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本編

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 帰りは天袮あまね様と須凰すおう、二人で光の神の神殿まで送ってくれた。

 輝惺様は暗くなり始めても帰ってこない僕を心配して、丁度神殿から探しに出てきたところだった。

「如月! 良かった。今から探しに行こうかと思っていた」

 僕が水神の神殿に行っていたことは、天袮様から説明してくれた。

 僕が輝惺様のことで悩んでいることや、前の巫子の話を聞いてしまったことは、全て隠しておいてくれたのでホッとした。

「じゃあね、如月。またいつでも遊びにおいで」

「また明日の朝拝でな!」

 二人を見送ると、生活を送っている棟へと入る。

「あの、急に遊びに行ったりしてすみませんでした」

 心配してくれたのは嬉しいけど、やっぱり勝手にいなくなるのは良くなかったと反省した。

 輝惺様は特に何も怒ったりしなかった……けど……少しくらい、叱ってほしい。

 勝手にいなくなるな、もっと早く帰って来て……なんでもいいから叱って欲しかった。

 こんなことを言うのは、ワガママだろうか。

 きっと僕が輝惺様の巫子だから心配していただけなんだ。

 保護者のような存在。

(やっぱり今でも、前の巫子が好きなのかな)

 それならば、もう僕が番になりたいなど望んではいけない。

 一年間、輝惺様の巫子として精一杯仕えよう。

 目尻をコッソリ拭うと、食事の準備をしに行った。

 でも、一緒に食べるのはどうしても無理だ。

 今は輝惺様の前で笑えない。

 食事の準備をすると、自室へと入らせてもらう。

 憧れの輝惺様に仕えただけでも贅沢だ。願って誰でもなれるわけじゃない。

 欲を出すな、如月。

 巫子としての仕事を一生懸命こなすのが、ここに来た目的だ。 

 自分に言い聞かせる。

 布団に潜り込むと、尻尾を噛んだ。なんとか気持ちを落ち着かせたい。

 泣きたくはなかった。惨めな自分を認めてしまう気がしたから。

 尻尾を噛み続けているうちに、徐々に眠くなってくる。きっと朝から色々考えすぎて、頭が一杯一杯になったんだ。

 輝惺様に呼ばれた気がしたが、眠くて、体がだるくて返事もできなかった。

 もしかしたら、ただの空耳だったかもしれない。

 それか、もう夢の中だったかもしれない。

 尻尾を噛むと気持ちが落ち着くような気がした。

 明日からはちゃんと気持ちを切り替えて頑張ろう。

 こんな時くらい、夢で会えたりして……なんて都合のいいことは起きない。朝まで夢すら見ずに寝続けた。

 
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