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短い時間の中での我儘
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『これから、樹君はどうなるの?』
思いは通じ合い、樹の魂を救えたと捉えた
だが、樹は一度死んだ身
なにせ、陽菜がここに来る前
樹の葬儀が執り行われていた
それほど時間はたっていないとは思うが、陽菜がここにいること自体も疑問を隠せない
『心配することはないです、大丈夫
私があなた達を招いた
元の場所へ帰すだけです』
真白は微笑み、指を刺した先に道が開かれた
陽菜がここにくる時に通った道だ
闇深く、少し恐怖が募る
『行ってください、陽菜さん、樹さん
あなた方が幸せな道へ紡げることを
祈ります
この先は、二人で進むことで意味がある
はじめの一歩なのです』
陽菜と樹の事情を知ってるからこそ、二人の門出を祝うような言葉
真白が、二人をこの場に導いてくれたことに感謝した
そのおかげで、また樹と会話することが叶ったのだから
『ありがとう、真白さん』
その言葉を最後に、樹と陽菜はその場を後にした
もう、振り返ることはない
二人の後ろ姿を真白は、微笑ましく見つめていた
お互いの存在を確かめるように、手を繋いで歩く
微かな靴音が響く、その音が心地よく感じた
『陽菜とこうして手を繋いで歩くとは
考えもしなかったな』
『私もだよ…樹君の手は変わらないね
あの頃と一緒であったかくて、安心する』
懐かしむように陽菜は微笑んで、繋いだ手を小さく握り返した
まだ離れたくない、とそう思わせるかのように
『陽菜、俺は違う道へ
行かなくてはならないんだ』
現実に戻る為に、二人は一度別れなくては
いけない
生者と死者、お互いが通る道筋は険しく困難
けれど、終わりはない
これから二人が訪れるのは、始まりなのだから
『そう、なんだ…
じゃあ、ここでお別れなの?』
小さく頷く樹
別れがこんなに寂しいとは思えなかった
愛しい人だからこそ、二度と会えなくなってしまうかと、そんな錯覚を起こしそうになる
『陽菜、大丈夫だよ
約束しただろ、一人にしないって
陽菜だけを愛するって』
陽菜の頬に手を添え、親指で柔らかな頬を撫でる
この感触も名残惜しく思う
陽菜は樹の手に、自分の手を添えてぬくもりを確かめた
樹の手には、ぬくもりだけではない思い出の数々を陽菜に思い出させる
『絶対よ、嘘ついたら悪魔に魂
捧げちゃうかもしれない』
『酷いことを言うな…』
苦笑いをした樹はゆっくりと陽菜の頬から
手を離し、抱擁した
突然の抱擁に驚きを隠せずに、陽菜の手は宙を彷徨う
樹は陽菜の耳元で言葉を紡ぐ
『迎えに行くから、いい子で待ってて』
本当は一緒に帰りたい、と我儘を言いたくなる
けれど、それでは樹を困らせるだけ
今、頷いてしまえばきっと私は現実に戻る
それが酷く、今は辛い
会えない、ということはもうないのに
だから、せめてこの短い時間の中、思いを掛けることは許して欲しい
宙に彷徨った手を、樹の背中に回した
名残惜しくて仕方がない
涙が溢れ出そうになる
だけど、樹の前では笑顔でいたいから、と
涙を引っ込める
『待ってるね、樹君
行ってらっしゃい、ちゃんと迎えに
きてね』
笑顔で樹に微笑み、陽菜は現実へと戻っていった
思いは通じ合い、樹の魂を救えたと捉えた
だが、樹は一度死んだ身
なにせ、陽菜がここに来る前
樹の葬儀が執り行われていた
それほど時間はたっていないとは思うが、陽菜がここにいること自体も疑問を隠せない
『心配することはないです、大丈夫
私があなた達を招いた
元の場所へ帰すだけです』
真白は微笑み、指を刺した先に道が開かれた
陽菜がここにくる時に通った道だ
闇深く、少し恐怖が募る
『行ってください、陽菜さん、樹さん
あなた方が幸せな道へ紡げることを
祈ります
この先は、二人で進むことで意味がある
はじめの一歩なのです』
陽菜と樹の事情を知ってるからこそ、二人の門出を祝うような言葉
真白が、二人をこの場に導いてくれたことに感謝した
そのおかげで、また樹と会話することが叶ったのだから
『ありがとう、真白さん』
その言葉を最後に、樹と陽菜はその場を後にした
もう、振り返ることはない
二人の後ろ姿を真白は、微笑ましく見つめていた
お互いの存在を確かめるように、手を繋いで歩く
微かな靴音が響く、その音が心地よく感じた
『陽菜とこうして手を繋いで歩くとは
考えもしなかったな』
『私もだよ…樹君の手は変わらないね
あの頃と一緒であったかくて、安心する』
懐かしむように陽菜は微笑んで、繋いだ手を小さく握り返した
まだ離れたくない、とそう思わせるかのように
『陽菜、俺は違う道へ
行かなくてはならないんだ』
現実に戻る為に、二人は一度別れなくては
いけない
生者と死者、お互いが通る道筋は険しく困難
けれど、終わりはない
これから二人が訪れるのは、始まりなのだから
『そう、なんだ…
じゃあ、ここでお別れなの?』
小さく頷く樹
別れがこんなに寂しいとは思えなかった
愛しい人だからこそ、二度と会えなくなってしまうかと、そんな錯覚を起こしそうになる
『陽菜、大丈夫だよ
約束しただろ、一人にしないって
陽菜だけを愛するって』
陽菜の頬に手を添え、親指で柔らかな頬を撫でる
この感触も名残惜しく思う
陽菜は樹の手に、自分の手を添えてぬくもりを確かめた
樹の手には、ぬくもりだけではない思い出の数々を陽菜に思い出させる
『絶対よ、嘘ついたら悪魔に魂
捧げちゃうかもしれない』
『酷いことを言うな…』
苦笑いをした樹はゆっくりと陽菜の頬から
手を離し、抱擁した
突然の抱擁に驚きを隠せずに、陽菜の手は宙を彷徨う
樹は陽菜の耳元で言葉を紡ぐ
『迎えに行くから、いい子で待ってて』
本当は一緒に帰りたい、と我儘を言いたくなる
けれど、それでは樹を困らせるだけ
今、頷いてしまえばきっと私は現実に戻る
それが酷く、今は辛い
会えない、ということはもうないのに
だから、せめてこの短い時間の中、思いを掛けることは許して欲しい
宙に彷徨った手を、樹の背中に回した
名残惜しくて仕方がない
涙が溢れ出そうになる
だけど、樹の前では笑顔でいたいから、と
涙を引っ込める
『待ってるね、樹君
行ってらっしゃい、ちゃんと迎えに
きてね』
笑顔で樹に微笑み、陽菜は現実へと戻っていった
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