【完結】死ぬことが許されない未来社会。仮の肉体を継いでなお生きる理由はあるのだろうか? ~プシュケの彼方~

上杉

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3章 欲

1 常世

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「まさか……霧島とここに来ることになるとはね」

 感慨深いと言わんばかりの表情を浮かべながら、花角はなずみは娯楽プラント「とこよ」の入口にたたずんでいた。

 その後ろにはもちろん霧島の姿もある。

 ――まさかこんなことになるとは。

 霧島は苦虫を噛み潰したような表情で、頭上で七色に輝くゲートを睨みつけていた。

 娯楽プラント「とこよ」は、その名の通り人間のあらゆる娯楽を提供する施設だ。
 食や芸術など人々の一般的な楽しみはもちろん、賭け事や酒、色恋事までなんでもありの、いわばこの世の極楽に近い。
 かつて、素体交換が始まったばかりの頃、長い生に耐えきれずに自ら死を選ぶものが続出したという。その際、命を絶えさせないための管理の仕組みが発達したらしい。
 そのひとつが、街の至る所を動き回る小型自動機械の存在だ。
 それぞれが高性能のスキャニング機能を有しており、常に人間の動きをモニタリングすることで、突発的な命の危険を防ぐ役割を担っている。すべての機械が、管理プラント地下にあるといわれる中央サーバー下にあり、人々に危険が訪れるとどこからともかく結集し、事故を防いだり医療行為を行うのだった。
 霧島が「とこよ」の中を見回すも、他プラントほど小型機械が動き回っていないように見えた。

 ――ここは、やはり死に対する危険度が、統計的に少ないのだろうか。

 小型自動機械を死から人間を守るための外発的なシステムとするならば、娯楽プラント「とこよ」は、内発的なシステムそのものと言える。
 ここでは人々に楽しみや喜び、興味をそそるコンテンツを提供することで、活動に対する内から湧き上がる前向きな気持ちやモチベーションの維持をサポートする。いわば、人の欲を満たし続ける場所なのだ。
 メインストリートは色とりどりの広告で照らされ、行き交う人を次々といざなっている。
 生産プラントで生み出された食物や、衣服、嗜好品が並ぶ場所もあれば、中には花角がおすすめしていた不確定性の強いアクティビティや、原始人体験といった妙なものを案内する店まで、さまざまだった。
 また、いわゆる書物や映像など、各々の家の端末で楽しめるデジタルライブラリのメインサーバーも、ここ「とこよ」の地下にあるという。

 ――あんな素晴らしいものが、この場所に眠っているとは思えないな。

 霧島はほくそ笑みながら、揚々ようようと歩く花角の後ろを付いていった。

 
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