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2章 冒険の仲間
38話 ギルド長
しおりを挟む「よし!全員揃ったな!それじゃあ人工迷宮に出発だ!!」
「おー!!!」
「うるっさ。今何時だと思ってんの?」
今の時刻は午前五時。部屋で涎を垂らして爆睡していたキョウカはナズナに起こされて無理矢理連れてこられたのだ。
「なんでこんな時間から迷宮に行くのさ。もっと寝てからでいいじゃんか」
欠伸を噛み殺しながらキョウカが尋ねるとフィンとライヤは目を輝かせてキョウカに迫る。
「そんなもん宝が早い者勝ちだからだよ!!ただでさえ俺たちはこの迷宮に入るのが遅れてる!だというのに他の冒険者と同じ時間に出発してたら迷宮の宝が全部取られちまうだろうが!!」
「フィンさんの言う通り!あとワクワクして寝れない!」
「旅行前の子供か!」
勝手にワクワクするのは構わないが朝早くから起こされたキョウカとしてはいい迷惑だ。今からこいつらを放っておいて二度寝をしようかとも脳によぎる。
「まあまあお姉様。実際早く迷宮に入った方が早く攻略できます。オリジナルリングが他の人に取られない為にも早く入る事は良いことだと思いますよ」
「そりゃ、そうかもだけど」
「そうだぜ。あと迷宮内で他の冒険者とやり合う可能性も低くなるだろ?」
迷宮に入る冒険者の中は野蛮な人が多いだろう。中には宝が他の人に取られない様に襲い掛かってくる冒険者もいるだろう。迷宮内には法律は無いのだ。
「もしお姉様が眠たいのなら私が抱っこして連れて行ってあげますよ。絶対に護るので安心してください」
「え?」
胸を張ってとんでもない事を言い出すナズナ。当然身長はキョウカの方が大きいのでナズナへの負担が大きい提案だ。それに。
「い、いや!大丈夫だから!目、覚めたから!」
どう見ても年上のキョウカが少女に抱っこされながら移動するなど辱めである。ナズナの言葉に善意しかないと分かっていてもそれは恐ろしい。
「よし!それじゃあ行くとするか!!」
「ん?そういえばシルは?」
「ああ。あいつは眠いから寝てるって。昼くらいになればヒョコッと顔出すだろ」
「妖精ズルイ!」
妖精という存在に嫉妬?するキョウカに一同は苦笑いを浮かべながら迷宮に向けて足を進ませる。
「おや、フィンじゃないか。ライヤも。久しぶりだね」
「ん?おお、ウルか!」
「ウルさん!お久しぶりです!」
迷宮に着く前。銀の髪を短く纏めた大人の女性という雰囲気を漂わせる人に声をかけられた。
「キョウカも。久しぶりだね」
「・・・誰?」
キョウカの記憶にこの様な人物は存在しない。どうやらフィンとライヤの知り合いの様だが。
「キョウカ!ウルさんだよ!俺たちの冒険者登録をしてくれた職員さんだ!」
「ん?んー?あー!そういえばこんな感じだった気がする」
脳内を思い返すとそういえばこの様な人に冒険者登録をして貰った様な気がする。あの時キョウカは不貞腐れていたのであまり周りを見ていなかったのが原因だろう。更に言えばウルに会ったのはあの一度きりだし、暫く会っていない。忘れていても可笑しくはない。
「でもこんな人だったっけ?なんかもっと元気な人だった気が」
「あー。キャラ作ってたのよ。新しく冒険者になる人には愛嬌よく振る舞っといた方がいいでしょ?」
ウルは記憶にある笑顔とは違う笑みを浮かべ、タバコに火をつける。これは覚えてなくても仕方ないと思う。
「寧ろなんであんたは覚えてんのよ」
「そりゃ俺を冒険者にしてくれた人だぜ?忘れる訳ねえだろ?それに俺人の顔覚えるのは得意なんだよ」
そう言って胸を張るライヤ。確かにライヤはどんな人とでも直ぐに仲良くなる印象がある。
「キョウカちゃんに忘れられない様にもっかい自己紹介しといたらどうだ?」
「そうね。フィンの言う通りかも」
ウルがキョウカと初対面のナズナの前に立つと自己紹介を始める。
「久しぶりと初めまして。私はウル。冒険者ギルドのギルド長を務めてるわ。よろしく」
「そうそう、ん?ギルド長ォォ!!?」
ウルの自己紹介の内容にライヤが叫ぶ。理由は簡単で自分が知らない肩書きをウルが持っていたからだ。その間にナズナはウルに「ナズナです」と小さく挨拶する。
「なんだ知らなかったのか?」
「あー。そう言えば君達と会った時は隠していたかな」
改めて考えるとウルは初対面では嘘ばかりだった。本当に信用しても良いのだろうか。
「なんで素性を隠していたんですか?ギルド長って凄い人なんですよね?」
「うん。凄いには凄いんだけど。みんな警戒すると言うか、畏まっちゃってつまんないのよね」
「え?ギルド長ってだけでそこまで畏まるもんなの?」
ギルド長と言ってもギルドはこの世界に幾らでもある。その中の一つのギルドの長だからと言って。
「キョウカちゃんは知らねえのか。ギルド長ってのはギルド全体を取り仕切る役職。つまり冒険者ギルドの中で誰よりも偉い人なんだよ」
「えええええ!!」
キョウカが驚いてウルを見るとウルは少しニヤリと笑ってピースサインを作る。
「ほ、本当に凄い人なんですね。そんな方と皆さんお知り合いだったのですね」
「し、知らなかったけどな」
「俺は前々から交流があってな。何回か直接依頼を受けた事もあるしよ」
ウルがどの様な肩書きなのかはよく分かった。しかしそうなると気になる事がある。
「なんであんなボロくて田舎臭いギルドで職員として働いてた訳?」
「あれも仕事だからね」
「えー。あんな仕事下に任せればいいのに」
「そう言うわけにもいかないんだ。特にあの時間、あのギルドにいると言う事は、とても大事な仕事だったんだよ」
ウルの雰囲気が急に変貌する。先程までのおちゃらけていた雰囲気が急に真面目になる。
「ま、それも終わったからオッケー。私は自由さ」
しかしそれの雰囲気を纏わせたウルの出現はほんの一瞬だった。
「それは分かったけど、なんでここにいるんだ?」
「良い質問だねフィン。それはこの迷宮の制作依頼を出したのは私だからさ」
「え!?そうなんすか!?」
ライヤが食ってかかるとウルはライヤに書類を見せる。どうやら人工迷宮の何かに関わる書類の様だ。
「なんで人工迷宮なんて物を作ろうと思ったんですか?」
「面白そうじゃない。人工で迷宮を作るなんてさ。それに」
ウルは笑顔を一瞬だけ消して
「冒険者増えてきたから、数を減らそうかなって」
と言い放つ。その言葉は重圧がのしかかっていた様に重い。
「え、それって」
「なんてね!アハハハ!冒険者なんて数増えてもデメリットないって!お金も入るし」
「あ、冗談ですか。アハハ、びっくりしましたよ」
ナズナがウルに少し恐怖したのがライヤとキョウカには分かった。この女性は不気味だ。ウルの放つ笑顔は偽物には見えないが腹の奥底の笑顔ではない、その様な感覚が消えない。
「じゃあ俺達はそろそろ行くわ。早く行かないと迷宮に人が集まっちまう」
「ああそうだね。気をつけて行ってくるんだよ。無いとは思うけど、途中で死ぬなんてつまらない事はしないでくれよ」
フィンにそういってウルは迷宮とは逆方向に歩き出す。
「待った。最後に質問させてよ」
「ん、何かな?」
体はそのままで顔だけをこちらに向けたウルにキョウカは一番気になっている事を問いかける。
「このチラシの報酬の所。オリジナルリングってあるけどこれ何」
「なっ、キョウカ!?」
オリジナルリングについては絶対秘密だ。その存在だけでこの世界が大きく変わるから。その情報をキョウカは惜しみなく出した。
「ああ。いいでしょ。そうやって書いたら冒険者は寄ってくると思って」
「つまり、嘘って事?」
「さあどうかな。気になるのなら入ってみればいい。キョウカも欲しいだろう、オリジナルリング」
ウルの言葉が終わってから二人は無言で視線を交わし合う。この無言の時間がライヤにはとても長く感じられた。
「アハハハ!迷宮にオリジナルリングは無くとも、損は絶対にさせないと保証するよ。君達の旅は絶対に一歩、進展する」
「言い切るんだね。それだけ言い切れる確証があるって事?」
キョウカの最後の質問にウルは答えず背を向けながら手を振る。その背中をキョウカはしばらく見ていた。
「結局迷宮にオリジナルリングは無いんだな。どうするキョウカちゃん」
「行く、さっさと攻略してやろう」
「え?珍しいな。キョウカが寄り道するなんてよ」
ライヤの言葉にキョウカは精神の指輪を握り、光らせる。
「こいつは!」
その光は迷宮の中を明確に指していた。
「あの女、信用できないよ。実際迷宮にはオリジナルリングがある。確実にね」
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