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第二十二話 変わらない学園の実態
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翌日、監督である阿久津の許可を得て
南沢の甥の煌太を
スタジオの控え室に呼んだ。
平日だったが煌太には
学校を休ませた。
『初めまして、
俳優兼脚本家の浅水黎都です。
煌太くんが通ってる
蒼原学園の卒業生だよ。
学校で何があったのか
詳しく話してくれるかな?』
黎都は煌太の隣に座り
穏やかな声色で訊いた。
「旧校舎の元演劇部の部室で……
先輩たちに……」
煌太の言葉を聞いて
黎都は怒りがこみ上げてきた。
あの場所は四年前と変わらないままらしい。
『ゆっくりで大丈夫だよ……
言いにくいことなら、
無理に話さなくてもいいから』
煌太はためらいながらも
口を開いた。
「ありがとうございます。
元演劇部の部室で先輩たちに
殴られたりカツアゲされたり、
お金がない時は……裸にされて触られたり……」
泣き出してしまった煌太の
背中を黎都が優しく撫でた。
『四年前、俺も高校二年の時に同じ場所で
先輩たちに半月に一回呼び出されては
“まわされた”
自分で“脚本に仕立てて、
自分で演じたのが
「“あの頃”俺がされたこと」っていう
映画なんだ』
『脚本に仕立てた時も演じた時も
あの頃のことがフラッシュバックしなかったわけじゃなかったけど
“被害者”で“伝える手段”を持っている
俺が伝えなければと思ったのと
“あの頃”のまま立ち止まって
いたくなかったから映画にして公開した。
〚実は、監督で恋人の陣さんにも
話してないんだけど
あの頃、抑えつけられて……当たり前だった〛』
さすがに、女性である南沢には
とうてい聞かせられない話だったため
黎都は煌太の耳元で
カミングアウトした。
煌太は、黎都の耳元て
囁かれた言葉に一瞬、
言葉を失ったが、すぐに小さくうなずいた。
「……それでも、
あの場所から逃げなかったんですね」
黎都は優しく笑いかける。
『逃げたかったよ。
でも、逃げたら同じことが
繰り返されるだけだと思った。
だから、声をあげることにしたんだ』
煌太の目に涙が溜まっている。
「僕も……逃げたい。
でも、怖くて声が出せなかった。
学校にいるのも苦しかった。
助けてくれる大人もいなくて……」
黎都は静かに頷きながら言った。
『だから、今ここで話してくれてありがとう。
話すことで少しでも楽になれるし、
誰かに知ってもらうことが第一歩なんだ』
煌太は震える声で言う。
「どうしたらいいのかわからない。
親にも言えないし、先生も怖いし……」
『大丈夫、俺も叔母の南沢さんもいる。
学校に行くのは怖いと思う。
俺も高校二年の一年間は恐怖でしかなかった。
一つ、煌太《こうた》くんに
確認したいんだけど今、あの部屋を
管理してる教師は誰?』
「林田という年配の教師です」
黎都の表情が険しくなる。
『やっぱりか、林田は部屋の
管理を任されているわりには
めったに旧校舎に行かなかったけど
今も変わってないってことか……
相変わらずの職務怠慢だな……』
黎都はため息を吐いた。
『なら、最終手段を使わないとね』
黎都の言葉に煌太《こうた》と
ADの南沢は首を傾げた。
『俺は“俳優”だけど“脚本家”でもあるんだよ。
なら、脚本で演技でメディアに
蒼原学園の闇を曝す。
南沢さん、陣さんを呼んで来てもらえる?』
「わかった」
――数分後、控え室の扉が開き、
阿久津陣が入ってきた。
黒いジャケットの襟を直しながら、
黎都と煌太の様子を一瞥する。
『何があった?』
低く落ち着いた声だったが、その奥には
ただならぬ気配が滲んでいた。
黎都は短く経緯を説明した。
煌太の肩が小さく震えるたび、
陣の眉間の皺が深くなっていく。
『……つまり、黎都が屈辱を受けた
“あの部屋”で今も同じことが
繰り返されてるってことか』
「部屋の管理は
林田という教師ですが、放置状態です」
陣は黙り込み、ポケットの中で拳を握った。
『黎都。お前、やるつもりか』
『やるよ。脚本で、映像で、全国に晒す。
俺が受けたことも、煌太くんが
受けたことも、隠さずに』
南沢が不安そうに口を挟む。
「でも……そんなことをしたら、
学校側から圧力が……」
『上等だね。相手が権力を使ってくるなら、
俺たちは“事実”で戦う』と黎都は
きっぱりと言い切った。
煌太は怯えたように黎都を見つめる。
「……本当に、助けてくれるんですか」
黎都はその視線を正面から受け止め、
穏やかに微笑んだ。
『約束する。二度と同じことが
できないようにする。
鷺沼先輩と華山先輩にも連絡するかな。
俺への罪滅ぼしに協力してくれるかも』
陣は深く息を吐き、黎都の肩を叩いた。
『脚本の準備、すぐに取りかかれ。
撮影は俺が段取りをつける。
煌太くん……これはお前の戦いでもあるが、
俺たちが前に立つ』
煌太は涙をぬぐい、かすかにうなずいた。
黎都はゆっくり立ち上がり、
机の上のノートを開く。
そこに、迷いのない筆致でタイトルを書き込んだ。
――『蒼原学園、旧校舎の闇』。
空気が、はっきりと戦いの場のそれに変わった。
南沢の甥の煌太を
スタジオの控え室に呼んだ。
平日だったが煌太には
学校を休ませた。
『初めまして、
俳優兼脚本家の浅水黎都です。
煌太くんが通ってる
蒼原学園の卒業生だよ。
学校で何があったのか
詳しく話してくれるかな?』
黎都は煌太の隣に座り
穏やかな声色で訊いた。
「旧校舎の元演劇部の部室で……
先輩たちに……」
煌太の言葉を聞いて
黎都は怒りがこみ上げてきた。
あの場所は四年前と変わらないままらしい。
『ゆっくりで大丈夫だよ……
言いにくいことなら、
無理に話さなくてもいいから』
煌太はためらいながらも
口を開いた。
「ありがとうございます。
元演劇部の部室で先輩たちに
殴られたりカツアゲされたり、
お金がない時は……裸にされて触られたり……」
泣き出してしまった煌太の
背中を黎都が優しく撫でた。
『四年前、俺も高校二年の時に同じ場所で
先輩たちに半月に一回呼び出されては
“まわされた”
自分で“脚本に仕立てて、
自分で演じたのが
「“あの頃”俺がされたこと」っていう
映画なんだ』
『脚本に仕立てた時も演じた時も
あの頃のことがフラッシュバックしなかったわけじゃなかったけど
“被害者”で“伝える手段”を持っている
俺が伝えなければと思ったのと
“あの頃”のまま立ち止まって
いたくなかったから映画にして公開した。
〚実は、監督で恋人の陣さんにも
話してないんだけど
あの頃、抑えつけられて……当たり前だった〛』
さすがに、女性である南沢には
とうてい聞かせられない話だったため
黎都は煌太の耳元で
カミングアウトした。
煌太は、黎都の耳元て
囁かれた言葉に一瞬、
言葉を失ったが、すぐに小さくうなずいた。
「……それでも、
あの場所から逃げなかったんですね」
黎都は優しく笑いかける。
『逃げたかったよ。
でも、逃げたら同じことが
繰り返されるだけだと思った。
だから、声をあげることにしたんだ』
煌太の目に涙が溜まっている。
「僕も……逃げたい。
でも、怖くて声が出せなかった。
学校にいるのも苦しかった。
助けてくれる大人もいなくて……」
黎都は静かに頷きながら言った。
『だから、今ここで話してくれてありがとう。
話すことで少しでも楽になれるし、
誰かに知ってもらうことが第一歩なんだ』
煌太は震える声で言う。
「どうしたらいいのかわからない。
親にも言えないし、先生も怖いし……」
『大丈夫、俺も叔母の南沢さんもいる。
学校に行くのは怖いと思う。
俺も高校二年の一年間は恐怖でしかなかった。
一つ、煌太《こうた》くんに
確認したいんだけど今、あの部屋を
管理してる教師は誰?』
「林田という年配の教師です」
黎都の表情が険しくなる。
『やっぱりか、林田は部屋の
管理を任されているわりには
めったに旧校舎に行かなかったけど
今も変わってないってことか……
相変わらずの職務怠慢だな……』
黎都はため息を吐いた。
『なら、最終手段を使わないとね』
黎都の言葉に煌太《こうた》と
ADの南沢は首を傾げた。
『俺は“俳優”だけど“脚本家”でもあるんだよ。
なら、脚本で演技でメディアに
蒼原学園の闇を曝す。
南沢さん、陣さんを呼んで来てもらえる?』
「わかった」
――数分後、控え室の扉が開き、
阿久津陣が入ってきた。
黒いジャケットの襟を直しながら、
黎都と煌太の様子を一瞥する。
『何があった?』
低く落ち着いた声だったが、その奥には
ただならぬ気配が滲んでいた。
黎都は短く経緯を説明した。
煌太の肩が小さく震えるたび、
陣の眉間の皺が深くなっていく。
『……つまり、黎都が屈辱を受けた
“あの部屋”で今も同じことが
繰り返されてるってことか』
「部屋の管理は
林田という教師ですが、放置状態です」
陣は黙り込み、ポケットの中で拳を握った。
『黎都。お前、やるつもりか』
『やるよ。脚本で、映像で、全国に晒す。
俺が受けたことも、煌太くんが
受けたことも、隠さずに』
南沢が不安そうに口を挟む。
「でも……そんなことをしたら、
学校側から圧力が……」
『上等だね。相手が権力を使ってくるなら、
俺たちは“事実”で戦う』と黎都は
きっぱりと言い切った。
煌太は怯えたように黎都を見つめる。
「……本当に、助けてくれるんですか」
黎都はその視線を正面から受け止め、
穏やかに微笑んだ。
『約束する。二度と同じことが
できないようにする。
鷺沼先輩と華山先輩にも連絡するかな。
俺への罪滅ぼしに協力してくれるかも』
陣は深く息を吐き、黎都の肩を叩いた。
『脚本の準備、すぐに取りかかれ。
撮影は俺が段取りをつける。
煌太くん……これはお前の戦いでもあるが、
俺たちが前に立つ』
煌太は涙をぬぐい、かすかにうなずいた。
黎都はゆっくり立ち上がり、
机の上のノートを開く。
そこに、迷いのない筆致でタイトルを書き込んだ。
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空気が、はっきりと戦いの場のそれに変わった。
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