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先生の言う通り風邪を引きかけていただけだったのか、その後は順調に体調も回復していった。色々と張り詰めていた気持ちが切れてしまったのかも知れないと思った。
海星は悠馬にも気を使い、放課後も一緒に遊んだりするようになったが、番になったことは話していない。噛み痕は長い襟足とシャツの襟で隠れている。制服も冬用に衣替えになると、更に見えなくなる。ならば、なるべく誰にも言いたくないと、伊央から海星に頼んだ。
誰かに言ってしまえば、もしも噂になってしまった時に誰かを疑わなければならなくなる。海星も叶翔に負けず劣らず人気のある男子であることから、伊央と番になったと知られれば、悪目立ちするのは伊央だ。
伊央はなるべくなら、高校生活を目立たず騒がず滞りなく過ごしたい。
叶翔との関係は悪化するかと思いきや、全くそんなことはなかった。スキンシップや、伊央の部屋に遊びに来ることは無くなったが、時には電話で話もするし、朝一緒に登校する日もある。
かと言って『普通の友達』に慣れることはなく、心のどこかではずっと蟠りを持っている。それはきっと伊央だけではないように思う。叶翔が伊央が困らないように配慮してくれいるのが痛々しいほどに伝わってくる。それでも、完全に距離を置く選択肢も選べなかった二人は、お互い『普通の友達』を演じるしかなかった。
秋らしい気候になり、そのうち北風が寒いと感じるようになってきた。そろそろ伊央は発情期が来る頃である。病院の先生の言う通り、きっとオメガ性はそんなに強くはなさそうだ。前回、海星と番になった時も、初日だけ苦しんだが二日目からは抑制剤が効いてくれた。
そして海星の方が敏感にフェロモンの匂いを察知するため、本人よりも先に発情期に気付き対処してくれる。今回も自覚症状より先に海星が気付くと思っている。
しかし……明らかに変だと気付いたのは、冬休みに入る直前だった。
学期末のテスト期間中も、伊央は海星の家で過ごしていた。なのに、フェロモンの匂いがすると海星が言ってこない。それは海星自身も感じていたようで、前回の発情期から計算して見ると、もう今回来るはずの発情期が終わっていてもいいような時期になっていると気が付いた。
「まだ、オメガ性が安定してないのかな? でも、もう半年以上経ってるのに」
「明日でテスト終わるから、帰りに病院行ってみる? 些細なことでも専門の人に相談するのがいいよ」
海星は体調を気遣ってくれた。
特に不調はない。食欲もあるし、夜もぐっすり眠れる。
それでも海星は心配なようで「今日、泊まりなよ」と言ってきたが、「大丈夫だよ」と返し、自宅へと帰った。テスト前に浮かれてしまいそうだと思ったのは内緒だ。
海星が過度に心配してくれるのは、特別感があって好きだ。本人に言うと「本気で心配してるんだぞ」と言われてしまいそうだから黙っているのだが……。
明日はテストからも解放されるから、明日は泊めてと頼んでおく。
帰ったらすぐにメッセージを送ろうと思いながら自宅へと向かった。
自宅間近の坂道を上っていたら、背後から伊央を呼ぶ声。振り返ると叶翔だった。
「叶翔も今帰り?」
「そう。友達と勉強して帰ってきたところ」
叶翔が伊央に追いつき、隣を歩く。手には有名なコーヒーチェーン店のドリンクカップを持っていた。
「飲む? 新作の、なんか甘いやつ」
「何味か分からないの?」
「友達がまとめて頼んでくれたから。チョコと、ナッツ系の味がするんだけど、悪ふざけて色々カスタムされたら何味か分かんなくなった」
しかも大きなサイズを注文されたと苦笑いを浮かべている。
そんな叶翔とふと目が合った。意外な表情でこちらを凝視していて、伊央は虚を突かれたような反応を返してしまう。
「どうかしたの? 叶翔……」
「———どうかしたのって、伊央は気付いてないってこと?」
「何に?」
叶翔の表情がみるみる変わっていく。しかしそこから意図は読み取れない。
すると叶翔は「早く家に入れ」と、伊央から距離を取ろうとした。
「何? なんで? ハッキリ言ってよ」
家はもうすぐそこだ。言われなくても帰るからここにいるのだ。なのに、叶翔は一体何を焦っているのか、見当もつかない。
「伊央、発情期?」
「え……?」
「匂いが……なんで……伊央は海星と番になって……それなのに……伊央の匂いが復活してる……?」
「待って、それってどういうことなの?」
「俺にも分かんねぇよ。でも伊央の匂いがするんだよ。オメガの匂いが!! だから、早く俺から逃げろ!!」
叶翔が伊央の背中を押す。
(なんで? 海星君の家を出るまではなんともなかったのに……)
でも叶翔がこんなことで嘘を吐くような人ではないのも確かなのだ。
伊央は混乱しながらも急いで走り、玄関へ飛び込んだ。
激しく息切れしている。
叶翔は大丈夫だっただろうか。
海星とは本当に番になれていた。叶翔もそれで伊央に番が出来たと気付いたから間違いない。
なのに、その叶翔が再び伊央の匂いが復活したと言い出した。
(発情期? いや、そんなんじゃない。体は平気だし、海星君だって何も言わなかった。でも、じゃあ何で……)
海星は悠馬にも気を使い、放課後も一緒に遊んだりするようになったが、番になったことは話していない。噛み痕は長い襟足とシャツの襟で隠れている。制服も冬用に衣替えになると、更に見えなくなる。ならば、なるべく誰にも言いたくないと、伊央から海星に頼んだ。
誰かに言ってしまえば、もしも噂になってしまった時に誰かを疑わなければならなくなる。海星も叶翔に負けず劣らず人気のある男子であることから、伊央と番になったと知られれば、悪目立ちするのは伊央だ。
伊央はなるべくなら、高校生活を目立たず騒がず滞りなく過ごしたい。
叶翔との関係は悪化するかと思いきや、全くそんなことはなかった。スキンシップや、伊央の部屋に遊びに来ることは無くなったが、時には電話で話もするし、朝一緒に登校する日もある。
かと言って『普通の友達』に慣れることはなく、心のどこかではずっと蟠りを持っている。それはきっと伊央だけではないように思う。叶翔が伊央が困らないように配慮してくれいるのが痛々しいほどに伝わってくる。それでも、完全に距離を置く選択肢も選べなかった二人は、お互い『普通の友達』を演じるしかなかった。
秋らしい気候になり、そのうち北風が寒いと感じるようになってきた。そろそろ伊央は発情期が来る頃である。病院の先生の言う通り、きっとオメガ性はそんなに強くはなさそうだ。前回、海星と番になった時も、初日だけ苦しんだが二日目からは抑制剤が効いてくれた。
そして海星の方が敏感にフェロモンの匂いを察知するため、本人よりも先に発情期に気付き対処してくれる。今回も自覚症状より先に海星が気付くと思っている。
しかし……明らかに変だと気付いたのは、冬休みに入る直前だった。
学期末のテスト期間中も、伊央は海星の家で過ごしていた。なのに、フェロモンの匂いがすると海星が言ってこない。それは海星自身も感じていたようで、前回の発情期から計算して見ると、もう今回来るはずの発情期が終わっていてもいいような時期になっていると気が付いた。
「まだ、オメガ性が安定してないのかな? でも、もう半年以上経ってるのに」
「明日でテスト終わるから、帰りに病院行ってみる? 些細なことでも専門の人に相談するのがいいよ」
海星は体調を気遣ってくれた。
特に不調はない。食欲もあるし、夜もぐっすり眠れる。
それでも海星は心配なようで「今日、泊まりなよ」と言ってきたが、「大丈夫だよ」と返し、自宅へと帰った。テスト前に浮かれてしまいそうだと思ったのは内緒だ。
海星が過度に心配してくれるのは、特別感があって好きだ。本人に言うと「本気で心配してるんだぞ」と言われてしまいそうだから黙っているのだが……。
明日はテストからも解放されるから、明日は泊めてと頼んでおく。
帰ったらすぐにメッセージを送ろうと思いながら自宅へと向かった。
自宅間近の坂道を上っていたら、背後から伊央を呼ぶ声。振り返ると叶翔だった。
「叶翔も今帰り?」
「そう。友達と勉強して帰ってきたところ」
叶翔が伊央に追いつき、隣を歩く。手には有名なコーヒーチェーン店のドリンクカップを持っていた。
「飲む? 新作の、なんか甘いやつ」
「何味か分からないの?」
「友達がまとめて頼んでくれたから。チョコと、ナッツ系の味がするんだけど、悪ふざけて色々カスタムされたら何味か分かんなくなった」
しかも大きなサイズを注文されたと苦笑いを浮かべている。
そんな叶翔とふと目が合った。意外な表情でこちらを凝視していて、伊央は虚を突かれたような反応を返してしまう。
「どうかしたの? 叶翔……」
「———どうかしたのって、伊央は気付いてないってこと?」
「何に?」
叶翔の表情がみるみる変わっていく。しかしそこから意図は読み取れない。
すると叶翔は「早く家に入れ」と、伊央から距離を取ろうとした。
「何? なんで? ハッキリ言ってよ」
家はもうすぐそこだ。言われなくても帰るからここにいるのだ。なのに、叶翔は一体何を焦っているのか、見当もつかない。
「伊央、発情期?」
「え……?」
「匂いが……なんで……伊央は海星と番になって……それなのに……伊央の匂いが復活してる……?」
「待って、それってどういうことなの?」
「俺にも分かんねぇよ。でも伊央の匂いがするんだよ。オメガの匂いが!! だから、早く俺から逃げろ!!」
叶翔が伊央の背中を押す。
(なんで? 海星君の家を出るまではなんともなかったのに……)
でも叶翔がこんなことで嘘を吐くような人ではないのも確かなのだ。
伊央は混乱しながらも急いで走り、玄関へ飛び込んだ。
激しく息切れしている。
叶翔は大丈夫だっただろうか。
海星とは本当に番になれていた。叶翔もそれで伊央に番が出来たと気付いたから間違いない。
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