本の御魂が舞い降りる

景綱

文字の大きさ
156 / 161
第五話 思い出を抱いて

【三十二】すべて無駄なことなのか

しおりを挟む

「樹実渡は消し去ったぞ」

 消し去っただと。そんな馬鹿な。
 流瀧はじっと金之丞をみつめて動きを止めていた。
 不敵な笑みを浮かべる金之丞。どこか不安そうな顔色をしている土筆。この対極にある感じはなんだ。

 心が凍りつき、金之丞の言葉が鼓膜にこびりつく。 
 どうして。なぜだ。裏をかかれたということか。いや、それはおかしい。そもそも、自分たちが未来からやてくることを予想することなど出来るはずがない。

 ぷくぷくはどうした。グレンはどうなった。
 樹実渡は本当に消されたのか。何がどうなっている。

 流瀧は考えを巡らせた。ダメだ。頭の中がごちゃついてしまう。今は目の前のことを考えよう。ハルと火乃花だけでも救わなくては。

 金之丞に取り憑く悪魔。問題はあいつだ。
 龍神の力を借りればあの背後の悪魔を倒せる。即行動だ。大きく息を吸い込み、天を仰ぎ見る。

 なに。
 流瀧はサッと飛んできた何かをかわす。
 壁に突き刺さった短刀をチラッと見遣り、金之丞へ視線を移す。
 ダメだ。龍神を呼ぶ時間がない。前回とは違う。今、ここにぷくぷくがいれば。
 どうしたらいい。

「甘いな。流瀧」

 まただ。短刀が飛んできた。
 違う。自分にではない。
 刃先がキラリと光り、すぐ横を通り過ぎていく。

 しまった。
 背後にパッと振り返ると、火乃花の胸に短刀が突き刺さっていた。

 熱い。
 手をかざした瞬間、短刀から炎が噴き出した。

「やめろ。やめてくれ」

 流瀧は膝をつき、炎に包まれる火乃花を見ていることしかできなかった。
 ああ、なぜだ。火乃花が書物と化してしまった。止められなかった。動けなかった。

「ふん、流瀧が敬語を忘れるとは。これは面白い」

 流瀧は金之丞へ振り返り睨みつけた。
 火の属性の火乃花を炎で包み込むとはなんて力だ。呪われた炎だ。以前よりも力が増しているのか。そんな馬鹿な。

 気づくと、ハルが書物の火を消そうとしていた。

「ハル、いけません」

 まずい。炎がハルの着物の裾に飛び火して、一気に炎に包まれていく。
 今度こそ、阻止する。ハルだけでも救わねば。
 流瀧は急いで水泡を投げつけた。

 耳元でシュンとの音ともに、短刀が通り過ぎていく。パチンと水泡が割れ、地面を濡らす。
 なんだと。

「ハル」

 流瀧はすぐさま水泡を連打した。

「危ない」

 どこからともなく響く叫び声に振り返ると、ぷくぷくが飛んできた短刀をね返していた。

「ぷくぷく」
「何をしている。落ち着け」

 そうだった。焦ってどうする。悪魔の思う壺だ。
 流瀧は炎を消すべく水泡を投げ、小さな水龍も続けて投げつけ炎のもとを断とうとした。

 よし、消火完了。
 流瀧はハルのもとへ近づき、絶句した。
 時すでに遅し。消火はしたもののハルは虫の息だった。

「流瀧、敵に背を向けるとはまだまだだな」

 しくじってしまった。
 流瀧は金之丞に鋭い視線を送り、駆け出したところでぷくぷくに手を掴まれて引き止められる。

「ダメだ。冷静になれ」

 ぷくぷくの真剣な眼差しに我に返る。そうだ、怒りに任せてはいけない。ここは冷静に判断しなくてはダメだ。自分としたことが。

 どうにも今日はいつもの自分でいられない。
 ぷくぷくは猫田彦になにやら合図を送っていた。

「一旦撤退するぞ。捕まれ」との凛とした猫田彦の声が響く。

 ぷくぷくに手に引っ張られて猫田彦の背に跨った。ネズノとコズノはすぐさま頭の上へ。ハルの幽霊も急いで猫田彦の首筋を掴む。

 気づいたときには祠の前だった。
 どうしてだ。金之丞たちに未来を予知する力はないはずだ。何者かが力を貸しているのか。悪魔以外に手を貸す者などいないはず。

 この中に内通者がいるとでもいうのか。違う。そんな者はいないはず。
 なら、どうして……。すべて悪魔の力だというのか。


***


 絶対に救う。
 そう誓い、過去へと何度も飛んだ。猫田彦には申し訳ないくらい力になってもらった。

 結果、すべて惨敗。
 悪魔に勝てても、ハル、樹実渡、火乃花を救うことはできなかった。

 どうやっても過去は変えられなかった。無駄なことをしているというのか。
 ハルの死は決定事項だということか。樹実渡と火乃花も死ななくてはいけないというのか。

 神よ、教えてくれ。
 流瀧は天を見上げて心の中で叫んだ。
 そうだ、猫田彦も神だろう。神をもってしてもどうにもならないことがあるというのか。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

愛とオルゴール

夜宮
恋愛
 ジェシカは怒っていた。  父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。  それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。  絡み合った過去と現在。  ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

私は私で幸せになりますので

あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。 ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。 それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。 最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、彼女は少しずつ変わっていく。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》2作目  ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり) ■第17回恋愛小説大賞にエントリーしています ■画像は生成AI(ChatGPT)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...