original ring

藤丸セブン

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2章 冒険の仲間

21話 条件

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 「えっと、これどういう状況だ?」
「ちょっとよく分からない」
 マキセの街の入り口となる門の直ぐ後ろ。少女を人質にしているのに表情一つ動かさないレアと話の進みについて行けていないライヤとキョウカ。しかし今の主役はこの二人だ。
「自己紹介がまだだったね。僕はソル・アルベス。この精神の指輪の使い手にしてこの街、いや。国の王さ」
「どうして急に自己紹介を始めたのか分かりませんがナズナです」
「ナズナ。うん。いい響きだ。僕の妻に相応しい名前だね」
「あなたのお嫁さんになる前にやることがありますよ。それを果たして下さい」
 ソルが体を震わせて楽しそうにしているがナズナは冷たい言葉を返す。本当に状況が掴めない。
「だからそれは出来ないんだよ。それ以外の事ならなんでもしてあげるよ」
「坊っちゃんに出来る事ならなんでも、と訂正致します」
「いえ、他に必要な事はありません。お姉様にオリジナルリングを返して下さい」
 ナズナは絶対に引かずに同じく要求を繰り返す。ナズナにとって一番大事な事がそこだからだろう。
「やれやれ。僕の花嫁にこんな事はしたくなかったが、もし僕の妻にならないのならこの子供を殺す」
 ソルの雰囲気が一変する。その言葉に嘘は感じられない。この二人はやると言ったら確実に実行に移すだろう。
「くっ」
「冒険者である君達は罪のない人間を見殺しには出来ない。見殺しにしてその情報を広められたら信用が消えるからね」
 冒険者は信用が命の仕事だ。もし罪のない少女を見殺しになんてしたらそのものは一生冒険者家業は続けられないだろう。
「それより、君達には覚悟が見られない。犠牲を出してでもミッションを成功させようと言う執念が」
 ソルの言動を刺激しない様に、それでいてオリジナルリングを取り返す方法を頭をフル回転させて考える。しかし。どの様に動いてもその様な事は不可能だ。
「今は」
「ん、なんだって?僕の妻になる気になった?」
 先程の殺意とも敵意とも言えない迫力を仕舞いソルはまた穏やかな顔をする。そこでナズナは覚悟を決めた。
「分かりました。条件を変えます」
「ああ。教えてくれ」
 ナズナはチラッとライヤとキョウカを見るとその条件を伝えた。
「条件は三つ。一つ、街の人々には手を出さないこと。二つ、私に洗脳は使わないこと。三つ、結婚式は最低でも三日後でお願いします」
「ああ。分かったよ」
「待ってください。最初の二つは分かります。しかし最後はどう言う意味ですか?」
 ソルはナズナの条件に即答するがレアが割り込んだ。
「そのままの意味ですよ?」
「その三日以内に助けが来るとでも?」
 レアがナズナを強く睨むがナズナはそれに動じずレアの瞳を見つめ返す。
「いえ。結婚するのなら私もソルさんを愛したいです。しかし今すぐのというのは難しいのでお互いの事を知る時間が欲しいのです」
「三日で坊っちゃんを愛せると?」
「それは分かりません。でも私がソルさんを愛するまでなんていったら結婚式が出来なくなる可能性もある。だからお互いに良い時間を指定したつもりです」
 ナズナのあまりにはっきりとした言い方にレアはそれ以上何も言ってこない。
「なあ。ナズナってあんなに強い子だったか?」
「ナズナちゃんは強い子だったけど。あそこまでとは思ってなかった」
 ヒソヒソと話し合うライヤとキョウカ。その二人にナズナが振り返ると深く頭を下げた。
「お兄様。お姉様。今までありがとうございました。お二人と冒険出来て、私は幸せでした。これからも、頑張って下さいね」
「じゃあ行こうか」
 ライヤとキョウカを洗脳されていると思われる門番が街の門から出す。
「ナズナ!」
「ナズナちゃん!」
 門が少しずつ閉まっていく。その間からは街の中へと入っていくナズナの様子が見られる。門が完全に閉まる直前にナズナが振り返り小さな声で告げた。
「すみません」
「ナズナァァ!!」
 マキセの街の頑丈な門は大きな音を立てて閉鎖した。
  ◇
「さて、ここが僕の城だよ」
 マキセの街に聳え立つ一際大きな建物。そこがソルの住居となっている様だ。ナズナは注意深く辺りを見渡しながらソルについて行く。その建物は城と言う名前がよく似合う程西洋の城をモチーフに作られていた。
「ここが僕の部屋だ。出来れば同じ部屋にいて欲しいけれど、君の意見も尊重して式をあげるまでの三日間は隣の部屋が君の部屋だ」
「ありがとうございます。所でレアさんの部屋はどちらなのですか?」
「レア?君の部屋がレアの部屋だよ。三日間だけだから同室でいいよね」
 別室を用意はしたがナズナを一人にはしない様にしていると言う事か。どうやら隙を見て逃げ出す事は出来ない様だ。
「ああ。念の為言っておくけれど、結婚式前に逃げ出す事は許されないよ。逃げた場合住民が死ぬ事になる」
「分かっています。こちらが約束を破ったならそちらも約束を守る必要はありませんもんね」
 ナズナの考えは分かっているとでも言いたげな表情を浮かべてソルは笑う。残念ながら分かっていないがそこは何も言わないでおこう。
「それと、その指輪はこちらてで預かっておこう」
「なっ!何故ですか?」
「当然抵抗させない為さ。大丈夫。三年も共に暮らせば返してあげよう」
 ソルの言葉にナズナは躊躇いながらも頷き変化の指輪を指から外した。
「こちらへ」
「あ、ありがとうございます。レアさんは随分と良く洗脳してあるのですね」
「いいや、レアは洗脳していないよ」
 指輪を仕舞うケースをいつの間にか取り出していたレアを見てナズナは疑問に思っていた事を聞いた。
「ではレアさんは自らの意思でソルさんのお手伝いを?」
「ええ。坊っちゃんは私の全てですから。坊っちゃんに全てを捧げるのは必然です」
「全て、ですか」
 ナズナはレアの言葉で引っかかった言葉を復唱する。全てを捧げると言う事は、どれ程のものなのだろう。
「さあ。愛し合おうじゃないか。君の為に高級なベットを降ろして来るから」
「そう言う事は結婚してからです!!まずはお互いの事を知りましょう!」
「お互いを知るには体を重ねるのが一番」
「な訳ないでしょ!」
 ソルに大声を出したせいか後ろに立っているレアの敵意が強い。むしろ敵意ではなく隙ができれば殺してやろうという殺意まで感じる。
「ふむ。じゃあどうやってお互いを知るんだい」
「話をしましょう。まずは私の話から」
 それからナズナは自分の事を話した。家族のこと。自分が獣人であるという事。獣人の末路、フォクスやジュウカ村の人々、ドーベルのこと。キョウカとライヤの事。
「この様な事があったから、私はお二人の助けになりたいと。ここにきたです」
 ナズナが話し終わるとソルはレアに手渡されたハンカチを持って号泣していた。
「え?どうされたんですか?」
「どうも何も!そんな悲しい過去を持っていたなんて。今日までよく頑張ったねぇ!これからは僕が君を幸せにするから!」
 ナズナはドン底からキョウカとライヤのお陰で救われた、という話をしたつもりだったがどうやらソルにはそうは聞こえなかった様だ。
「では、次はソルさんのお話も」
 ナズナがそう口にしかけるとレアがナイフを握りナズナの喉元に突きつけていた。
「・・・何ですか?私を殺せばソルさんが悲しむのでは?」
「坊っちゃんの過去は話さない」
 二人が睨み合っているとソルが笑顔で二人の間に割って入る。
「ハッハッハ。やめてくれ君達。僕の為に争わないでおくれ」
 レアはその言葉で引き下がったがナズナは「あなたの為なんかに争いたくないです!」と言いたい気持ちを抑えてレアから距離を取る。
「すみません。話しづらい内容だったんですね」
「いいや。君も話してくれたんだ。ならば僕も話そう」
 ソルはそう言うと長い廊下を歩き出し何処かへ消えていった。ソルが歩き出した直後にレアもソルについていく。
 「あの、どちらへ?」
「倉庫だよ。僕のアルバムとか思い出とかを紹介しようと思ってね」
 そう言うとソルは本当に部屋から出て行く。この部屋にいるのは正真正銘ナズナ一人だけだ。
 (これは、逃げられる?いや、これは違う。試されている?)
 一見一人になったかの様に思えたがここから城を出ようと思うと中で遭遇した兜や鎧を着た洗脳された者たちに出会う。そうすればナズナが逃亡を測った事など簡単にバレてしまうだろう。
 (私に出来る事は、信じてお兄様とお姉様を待つ事だけ。信じていますよ、お二人共)
 ナズナは雲一つないほどの晴天な空を窓から眺めながら今は遠く離れた場所にいる二人に願う様に手を合わせた。
 
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