃花を見ていることしかできなかった。
 ああ、なぜだ。火乃花が書物と化してしまった。止められなかった。動けなかった。

「ふん、流瀧が敬語を忘れるとは。これは面白い」

 流瀧は金之丞へ振り返り睨みつけた。
 火の属性の火乃花を炎で包み込むとはなんて力だ。呪われた炎だ。以前よりも力が増しているのか。そんな馬鹿な。

 気づくと、ハルが書物の火を消そうとしていた。

「ハル、いけません」

 まずい。炎がハルの着物の裾に飛び火して、一気に炎に包まれていく。
 今度こそ、阻止する。ハルだけでも救わねば。
 流瀧は急いで水泡を投げつけた。

 耳元でシュンとの音ともに、短刀が通り過ぎていく。パチンと水泡が割れ、地面を濡らす。
 なんだと。

「ハル」

 流瀧はすぐさま水泡を連打した。

「危ない」

 どこからともなく響く叫び声に振り返ると、ぷくぷくが飛んできた短刀をね返していた。

「ぷくぷく」
「何をしている。落ち着け」

 そうだった。焦ってどうする。悪魔の思う壺だ。
 流瀧は炎を消すべく水泡を投げ、小さな水龍も続けて投げつけ炎のもとを断とうとした。

 よし、消火完了。
 流瀧はハルのもとへ近づき、絶句した。
 時すでに遅し。消火はしたもののハルは虫の息だった。

「流瀧、敵に背を向けるとはまだまだだな」

 しくじってしまった。
 流瀧は金之丞に鋭い視線を送り、駆け出したところでぷくぷくに手を掴まれて引き止められる。

「ダメだ。冷静になれ」

 ぷくぷくの真剣な眼差しに我に返る。そうだ、怒りに任せてはいけない。ここは冷静に判断しなくてはダメだ。自分としたことが。

 どうにも今日はいつもの自分でいられない。
 ぷくぷくは猫田彦になにやら合図を送っていた。

「一旦撤退するぞ。捕まれ」との凛とした猫田彦の声が響く。

 ぷくぷくに手に引っ張られて猫田彦の背に跨った。ネズノとコズノはすぐさま頭の上へ。ハルの幽霊も急いで猫田彦の首筋を掴む。

 気づいたときには祠の前だった。
 どうしてだ。金之丞たちに未来を予知する力はないはずだ。何者かが力を貸しているのか。悪魔以外に手を貸す者などいないはず。

 この中に内通者がいるとでもいうのか。違う。そんな者はいないはず。
 なら、どうして……。すべて悪魔の力だというのか。


***


 絶対に救う。
 そう誓い、過去へと何度も飛んだ。猫田彦には申し訳ないくらい力になってもらった。

 結果、すべて惨敗。
 悪魔に勝てても、ハル、樹実渡、火乃花を救うことはできなかった。

 どうやっても過去は変えられなかった。無駄なことをしているというのか。
 ハルの死は決定事項だということか。樹実渡と火乃花も死ななくてはいけないというのか。

 神よ、教えてくれ。
 流瀧は天を見上げて心の中で叫んだ。
 そうだ、猫田彦も神だろう。神をもってしてもどうにもならないことがあるというのか。

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