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本編

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 蘭恋と凪の神殿に遊びに行くのが最近のブームだ。

 八乙女の誰かと一緒にいないと不安だから、人恋しくて行っているようなものなんだけど。

 一人でいると『運命の番』のことばかり考えてしまう。

 とはいえ、八乙女との会話でも徐々にその話題が増えてきている。何も気にしていないかのように毎日を楽しんでいるのは、朱邑と秦羽くらいのものだ。

 月詠に関しては、亜玖留様の元へ行ってから付き合いが悪くなった。

 僕が闇の神の神殿でいた頃は、一日をどう過ごそうかと悩んでいたくらいなのに。月詠のこと、すごく気に入ってるみたいだから亜玖留が離してくれないとか……?

(あの二人は運命の番って気がするな……)
 なんて、自分意外の八乙女を見るたび思ってる。

「そういえば、蘭恋のところは最近どう?」

 煬源様も蘭恋を溺愛している。しかも相思相愛。今まではクールだった煬源様が、蘭恋には一生懸命になってると輝惺様が言っているくらいだから、相当なものだろう。

「如月。最近……輝惺様と一緒に寝てるって本当?」

「えっ!! ななななんで? それを?」

「最近ね、煬源様と輝惺様と麿衣様がやたらと仲が良いのって、情報交換しているらしいわよ」

「情報交換? 何の?」

「八乙女を喜ばせる会議を開いているとか、いないとか……」

 (……何をやっているんですか!!) 
 どうりで!! 急に距離感がおかしくなったのも納得だ。

「じゃあ、蘭恋も煬源様と布団を並べて寝ているの?」

「え? みんな同じ布団で寝てるんじゃないの?」

「蘭恋、それは煬源様の策略だよ……」

 どうやら、僕も凪も狼神様と同じ布団で寝ていると思い込んでいた蘭恋は、みるみる顔を真っ赤に染めた。

 そのタイミングでお茶を淹れてくれた凪が庭に戻ってきた。

「何の話?」

「なっ何でもないのよ!! ねぇ、如月?」

「う、うん……。凪と麿衣様はずっと仲良いよね。輝惺様が麿衣様に色々とアドバイスをもらってるみたいなんだ」

「そうなの? 確かに、もうすぐ身を捧げる儀式だから、狼神様も気合が入っているのかもしれないね」

 凪はこんな時期になってもマイペースを崩さない。僕はソワソワしたり、不安に押しつぶされそうになったり、きっと番だ!! って突然強気になったり……。感情が目まぐるしい。

 蘭恋は「自信はないけど、番になれたら良いなって思っているわ」と、落ち着いた意見を言っている。

 どうしてそんな平常心でいられるんだろう……。

 凪の淹れてくれたお茶を飲みながら、ぼんやりと花畑を見渡した。凪はこの景色をいつもみているからリラックスできるのかな。

 光の神の神殿は常に光輝いていて、とても気分が明るくなる。火の神の神殿はすごく迫力があるし、闇の神の神殿は【闇】そのもののように黒い。水神の神殿は常に浄化されているような神聖な空気が漂っている。それぞれの神殿にも特徴があっていい。

 風神の神殿と雷神の神殿には結局行く機会がなかったけれど、きっと素敵なところなんだろう。


「あっという間だったね。一年」

 ポロリと呟いた。

「そうね。色々あったわね」

 蘭恋も同調した。

「来年も、ここでいられるといいね」


 五日後の朝拝を終えると、いよいよそれぞれの神殿で儀式が行われる。

 三人で微笑み合ったけど、僕だけは内心緊張しすぎて落ち着かないでいる。
 
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