original ring

藤丸セブン

文字の大きさ
23 / 81
2章 冒険の仲間

23話 睡眠歌

しおりを挟む

「では、死んでいただきます」
「大人しく捕まってもらうよ」
 人がいなくなったマキセの街の住宅街で二人の女が睨み合う。片方はナイフを持ったレア、もう片方はボイスが肩に止まったキョウカだ。
「ボイス、用意はいいね」
 キョウカの声にボイスが頷く。そしてレアはナイフを強く握りしめキョウカへ走り出す。
「今!」
 レアが走り出した直前ボイスが小さな口を極限まで広げて高周波の音を響かせる。だが。
「はっ?止まらない!?」
「音程度で私を止められるとでも?」
 ボイスが放った音は鼓膜が破れないギリギリを狙った騒音の膜だ。それをものともせずレアは膜に突進しキョウカにナイフを振り下ろした。
「こっの!」
 キョウカの心臓一点のみを狙ったレアのナイフは咄嗟に身を捻ったことにより心臓には当らず腕を切り裂いていく。
「インビジブルフィールド!」
 ボイスの妨害が効かないとなるとキョウカの打つ手は限られてくる。確実にレアを無力化する為には一度体制を立て直す必要があった。
「インビジブルフィールド、素晴らしい魔道具ですね。自分の姿だけでなく血の後まで消すとは」
 腕から流れる血はなかなかの量だったがインビジブルフィールドを発動するとその血も姿を消す。そのかわり三分しか持たないのが欠点だ。
「キュア、お願い」
「キュ」
 物陰に隠れてインビジブルフィールドを解除する。キュアが腕を治療してくれている間に次の作戦を決行すべくキョウカは頭を回す。
「さて、どうしたものか」
「何がです?」
「!?」
 背後から声が聞こえると投げナイフがキョウカを襲う。
「ボイス!」
 レア自身には効かなかったがナイフだけなら音の障壁で弾く事は出来る。投げナイフは地面に強く突き刺さった。
「げ、凄え威力」
「小細工が上手ですね。しかしそれももう終わりです」
「というかあんた何者なの?もしかして国の暗部に所属してたとかじゃないよね」
 キョウカの言葉にレアはピクリと反応した。
「え?マジ?」
「・・・答える義理はありません」
 国の暗部とはこの地域で一番大きな街のプロの暗殺機関の別名だ。普通の住民なら知る良しはないが生憎キョウカは普通ではない。
「嘘。国に都合の悪い事を暗殺する暗部所属だとかありえなくない?この街そんな不味い?あ、不味いか」
「黙りなさい!今の私は暗部ではない!坊っちゃんの召使い、レアです!!」
 キョウカにそれ以上喋らせまいとレアはキョウカに肉薄する。
「なるほど、元暗部ってとこか!なにか任務にでも失敗した?」
「黙れ!!」
 レアが怒りに任せてナイフを振るう。通常時ならこの至近距離に接近されてはキョウカに勝ち目はない。しかしレアが怒りで我を忘れている事が幸いして攻撃が単調になっている。これならキョウカでも躱せる。
「でも、長くは持たないな」
 致命傷にはなっていないがレアのナイフは少しずつキョウカの肉を抉っていく。このままでは負けるのは確実だ。
「ふぅ。もういいです。確実にあなたを殺します」
「くっそ。ごめんライヤ。ナズナちゃん」
 落ち着きを取り戻したレアが軽く深呼吸するとそこには殺意に満ちた目があった。
「死ね」
 レアは目にも止まらぬ速度でキョウカとの距離を詰めるとキョウカの心臓を真っ二つに、する筈だった。
「え?」
 レアは走り出した瞬間に地面に倒れ伏したのだ。
「やっと効いてきたか。まああれだけ興奮してれば効きは遅いか」
「な、何を。し、た」
「一番初めにあんたに撃ったあの音には二つの効果があってね。一つは相手の耳を騒音で潰す攻撃、騒音歌(そうおんか)。そしてもう一つは対象にリラックス効果を与えて睡眠神経に直接眠りを誘導する睡眠歌(すいみんか)がね」
 つまりレアは倒れたのではない。眠ったのだ。しかし暗部時代の経験によるものかレアは眠らずに起きている。
「体は完全に睡眠状態にあるのに意識があるとか怖すぎる。とにかく今のうちに捕まえさせてもらうから」
 キョウカはライヤから渡された鉄筋捕縛ワイヤーでレアを縛る。
「それと、あんたが起きてるなら聞きたいことがある」
 キョウカの問いに返事はなかったが構わず口を動かす。
「オリジナルリングはあんたがあの男に渡したんだってね。あれはどこで手に入れたの?」
 勿論答えはない。
「答えろ」
 キョウカは今まで見せたことのない程の顔と声でレアを掴む。その表情を見たレアは最後の力を振り絞り舌を突き出した。
「このっ!ふざけん」
 そう言ったキョウカの声は突然止まる。その理由は簡単。レアが自分の舌を思い切り噛み切ったからだ。
「はっ?」
 目の前でレアが死んだ事にキョウカはその場に立ち尽くす。しかし。在すべく事はそんな事じゃない。
「クッソ」
 心の中に大きな後悔を抱えながら念のためレアの脈を確認する。
「死んでる。流石、即死できる様に稽古してたって事?」
 悔しさを感じながら先行したライヤの後を追いキョウカも走り出した。
  ◇
「なっ!レアが、レアが死んだ」
「へ?死んだ?それは可笑しいですよ。お兄様達がレアさんを殺す筈がありません」
 城の図書室には相変わらず動く事の出来ないナズナと様子を見ていたソルがいた。
「殺さないだと?いいやレアは死んだ。お前の仲間が殺したんだ!」
「いいえ、お兄様とお姉様がレアさんを殺すなんてあり得ません。絶対に」
 断言しきったナズナの瞳にソルは言葉を止める。
「クソ。洗脳!冒険者の者どもよ!僕を守れ!この城に集まれぇ!!」
 ソルが指輪を発動してマキセの街の住民を救いにきた冒険者達を城の配置につかせた。しかし。
「ば、バカな。こいつらは熟練の冒険者達だぞ!?何故あんな男一人止められないのだ!?」
 冒険者の数は全員で十人。それ程の数でライヤを止めようと襲撃したというのに結果は見事な返り討ちだった。
「当然です」
「何故だ!普通に考えて勝てるわけ無いだろ!?」
 ナズナの言葉にソルが食ってかかる。その理由についてナズナは静かに語り始める。
「まず前提としてお兄様は凄く強いです。冒険者としては駆け出しですが、純粋に三人程度の冒険者ならお兄様一人で渡り合えるでしょう」
「化け物じゃないか!!だが、こちらは十人だぞ!!」
「主な理由は、あなたですよ」
 ナズナの言葉が理解できないと言う様にソルは顔を歪める。
「だから、戦闘経験が全くないあなたが洗脳して動かしている冒険者など宝の持ち腐れです。あの冒険者達が強いのは自分で考えて行動しているから。それを奪ったのですから、貴方達に勝ち目はありません」
 ナズナの言葉にソルが棒立ちになる。
「くっ!こうなれば」
「なっ!何を」
 自棄になったソルはナズナの腕を掴み早足で歩き始める。
「いやっ!離して!!」
「うるさい!黙ってついて来い!!」
「きゃぁ!」
 ソルが連れてきたのはソルの寝室だった。そこにナズナを押し倒すとソルはおもむろに服を脱ぎ始めた。
「な、何を」
「決まってるだろう。今からお前を襲うんだよ」
 全身素っ裸になったソルがナズナの乗るキングサイズのベットに乗る。
「や、やめてください!来ないで!」
「レアがいないこの世の中で生きていくには新しい希望が必要だ。お前がその希望になるんだよ」
「急に何を言い出すんですか!やめて下さい!」
「さあ、体を重ねよう!!」
 ソルが小さなナイフでナズナの服を切り裂いた瞬間、寝室の扉が派手に破壊された。
「なぁぁ!?」
 ソルが驚きの声を上げて扉を見るとそこには体から大量の電気を放電させている男の姿があった。
「てめぇ、ナズナに何してやがる!!!」
「お兄様!!」
 そこには怒りの余り血管がむき出しになったライヤがいた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...