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2章 冒険の仲間
43話 睡眠と歪み
しおりを挟む「ナズナちゃん!しっかりして!」
「うふふ、アハハハハ!貴方なら分かるでしょう。欲望の指輪によって眠った人は欲望の指輪の効果が切れるまで起きられない」
睡眠欲の効果により眠ってしまったナズナにキョウカが呼びかけるもその行為は無駄となる。ローズの言う通り欲望の指輪の効果は外から解除する事は出来ない。
「まあ、そう焦るなって。俺はまだ死んじゃいねぇぜ」
「フィン!」
性欲が睡眠欲に変わった事によりフィンがヨロヨロと立ち上がる。しかし見たところフィンにも睡眠欲の効果が出ているのが分かる。
「必死に眠気に抗っているのね。でも、無駄!早く諦めて私に指輪を渡しなさい!」
「ナズナちゃん、借りるぞ!」
ローズが欲望の指輪の効果を更に強く発動する。フィンは全力で走ってナズナの元へ。そしてナズナの近くに転がっていたナイフを自分の左腕に突き刺した。
「なっ!」
「覚悟しやがれっ!!」
キョウカの驚いた声などお構いなしにフィンは右腕で斧をローズに振り下ろす。しかしローズは鞭をしならせてその斧を受け流した。
「マジかよっ!鞭程度なら切り裂けると思ったんだがな」
「当然これは普通の鞭じゃないから出来ないわよ。まあ、あなたが本当の全力を出せば出来たかもしれないけれどねっ!」
攻撃を受け流したローズは鞭を振るいフィンの肉体にぶつける。甲高い音が響くもののフィンの体に少し跡が残るだけだった。
「どうやらこっちの攻撃なんて効かないようね!」
「くっ!させねえ!」
攻撃は無意味と悟ったローズは本格的にフィンを眠らせる為欲望の指輪に力を注ぎ込む。フィンはそれを止める為斧を振り回すが見事に受け流されてしまう。
「くっそ、」
「うふふ。そろそろ眠気が限界になってきたんじゃない?」
フィンの視界が霞み、力が入らない。今瞼を閉じたら直ぐにでも眠りに落ちることが出来そうだ。
「フィーン!!しっかりしろー!!ここであんたが寝たら全てが終わりなんだからね!!?分かってんの!?」
「分かっ、てるよ。分かって、る、けど」
眠気のせいでキョウカの姿がはっきりと見えない。それどころか自分が今立っているのか座っているのかすら曖昧に感じてきている。この状況で出来ることなどあるのだろうか。
「このまま諦めず突貫しても、無駄だよな」
ローズは完全にフィンの攻撃を受け流せる。万全の状態ならともかく今のフィンでは直ぐ様回避されて終わりだろう。となれば
「方法は一つ」
フィンは薄らと見える目で自分の右手に輝く一つの指輪を見つめる。歪曲の指輪。フィンが手に入れた八つのオリジナルリングの中でも最高クラスの指輪だ。
「だが」
問題がある。一つはこんな状態で歪曲の指輪を使えるのかどうかと言うこと。例え空間を歪めることのできる力でも眠気の中で使う事は難しい。そして問題はもう一つ。
「反動、か」
オリジナルリングは強力すぎるが故に使用時に反動がかかる。ライヤやナズナの様に強力な適性を持ち、まるでオリジナルリングを使う為だけに生まれてきた様な存在には反動など皆無だ。しかしフィンは違う。ライヤ、ナズナの適性力を百とするとフィンは二十そこらだとシルが言っていた。故にフィンは一度もこの歪曲の指輪を使ったことがないのだ。
「だが、これしか手は、ねぇっ!」
ローズに当たるか分からない。反動で自分がどうなるのかも一才分からない。今から行われるのは、一世一代の一発勝負だ。
「行くぞっ!!」
「っ!欲望の指輪!!彼に睡眠を!!」
フィンは目を見開き集中する。その瞬間だけはローズの姿を完璧に捉えたが眠気は凄まじい勢いで襲いかかってくる。先ほどよりも強い眠気。
「ちっ、く、しょ」
その眠気に抗えず、目を閉じそうになる。その時。
「フィーーー!ン!!!!朝だぞー!!!冒険の時間だぞーー!!!!!」
フィンの耳元で聴き慣れた声が聞こえた。契約して以来、朝が弱い相棒の為に毎日の様に耳元で叫んでいた妖精の声が。ならば言う言葉は一つ
「ああ、分かってるよ!!!」
フィンは敢えて一度目を閉じて、強く見開く。これが毎日のシルとのルーティンだから。
「馬鹿な!」
「歪め!!歪曲の指輪!!!」
眠気は消え去った。本当に一瞬の時間ではあったがフィンが指輪を発動させるには充分な時間だ。
「アッ!ァァァァァァァァ!!!」
フィンが狙いを定めたのはローズの左腕。そう、欲望の指輪が装着されている腕だ。歪曲の指輪はローズの左腕の付け根の空間を歪ませ、その腕を捻じ切った。
「ギィヤァァァァァァ!!!」
ローズの左腕が捻じ切れ、ローズの大きな悲鳴が迷宮に響き、大量の血液が地面にこぼれ落ちていく。
「ゆっくり眠ってな」
欲望の指輪はローズから離れた。眠気が完全ではないが消え去ったフィンは痛みに苦しむローズの腹に全霊を込めた拳をお見舞いした。
「がっ!」
フィンの拳がローズの腹にモロに入り、ローズは迷宮の壁に勢いよく衝突した。
「俺たちの、勝ちだな」
ローズは完全に気絶している。マーティも戦闘不能。フィンとナズナの勝利だ。
「キョウカちゃん!」
「分かってるよ!」
フィンに言われるまでもなくキョウカはキュアと共にローズとマーティの傷の治療を開始する。キュアの力では捻じ切れたローズの左腕を繋げる事は出来ないしマーティの傷痕を綺麗に消し去る事は出来ない。それでも、命を繋げることは出来る。
「これ以上誰も死なせてたまるか。私の手の届く範囲の人達は、誰も死なせない!」
キョウカは今は亡き故郷を思いながらキュアと共に傷の治療を行う。全力を注ぎ込んでいるので傷の治りは想像よりも早いものとなった。
「よし、これでひとまず命に別状は無いはず」
「流石だなキョウカちゃん、その二人が終わったら、ライヤ達もっ!?」
フィンがキョウカに向かって歩き出そうとすると突然血を吐き出して倒れ込んだ。
「フィン!?どうしたの!?」
「歪曲の指輪の反動だね。フィンの体じゃあ歪曲の指輪の反動に耐えることは出来なかったんだ」
「あ、シル。いたんだ」
「ボクはいつだって君達の側にいるよ!」
突然姿を見せたシルにキョウカが驚きシルが怒る。まあ妖精とはそういう存在だ。
「まあフィンの体は心配要らないよ。暫く動けないかも知れないけど問題はない」
「そうかっ、そりゃよかっ」
「こら喋らない!安静にしてなさい!」
反動がきているのに立ちあがろうとするフィンをシルが叱る。この様な会話を聞いたキョウカは何故か不思議な安心感を感じた。
「さて、ライヤとあの変態はっと」
キョウカが倒れ込むでいるライヤとカゼジロウの元へ歩いて行き治療を開始しようとするが。
「別にこいつらは放っておいても死にはしないか」
と一言呟くと治療をやめた。
「え!?確かに死にはしないけど治療してあげなよ!?」
「だって私結構疲れたし。ねぇキュア」
「キュ!?」
治療する気満々だったキュアはキョウカに言われて動揺する。
「キュア!治してあげてよ!その変態はまたどっちでもいちけどライヤは君達の為に頑張ったんだろ?」
「別に死にはしないしいいじゃん。迷宮から出て私の疲れが消えたら治してあげるから」
「キュッ、キュウ」
契約者と自分より上位の存在からの正反対の言葉にキュアは戸惑う。その後話し合いの結果キュアのみがライヤの治療に当たることとなった。
「ふぅ」
「キョウカ。もしかして今治療する力残ってなかったりする?」
シルの突然の問いかけにキョウカは肩を震わせる。図星だ。
「うん。私の治療の力はキュアから貰ってる仮初の力に過ぎないからね。致命傷二人治すので使い尽くしちゃった」
「ならそういえばいいのにさ」
シルの意見はごもっともなのだが、キョウカは頬を膨らませて言う。
「だって、みんな凄く強くなってたのに私だけ大したことないみたいじゃん」
フィンは勿論ライヤもナズナも出会った当初に比べると想像も出来ない成長だ。なのにキョウカだけが取り残されているように感じる。
「なんだ、そんなことか」
シルはため息を吐きキョウカの肩に座る。
「そんな事ないよ。君だって成長してるさ。旅に出たばかりの君なんて致命傷一人すら救えなかったと思うよ」
「なんか、励ましてる様に見せて馬鹿にしてない?」
シルが誤魔化すように笑い出す。その様子がなんだか可笑しくて、キョウカも共に笑い始めた。
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