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2章 冒険の仲間
33話 及第点
しおりを挟むファイアーシスターズとトレーニングを始めて数ヶ月が経過した。
「こ、コケー!」
「倒せた、倒せましたよお兄様!お姉様!」
「おー!!素晴らしい!流石俺たちのナズナだ!!」
「まさか一人で倒せるなんて」
トレーニングの効果は絶大でナズナは変化の指輪とマキから教わったナイフ技術でジャイアントコケコースを一人で討伐出来ていた。
「で、次はキョウカの番だが。キョウカの鍛錬はフィンの仕事だったよな」
「おう。キョウカちゃんもナイフ向きじゃねえし妖精なら俺にもいるからな」
「よっしゃボイス!ボクの教え通りにやっちゃって!」
妖精術師の鍛錬は極秘事項らしくフィンもキョウカも他言はしなかったが強くなっているのは確かだろう。
「頑張れよキョウカ!」
「お姉様ファイトー!」
「よし!来いやジャイアントコケコース!!」
「コケー!!」
お望み通りにジャイアントコケコースが現れキョウカへ襲いかかってくる。最近はほとんどジャイアントコケコースで鍛錬していたので仲間を傷つけられた怒りでジャイアントコケコースも殺意剥き出しである。
「なんか申し訳ねえよな」
「絶滅なんかしねえから問題ねえよ」
ライヤの言いたいことはそういう意味ではないがここはひとまず頷いておく。
「行くよ、ボイス!」
キョウカの言葉にボイスは強く頷き大きく息を吸う。
「ーーーーー!!!」
ボイスの体の大きさからは考えられない程の大音量の音が放出される。しかしライヤやキョウカ達にその音は届かない。
「ゴッ!ゴケェェェ!!」
その大音量の音はジャイアントコケコースの鼓膜を容赦なく破壊した。あまりの騒音にジャイアントコケコースは暫く暴れ回り、倒れた。
「おー!すげー!!」
「やりましたねお姉様!!」
「ふふん。どうよ!私だってやれば出来るんだよ!」
キョウカの元へ走り出し楽しそうに二人でキョウカを胴上げする。キョウカは「危ないでしょうが!」などと言いながら顔はとても楽しそうだ。
「まあ、及第点だな」
「「マキ姉から及第点頂きました!!」」
マキがポツリと呟いた独り言を大声で言われので二人を軽く殴る。
「おら及第点だ!合格合格!あとは教えた事を毎日やって実践もすれば更に強くなれるだろうよ!」
鍛錬と同時にクエストもこなしていたので連携もうまく出来る様になっている。三人はこの期間で確実に強くなった。
「そういえばフィンさんが指輪使ってるとこ最初以外見た事ねえな俺」
「あ、私もです」
「あー。俺はライヤやナズナちゃんみたいにバンバン指輪使えねえんだよ」
「と言うと?」
オリジナルリングは強力すぎる故に使える者には適性が必須である。しかし、その適正には当然個人差がある。
「フィンは歪曲の指輪に適性があったけど、ライヤ達みたいに相性抜群じゃないんだよ。分かりやすく言うと一日三回が限度かな」
「それに歪曲の指輪は使用者に跳ね返りが大きい指輪の一つでね。空間を曲げるなんて芸当めちゃくちゃに使われたらたまったもんじゃないでしょ」
シルとキョウカの説明にライヤとナズナは納得する。言われてみればそう何度も空間を歪ませられたらチートである。
「まあ雷鳴の指輪も使用者への反動バカ強いんだけど」
「え?反動なんて感じた事ねえけど」
「ボクが思うにライヤは本当に適性しか無いよね。雷鳴の指輪を使う為だけに生まれましたって感じ」
酷い言われようだがそれならそれでいいかもしれない。
「よし。じゃあ戻るぞ」
こうしてファイアーシスターズとの鍛錬は終わりを迎えた。
◇
「そんで、お前らはこれからどうすんだ?」
鍛錬終了のお祝いというわけでもないが食事を共にする為ギルドへ帰る途中にマキは振り返ってライヤに問いかける。
「結構お金も貯まったし借金も返し終わったんでそろそろ指輪探しを再開しようと話してます」
「あのじじい俺にばっかり金ふっかけてきたからお前にはあんまり金の請求行かなかっただろ?」
「元はと言えばフィンが悪いからね。私は止めたのに二人とも静止を振り払って」
「私もお兄様とフィンさんの戦い見たかったです」
無事ライヤとフィンが破壊した店も復活してまた営業を始めている。一度派手に壊れた店として以前よりも客が来ている様だ。
「そうか。私達もご指名のクエストがあってな。この街を出る事になった」
「冒険者を指名してのクエストなんてあるんですね」
「うん。腕利きの冒険者はそれなりに名前が通ってるからね。だから冒険者に適したクエストを依頼主やギルドマスターなんかが割り当てる事も珍しくないんだよ」
ナズナの質問に自慢げにシルが答える。ナズナは鍛錬の日程ややり方などをシルに相談していたらしくこの二人は随分と仲良くなっていた。
「割と長くなりそうなんだよ」
「元気にしてろよ子分ども!」
「うっす!長い間お世話になりました!!」
食事を終えるとファイアーシスターズは指名の依頼の為に街を出た。
「それじゃあ俺たちも行くか。キョウカ、頼む」
「あいよ」
キョウカが大事そうに指輪ケースからソルから取り戻した精神の指輪を取り出し装着した。
「おお。これが他のオリジナルリングを指す光か」
「知ってはいたけど初めて見るとなんかいいね!うん、感動?というかなんというか」
ライヤにはもう見慣れてきた光景だが初めて見る二人にとっては珍しいものなのだろう。
「北、だね」
「これはなんの指輪を指してるのかは分からないのか?」
「うん。ここから一番近い雷鳴の指輪、変化の指輪、歪曲の指輪以外のオリジナルリングを指してる」
「そうか。どのオリジナルリングか分かれば対策しやすいのにな」
フィンの言う通りではあるのだが無い物ねだりをしても仕方がない。今は次のオリジナルリングを目掛けて移動するのみだ。
「うっし!行くか!」
「うおおお!なんだこりゃ!」
「あ、フィンさんは魔道車を見るのも初めてでしたね」
ライヤが収納の指輪から魔道車を取り出すとまたフィンが驚きの声を上げる。
「これは魔力で動く馬車って感じかー。みんなは不思議なアイテムを持ってたんだね」
「今更ですけどこの魔道車をどの様な経緯で入手したんでしょうねドーベルさん」
「ナズナちゃん。胡散臭い男なんてもう忘れよう」
「ん?ドーベル?ドーベルっていうとあの胡散臭いおっさんか?」
フィンが話に割り込みドーベルについて質問をする。
「え?ドーベルさんの事ご存知なんですか?」
「そういえば昔そんな様な男から情報を何度か貰ってたね。ボクから聞けば良かったものをさ」
「おいおい。そりゃお前を気遣ってだな。そりゃお前さんが元気ならあんな胡散臭い男を頼ったりしなかったさ」
その昔話を色々聞きたいと思ったライヤだが、それは魔道車を発進させた後でもいいだろうと思い直し扉を開く。が、その前に。
「いや、もしドーベルが悪い経緯で入手してたら今使ってる俺らが悪者にならないか?」
一同は黙り込んだ後に答えが出ない事を悩んでも仕方ないので割り切って魔道車に乗り込んだ。
「中は意外と広いんだな。こりゃ快適な旅になりそうだ」
「まあボクは最悪消えてればいいんだけどね」
「そういえば妖精って普段はどこにいるんだ?ボイスもキュアもそうだけど急に出てくるよな?」
今まで疑問にも思っていなかったがよく考えると不思議に思ったライヤがキョウカに聞く。
「この子達はすぐ近くにいるよ。そのかわり力を消費しないように空気中に紛れてる。体を作り上げるのにはボイスやキュアの力を使う事になるんだ」
「ほ、ほほう。な、なるほど」
「あ、分かってないなこいつ」
ライヤが分かりやすく分からない事を示す。そこにシルが助け舟を出そうと「つまりー」と口に出す。
「妖精はすぐ近くにいるけど普通の人間には見えないって感じ。それを見ることが出来て尚且つ力を借りられるのが妖精術師なんだよ」
「なるほど」
考えれば考える程妖精とは不思議な存在だ。ひとまずライヤは妖精とは不思議な存在という事で決着をつけた。
「よっしゃ!それじゃあ行くぜ!魔道車、エンジン点火!!」
「待った、安全運転でね」
「あ、はい」
全力でアクセルを振り切ったライヤが嗜められて魔道車は走り出す。目的地の定まらない冒険がもう一度始まった。
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