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1章 旅立ち
8話 さらばクウラの街
しおりを挟む「いやぁ。まさか冒険者になって初めて討伐した魔獣がバスターベアーとはな」
「ボアイノシシを退治するクエストだったのにね」
バスターベアーを倒したライヤとキョウカは近くにあった石に腰を下ろして一服していた。
「ライヤ!キョウカ!そこにいるのか!?」
「あ、師匠の声だ!おーい!こっちだー!」
マキの声がした方を向き手を振る。すると少しした後に草むらの中から幼い顔が見えた。
「おお!無事だったな!」
「ネンカ達がいなくても平気だったか?」
「ったく。自分達からいなくなっといてまあ」
マキが草むらを抜けてライヤ達へと歩き出す。その後ろにはイリュージョンバットの幻覚を見せられていたエンカとネンカもいた。
「お二人も無事みたいですね。って何持ってるんですか?」
「これか?ボアイノシシの足」
「冒険者は討伐した魔獣の一部を持って帰る事でクエスト達成になるんだ」
キョウカの質問にエンカとネンカが笑顔で答える。どうやらライヤ達を探している途中に目的の魔獣を狩ってしまっていた様だ。
「それはまあいいとして、これはお前がやったのか?」
マキが周りを見渡してライヤに問いかける。当然近くにはライヤが倒したバスターベアーが寝転がっている。
「え、いや。バスターベアーから必死に逃げてたら雷が落ちてきて!命拾いしたー!」
「嘘下手くそ過ぎだろ。私らは雷を見てここに来たが、あれはどう見ても自然のものじゃねえよ」
口笛を吹いて目線を逸らすライヤはマキの言葉に再度驚き慌てる。
「それにライヤの指輪一個増えてるしな」
「そんな指輪行きにはつけてなかったよな?」
「そ、それは」
ライヤが必死に言い訳を考えようと頑張るが、そんなものは浮かんでこない。助けを求めようとキョウカに視線を向けるが大きなため息をつかれた。もう手遅れと言うことか。
「まあいいよ。冒険者に秘密は尽きもんだ。それが切り札だって言うなら尚更な」
マキの寛大な発言にライヤは胸を撫で下ろす。恐らくこの三人ならばオリジナルリングを奪ったりはしないと思うが、念には念を。それにオリジナルリングの存在を知った事で魔族から襲われる様になる可能性も捨てきれない。
「・・・帰ろうぜ。バスターベアーの肉は高く売れる。運ぶの手伝ってくれ」
「はい!喜んで!」
「バスターベアーはエンカ達が倒した事にしといてやるよ!」
「感謝しろよー!」
「はい、ありがとうございます」
こうしてライヤの初クエストは幕を閉じた。そしてバスターベアーの肉で得た臨時収入でささやかな贅沢をしてクウラの街で一夜を過ごした。
「行くのか?」
早朝一番目の馬車。ライヤとキョウカをファイヤーシスターズは見送りに来ていた。
「ありがとうございました。師匠達のご指導絶対に忘れません」
「あんたなんか教わってた?」
キョウカがライヤに身も蓋もないことを言うがそこはあえてスルーする。
「寂しくなるな」
「いっその事エンカ達も行くか」
「馬鹿野郎。昨日も迷惑かけた癖に更に迷惑かける気か?大人しく見送れ」
マキの言葉に二人は静かに頷く。その様子を見ているとなんだかライヤも少し寂しくなってくる。
「元気でな。頑張って目的を達成しろよ」
「はい!行ってきます!」
マキ達にオリジナルリングの事は言っていないが目的がある事は言っている。その目的を達成する為に旅をしなければならない事も。ライヤの言葉が終わると馬車はゆっくりと走り出した。
◇
「行っちまったな」
馬車が見えなくなるまで手を振っていたエンカは小さく呟く。
「まあ仕方ねえな」
ネンカも小さな声でそれに返事をする。その二人を見てマキは口を開いた。
「お前ら、あいつら楽しそうな事してるよな」
「ん?」
「そうだな。楽しそうだ」
マキに返事をする二人の顔は先程より少し明るい。それを見てマキは言葉を出す。
「なら、私らも冒険に出ないか?」
「「え?」」
「貯金使って色んな街に行って、そこでクエスト受けて、ある程度金が貯まったらまた別の街へ。悪いやつとか倒して旅先で偶然あいつらに会ったりとか、楽しそうだろ?」
マキのその提案にエンカとネンカは少し黙り込んだ後、満面の笑みを浮かべた。
「「楽しそうだ!行く!!」」
二人の肯定を聞きマキも笑顔を見せる。
「なら準備しな。午後一番の馬車で出るぜ」
「ってかそれならあいつらと行ってもよかったくね?」
「だなー!」
エンカとネンカはそう言って笑うがマキの顔は曇った。マキにはライヤの雷に心当たりがあった。もしあれがマキの想像通りもものだったとしたら。
「いいだろ。あいつらはあいつらの冒険をしたいんだろ」
あまりいい嘘ではないが二人はマキの言葉に納得してくれた様だ。このままライヤ達について行けば、二人が危険に晒させる事もあるだろう。
(悪いな。出会ったばかりのあいつらより、私は妹達を選ぶ。違う場所から武運を祈ってるぜ、お前ら)
◇
「そうだ。この指輪返すよ。また貸してくれてありがとな」
馬車の中でライヤは小さな声でキョウカに声をかけて指輪を渡す。この馬車はクウラの街に来た時の様な馬車ではなく観光の為の馬車。故に他の乗客もいるからの配慮だ。
「ああ。それもうライヤが持ってなよ。私が持ってても使えないし、あんたはその指輪に適正がある」
ライヤの雷の扱いは大したものだ。普通の人ならその有り余る力に飲まれて雷は暴走してしまう。だがライヤが使う時は全く暴走などせずに更にキョウカはしっかりと避けて雷が動いた。それは簡単な事ではない。
「そりゃ、そうか」
「うん。あんたなら邪心に呑まれたりもしないと思うし。封印は雷鳴の指輪には封印は施してあるしね」
「封印?邪心?」
「そういえば話してなかったっけ」
オリジナルリングには強すぎるが故に欠点が存在する。それは邪悪な心を吸収する事。邪悪な心の持ち主がオリジナルリングを使うと闇に取り憑かれて暴走してしまうのだ。それを防ぐ為にアリシス一族は封印を施しているのだ。
「封印って使えない感じなんだと思ってた。使えるけど邪心には反応しないって事が封印なんだな」
「まあね。その点は割と嬉しい誤算なんだけど」
竜から貰った指輪で超強力な力を持っているのにアリシス一族が封印をするとなんのデメリットもなく使えるというのはなかなか凄い事だ。まあ適正がない人は指輪を制御できず暴走させてしまうのだろうが。
「だから七つの指輪を奪った魔族も指輪をばら撒いたんだな。一人で全部なんて使える訳ないから」
「それは分からないけど、邪悪な心に乗っ取られる人を出す訳には行かない。だから急ぐ必要があるの」
キョウカはそう言ってライヤの中指にはめられた雷鳴の指輪に触れる。すると雷鳴の指輪は光を発する。その光が伸びる先は馬車が向かっている方向だ。
「ああ!急いでいかないとな!」
「まあ、ライヤのせいで一日無駄にして早朝便で出たけど観光馬車だからゆっくりしか動かないんだけどね」
「ごめん!」
こうして次なる指輪を探しにライヤとキョウカはクウラの街を出発した。
◇
「これで、足りるでしょうか」
ボロボロのフードを深く被った少女は同じくボロボロの袋を強面の男に渡す。
「ああ?少し足りねえなぁ」
「そんな!前回はこの金額で足りたはず!お願いします!薬を売ってください!」
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「誰が叫んでいいって言った?」
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