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約束
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バローさんは、私が泣き止むまでずっと背中を撫でてくれた。
こんなに優しく扱われてしまっては、涙もなかなか止まってはくれない。それでもバローさんは「いっぱい泣くといいよ」と言って頭を撫でる。
両親から、こんなふうに愛されたことがあっただろうか。記憶の限り思い出せない。
泣くと周りに迷惑をかける。
そう自分に言い聞かせ、どんな時だって平気なフリをした。
「アリシアはこれから沢山笑って過ごすために、今のうちに沢山泣かないといけないね。その悲しみを全て流してスッキリしたら、きっと自然に笑えるよ」
「ありがとう……ございます……」
「そんな、他人行儀にお礼なんて言わないで。ずっと一緒に過ごすんだから」
「ずっと?」
私はバローさんを見上げた。
「ここにいても良いんですか?」
「アリシア!! 君と僕は、番になるの!! もう決まった。僕が決めた。アリシアを一生離さないって。だから、僕の傍でいてよ」
涙は止めどなく溢れてくる。
今度ばかりは「泣かせたいわけじゃなかった」って慌てている。
「嬉し泣きです」と返しておいた。
「じゃあ、アリシアの次の発情期に番になりたい。良い?」
「あの……バローさんがそれで後悔しないのであれば……よ、よ、よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
もし嫌になったらいつでも捨ててくださいって言うと、そんな日は一生来ないから安心してと言ってくれた。
こんな平凡な見た目の私と、一生一緒にいたいだなんて……バローさんって見た目の好みなどはないのかしら? なんて考えてしまう。
だって、バローさんはとてもハンサムだ。
高い身長、ふんわりとした焦茶色の髪、大きな瞳、笑った時なんかは、口がニッと大きく開く。その上アルファで、こんなに優しい。
きっとこの世界で、引く手数多に違いない。
番になるとは約束しても、不安は次々に生まれてくる。
そんな私の隣で、バローさんは至って陽気だ。
鼻歌なんて歌っている。
「ねぇ、そろそろ『バローさん』って呼ぶのやめて欲しいんだけど」
「なんとお呼びすれば良いのですか?」
「もう僕達、婚約したも同然だし、『ニコラ』って名前で呼んでほしいな」
「そっ! それは、まだ……なんと言いますか……」
「言ってしまえば、直ぐになれるよ。一回呼んでみて?」
「に……にこら……さん……」
———ニコラさん……。
なぜか名前を呼んだだけで、心に熱を宿したような感覚を味わった。
気恥ずかしいとかではない。
体の奥から、多幸感が溢れてくる感じ。
心臓がドクドクと波打っているのが分かる。
これが『恋』?
「アリシア? 急に顔が赤い。もしかして疲れちゃった?」
「いえ、大丈夫です!!」
私、バローさんを意識してる?
本当にこれが恋なのかしら。
目の前にバローさんの顔が覗き込む。
「やっぱり熱が出てるんじゃない? 少し横になる?」
そんな顔を近づけられれば、もっと赤面してしまう。
視線を逸らしても、さらに覗き込んでくる。
この際、熱があると言って休ませてもらった方がいいかもしれない。
「あの、やはり少し休んでもいいでしょうか?」
「まだ疲れが残ってるんだよ。ほら、こっちおいで」
「えっ?」
肩を抱き寄せ、そのままバローさんの腿に私の頭を乗せた。
———えっ? えっ? これって……ぇぇぇええええええーーーーー!!!!!
眩暈に襲われ、視界がぐらりと揺らいだ。
男性の腿に頭を乗せてるってどういう状況なのーーー???
心拍数が跳ね上がり、呼吸が乱れる。
でもバローさんは、私の体調が悪化していると思っているらしく、さらに頭を撫でてくる。
そしてもう片方の手を腕に乗せて……。
こんな状態で正気を保てるはずなんてない。
「おかしいなぁ。ヒートでもなさそうだし……」
バローさんは私の体調が謎に悪化しているのが心配なようだ。
あなたにドキドキしているのが原因です。なんて、口が裂けても言えない。
そんなの言おうものなら、その後どんなリアクションが飛び出すのか……想像しただけでも怖い。
なんとかこの状況を打破するべく、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、心拍数を落ち着かせるのに集中した。
こんなに優しく扱われてしまっては、涙もなかなか止まってはくれない。それでもバローさんは「いっぱい泣くといいよ」と言って頭を撫でる。
両親から、こんなふうに愛されたことがあっただろうか。記憶の限り思い出せない。
泣くと周りに迷惑をかける。
そう自分に言い聞かせ、どんな時だって平気なフリをした。
「アリシアはこれから沢山笑って過ごすために、今のうちに沢山泣かないといけないね。その悲しみを全て流してスッキリしたら、きっと自然に笑えるよ」
「ありがとう……ございます……」
「そんな、他人行儀にお礼なんて言わないで。ずっと一緒に過ごすんだから」
「ずっと?」
私はバローさんを見上げた。
「ここにいても良いんですか?」
「アリシア!! 君と僕は、番になるの!! もう決まった。僕が決めた。アリシアを一生離さないって。だから、僕の傍でいてよ」
涙は止めどなく溢れてくる。
今度ばかりは「泣かせたいわけじゃなかった」って慌てている。
「嬉し泣きです」と返しておいた。
「じゃあ、アリシアの次の発情期に番になりたい。良い?」
「あの……バローさんがそれで後悔しないのであれば……よ、よ、よろしくお願いします」
深々と頭を下げた。
もし嫌になったらいつでも捨ててくださいって言うと、そんな日は一生来ないから安心してと言ってくれた。
こんな平凡な見た目の私と、一生一緒にいたいだなんて……バローさんって見た目の好みなどはないのかしら? なんて考えてしまう。
だって、バローさんはとてもハンサムだ。
高い身長、ふんわりとした焦茶色の髪、大きな瞳、笑った時なんかは、口がニッと大きく開く。その上アルファで、こんなに優しい。
きっとこの世界で、引く手数多に違いない。
番になるとは約束しても、不安は次々に生まれてくる。
そんな私の隣で、バローさんは至って陽気だ。
鼻歌なんて歌っている。
「ねぇ、そろそろ『バローさん』って呼ぶのやめて欲しいんだけど」
「なんとお呼びすれば良いのですか?」
「もう僕達、婚約したも同然だし、『ニコラ』って名前で呼んでほしいな」
「そっ! それは、まだ……なんと言いますか……」
「言ってしまえば、直ぐになれるよ。一回呼んでみて?」
「に……にこら……さん……」
———ニコラさん……。
なぜか名前を呼んだだけで、心に熱を宿したような感覚を味わった。
気恥ずかしいとかではない。
体の奥から、多幸感が溢れてくる感じ。
心臓がドクドクと波打っているのが分かる。
これが『恋』?
「アリシア? 急に顔が赤い。もしかして疲れちゃった?」
「いえ、大丈夫です!!」
私、バローさんを意識してる?
本当にこれが恋なのかしら。
目の前にバローさんの顔が覗き込む。
「やっぱり熱が出てるんじゃない? 少し横になる?」
そんな顔を近づけられれば、もっと赤面してしまう。
視線を逸らしても、さらに覗き込んでくる。
この際、熱があると言って休ませてもらった方がいいかもしれない。
「あの、やはり少し休んでもいいでしょうか?」
「まだ疲れが残ってるんだよ。ほら、こっちおいで」
「えっ?」
肩を抱き寄せ、そのままバローさんの腿に私の頭を乗せた。
———えっ? えっ? これって……ぇぇぇええええええーーーーー!!!!!
眩暈に襲われ、視界がぐらりと揺らいだ。
男性の腿に頭を乗せてるってどういう状況なのーーー???
心拍数が跳ね上がり、呼吸が乱れる。
でもバローさんは、私の体調が悪化していると思っているらしく、さらに頭を撫でてくる。
そしてもう片方の手を腕に乗せて……。
こんな状態で正気を保てるはずなんてない。
「おかしいなぁ。ヒートでもなさそうだし……」
バローさんは私の体調が謎に悪化しているのが心配なようだ。
あなたにドキドキしているのが原因です。なんて、口が裂けても言えない。
そんなの言おうものなら、その後どんなリアクションが飛び出すのか……想像しただけでも怖い。
なんとかこの状況を打破するべく、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、心拍数を落ち着かせるのに集中した。
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