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2章 冒険の仲間
31話 歪曲の指輪
しおりを挟む「仲間になりたいだとぉ!?」
「おう」
店主に修繕費プラス迷惑量としてお金を払った後、ナズナも含めて宿屋のライヤの部屋で話の続きが始まった。ちなみにお金を払ったのは全てフィンである。理由は簡単。二人とも無一文だったからだ。
「えっと、まずこの人は何なんですか?」
「あ、ナズナちゃんはそこからだよね」
「いや俺もよく知らねえよこの人の事」
渾身の一撃が全く効いていなかった事に若干拗ねているライヤがフィンに指を指す。
「じゃ、自己紹介と行くかね。俺の名はフィン・フレガルト!これでも割と名の通ってる歴戦の冒険者だ!」
「へー」
「知らない名前の方ですね」
女性二人の反応にフィンが少しがっかりしていると。
「フィン・フレガルト!?フィン・フレガルトと言えば去年月刊冒険者に載ってたブレイズタイガーの群を一人で全滅させたっていうあの!?」
「お!なんだ坊主知ってんのかよ!おうよ!そのフィンさんだぜ」
数分前の険悪な雰囲気は何処へやらライヤとフィンは楽しげに肩を組んでいた。
「で、なんであなたがオリジナルリングを持ってて、更に仲間になりたい訳?」
「ああ。その事は」
「ボクから話しましょー!!!」
フィンが口を開こうとすると空中から声がして小さな人型の妖精が姿を現した。
「あ、おいシル!勝手に出てくるんじゃねえ!!」
その妖精は薄緑色の長い髪を持つ少女の姿をしていた。
「え?うん?キョウカこんな妖精と契約してた?」
「してないしてない。というかフィンが名前知ってるって事は」
「そっ。ボクはフィンの契約妖精さっ!」
空で一回転してシルと呼ばれた妖精はピースサインをする。
「えっとな。こいつはシル。知識の妖精なんて呼ばれてる俺の契約妖精だ」
「ボクの能力は物事を知る事。ボクが分かる事なら何でも聞いてよ!」
空中を凄く楽しげに飛びながら一人一人に握手をして回るシル。
「というか、その見た目で妖精術師なの?しかも私と違って正規の」
「正規?」
「そ。私は準妖精術師だけどこの人はれっきとした妖精術師ってこと」
「それは、どうして分かるのですか?」
ナズナが疑問を声に出す。それにライヤも頷く。今の会話でフィンが妖精術師なのは分かったが何故準ではないのかは分からなかった。
「簡単な話さ。君たち人間の言語を話せる妖精はみんな立派な妖精なの。逆に言えば人間の言葉を話せない妖精は準妖精かそれ以外の妖精だよ」
シルが声を弾ませながら説明する。言われてみればボイスもキュアも人間の言葉を話せない。キュアは人間の言葉を理解しているようだったが話せていないのだから準妖精という事なのだろう。
「まあこいつは知識だけは凄いが戦闘能力はまるでないがな」
「戦闘するのはフィンの役目!知識を蓄えて作戦を出したり考えたりするのがボクの役目さ」
そこまで聞いて少し納得した。強敵のブレイズタイガーの群れを倒すなんて幾らあの力を持ってしても難しい。しかしフィンはライヤの作戦に気づかずにまんまとライヤの罠にハマっていた。結果的には何故か失敗に終わったがシルがフィンに作戦を出していたと言うのなら話は変わってくる。
「じゃ、本題に入ろうか。フィンは今から28年前この世に生まれました」
「そこからかよ」
ツッコミはしたものの大切な話が入るかも知れないと思った一同は黙ってシルの言葉に耳を傾けた。
◇
フィンは幼い頃から冒険者に憧れていた。冒険譚や新聞などで取り上げられる冒険者という存在の虜だったのだ。特にフィンの心を奪ったのはオリジナルリングの伝説。もしオリジナルリングがあるのなら、それを使う事が出来るのなら、どれ程幸せで楽しい毎日が送れるのだろうと。そしてその日は数ヶ月前に当然に現れた。
「おい、何してる?」
フィンが十五歳の頃に契約したシルが「嫌な予感がする」と言った事が理由でギルドを出て狭い路地裏に入ったフィンは赤髪の男と地べたに這いつくばって苦しんでいる女性を見つけた。
「何もしていないって言ったら、君はどうする?」
「分かりやすい嘘つくな。その子に何をした」
フィンは焦りながらも落ち着いていた。早く女性を救わなければならないがこの男から目を離したら死ぬと本能がそう告げていたのだ。
「お兄ちゃーん!ミクリお腹すいたなー!帰ろー!!」
「ミクリ。今は適合者を探す大事な仕事中だろう」
その女は突然空から現れて翼を畳んで女性の上に降り立つ。男の視線がフィンから外れた。
「今しかねえ!!」
フィンは即座に斧に手を掛け目にも止まらぬ速度で男を切り裂いた。
「痛い。なんなんだ君は。初対面の男を斧で斬りつけるなんて人のする事じゃないよ」
「なっ!」
その光景にフィンは目を疑った。斧はしっかり男の心臓を切り裂いていた。だと言うのに男は斧を体から引き抜きピンピンとしている。それどころか段々と傷が治っている。
「お前、魔族か!!」
「ああ。僕はハイヴァンパイアだけど、今君に構っている時間はないよ」
ヴァンパイアの男が戦闘体制に入る。この相手には、勝てない。
「くそ!逃げ」
「お兄ちゃーん!!!!お!な!か!すいた!!!」
逃げようとするフィンを止めたのは同じくヴァンパイアの少女の行動だった。お腹がすいたと言う理由だけで兄の首に思いきり噛みつき皮膚を噛みちぎったのだ。
「分かった、分かったよミクリ。ここは下がる。だからリングを回収するんだ」
「ん?かいふうしにゃくてもひぃいひゃん」
「回収しなくてもいい?・・・それはどうしてだい」
「ほら、そこに適合者がいる」
ミクリと呼ばれたヴァンパイアは女性の指を引きちぎり指輪を取るとフィンに投げる。
「なっ!なんだ!!」
するとフィンとヴァンパイアの兄弟の間に歪みが生じた。そして。
「こ、ここは」
「フィン!気がついたんだね!!君はあの女に指輪を投げられたと思ったら急に上空に飛ばされて落ちてきたんだよ!!」
シルの言葉でフィンは段々と記憶が蘇ってくる。
「あー。と、いうかこの指輪は何だ。シル、知ってるか」
「これはっ。でもそんな。いや、うん間違いない」
シルはフィンの手の中にある指輪をじっくりと観察して言う。
「これ、第七のオリジナルリング、歪曲の指輪だ」
◇
「兄弟のヴァンパイア、ね」
「そいつらがオリジナルリングの適合者を探してたのか」
「でも、なんでフィンさんを助けてくれたのでしょう?」
「いや、あれは向こうの意思じゃなく指輪の暴走。俺が助かったのはまぐれだろうさ」
シルの言葉を聞いた一同は様々に思考を巡らせる。しかしどう考えても答えは出てこない。
「それで、歪曲の指輪ってどんな効果の指輪なんだ?」
「その名の通り、歪ませる指輪さ。歪ませる物は物体から空間、時間、なんてものすら歪ませられる」
「それじゃあさ。あの時俺の攻撃を喰らってもピンピンしてたのは」
そう。ライヤの渾身の一撃を受けてもピンピンしていたのではなく、攻撃そのものを歪ませてフィンに当たらないようにしていたのだ。
「それで、その女性の方は大丈夫だったのですか?」
「いや、残念ながら死んでたよ。骨や心臓があり得ない角度で曲がってたんだとさ」
質問したナズナが暗い顔になるとキョウカが優しくナズナの手を握る。
「それで、なんで仲間になりたいんだ?」
「そりゃ当然ってもんだろう。オリジナルリングを使って悪事を働こうなんて許せねえし、あの女の子の仇もとってやりたい。それに」
フィンが少し黙ると。
「オリジナルリングを使って悪い魔族と戦うとか最高にカッコいいじゃねえか!!」
「「えー」」
先程まで悔しそうに、怒りながら話していたフィンが少年の様に楽しそうに話す様子にナズナとキョウカは落胆の声を上げる。その中。
「分かる!!分かるよそれ!!めちゃくちゃ憧れてた冒険譚の世界だよな!!そりゃテンション上がる!!!」
ライヤはフィンに共感しまくっていた。
「キョウカ、ナズナ。諦めなよ。男ってこう言う生き物だよ」
男と女の温度差が凄いことになったがこの提案を断る必要は一切ない。
「戦力的にめちゃくちゃ強いフィンさんが仲間になってくれるって時点でプラスなのにそのフィンさんがオリジナルリングを持ってるなんて一石二鳥だぜ!!鴨がネギ背負ってきてるぜ!!」
「その通りだな!!よし坊主!これからよろしくな!!」
「おう!!」
ライヤとフィンが拳を強く合わせた後強く握手を交わした。ここに男の友情が生まれたのだ。
「なんか、暑苦しいな」
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