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2章 冒険の仲間
23話 睡眠歌
しおりを挟む「では、死んでいただきます」
「大人しく捕まってもらうよ」
人がいなくなったマキセの街の住宅街で二人の女が睨み合う。片方はナイフを持ったレア、もう片方はボイスが肩に止まったキョウカだ。
「ボイス、用意はいいね」
キョウカの声にボイスが頷く。そしてレアはナイフを強く握りしめキョウカへ走り出す。
「今!」
レアが走り出した直前ボイスが小さな口を極限まで広げて高周波の音を響かせる。だが。
「はっ?止まらない!?」
「音程度で私を止められるとでも?」
ボイスが放った音は鼓膜が破れないギリギリを狙った騒音の膜だ。それをものともせずレアは膜に突進しキョウカにナイフを振り下ろした。
「こっの!」
キョウカの心臓一点のみを狙ったレアのナイフは咄嗟に身を捻ったことにより心臓には当らず腕を切り裂いていく。
「インビジブルフィールド!」
ボイスの妨害が効かないとなるとキョウカの打つ手は限られてくる。確実にレアを無力化する為には一度体制を立て直す必要があった。
「インビジブルフィールド、素晴らしい魔道具ですね。自分の姿だけでなく血の後まで消すとは」
腕から流れる血はなかなかの量だったがインビジブルフィールドを発動するとその血も姿を消す。そのかわり三分しか持たないのが欠点だ。
「キュア、お願い」
「キュ」
物陰に隠れてインビジブルフィールドを解除する。キュアが腕を治療してくれている間に次の作戦を決行すべくキョウカは頭を回す。
「さて、どうしたものか」
「何がです?」
「!?」
背後から声が聞こえると投げナイフがキョウカを襲う。
「ボイス!」
レア自身には効かなかったがナイフだけなら音の障壁で弾く事は出来る。投げナイフは地面に強く突き刺さった。
「げ、凄え威力」
「小細工が上手ですね。しかしそれももう終わりです」
「というかあんた何者なの?もしかして国の暗部に所属してたとかじゃないよね」
キョウカの言葉にレアはピクリと反応した。
「え?マジ?」
「・・・答える義理はありません」
国の暗部とはこの地域で一番大きな街のプロの暗殺機関の別名だ。普通の住民なら知る良しはないが生憎キョウカは普通ではない。
「嘘。国に都合の悪い事を暗殺する暗部所属だとかありえなくない?この街そんな不味い?あ、不味いか」
「黙りなさい!今の私は暗部ではない!坊っちゃんの召使い、レアです!!」
キョウカにそれ以上喋らせまいとレアはキョウカに肉薄する。
「なるほど、元暗部ってとこか!なにか任務にでも失敗した?」
「黙れ!!」
レアが怒りに任せてナイフを振るう。通常時ならこの至近距離に接近されてはキョウカに勝ち目はない。しかしレアが怒りで我を忘れている事が幸いして攻撃が単調になっている。これならキョウカでも躱せる。
「でも、長くは持たないな」
致命傷にはなっていないがレアのナイフは少しずつキョウカの肉を抉っていく。このままでは負けるのは確実だ。
「ふぅ。もういいです。確実にあなたを殺します」
「くっそ。ごめんライヤ。ナズナちゃん」
落ち着きを取り戻したレアが軽く深呼吸するとそこには殺意に満ちた目があった。
「死ね」
レアは目にも止まらぬ速度でキョウカとの距離を詰めるとキョウカの心臓を真っ二つに、する筈だった。
「え?」
レアは走り出した瞬間に地面に倒れ伏したのだ。
「やっと効いてきたか。まああれだけ興奮してれば効きは遅いか」
「な、何を。し、た」
「一番初めにあんたに撃ったあの音には二つの効果があってね。一つは相手の耳を騒音で潰す攻撃、騒音歌(そうおんか)。そしてもう一つは対象にリラックス効果を与えて睡眠神経に直接眠りを誘導する睡眠歌(すいみんか)がね」
つまりレアは倒れたのではない。眠ったのだ。しかし暗部時代の経験によるものかレアは眠らずに起きている。
「体は完全に睡眠状態にあるのに意識があるとか怖すぎる。とにかく今のうちに捕まえさせてもらうから」
キョウカはライヤから渡された鉄筋捕縛ワイヤーでレアを縛る。
「それと、あんたが起きてるなら聞きたいことがある」
キョウカの問いに返事はなかったが構わず口を動かす。
「オリジナルリングはあんたがあの男に渡したんだってね。あれはどこで手に入れたの?」
勿論答えはない。
「答えろ」
キョウカは今まで見せたことのない程の顔と声でレアを掴む。その表情を見たレアは最後の力を振り絞り舌を突き出した。
「このっ!ふざけん」
そう言ったキョウカの声は突然止まる。その理由は簡単。レアが自分の舌を思い切り噛み切ったからだ。
「はっ?」
目の前でレアが死んだ事にキョウカはその場に立ち尽くす。しかし。在すべく事はそんな事じゃない。
「クッソ」
心の中に大きな後悔を抱えながら念のためレアの脈を確認する。
「死んでる。流石、即死できる様に稽古してたって事?」
悔しさを感じながら先行したライヤの後を追いキョウカも走り出した。
◇
「なっ!レアが、レアが死んだ」
「へ?死んだ?それは可笑しいですよ。お兄様達がレアさんを殺す筈がありません」
城の図書室には相変わらず動く事の出来ないナズナと様子を見ていたソルがいた。
「殺さないだと?いいやレアは死んだ。お前の仲間が殺したんだ!」
「いいえ、お兄様とお姉様がレアさんを殺すなんてあり得ません。絶対に」
断言しきったナズナの瞳にソルは言葉を止める。
「クソ。洗脳!冒険者の者どもよ!僕を守れ!この城に集まれぇ!!」
ソルが指輪を発動してマキセの街の住民を救いにきた冒険者達を城の配置につかせた。しかし。
「ば、バカな。こいつらは熟練の冒険者達だぞ!?何故あんな男一人止められないのだ!?」
冒険者の数は全員で十人。それ程の数でライヤを止めようと襲撃したというのに結果は見事な返り討ちだった。
「当然です」
「何故だ!普通に考えて勝てるわけ無いだろ!?」
ナズナの言葉にソルが食ってかかる。その理由についてナズナは静かに語り始める。
「まず前提としてお兄様は凄く強いです。冒険者としては駆け出しですが、純粋に三人程度の冒険者ならお兄様一人で渡り合えるでしょう」
「化け物じゃないか!!だが、こちらは十人だぞ!!」
「主な理由は、あなたですよ」
ナズナの言葉が理解できないと言う様にソルは顔を歪める。
「だから、戦闘経験が全くないあなたが洗脳して動かしている冒険者など宝の持ち腐れです。あの冒険者達が強いのは自分で考えて行動しているから。それを奪ったのですから、貴方達に勝ち目はありません」
ナズナの言葉にソルが棒立ちになる。
「くっ!こうなれば」
「なっ!何を」
自棄になったソルはナズナの腕を掴み早足で歩き始める。
「いやっ!離して!!」
「うるさい!黙ってついて来い!!」
「きゃぁ!」
ソルが連れてきたのはソルの寝室だった。そこにナズナを押し倒すとソルはおもむろに服を脱ぎ始めた。
「な、何を」
「決まってるだろう。今からお前を襲うんだよ」
全身素っ裸になったソルがナズナの乗るキングサイズのベットに乗る。
「や、やめてください!来ないで!」
「レアがいないこの世の中で生きていくには新しい希望が必要だ。お前がその希望になるんだよ」
「急に何を言い出すんですか!やめて下さい!」
「さあ、体を重ねよう!!」
ソルが小さなナイフでナズナの服を切り裂いた瞬間、寝室の扉が派手に破壊された。
「なぁぁ!?」
ソルが驚きの声を上げて扉を見るとそこには体から大量の電気を放電させている男の姿があった。
「てめぇ、ナズナに何してやがる!!!」
「お兄様!!」
そこには怒りの余り血管がむき出しになったライヤがいた。
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