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3章 血液城
56話 女王VS冒険者
しおりを挟む「っっ!!?」
猛烈に嫌な感覚を覚えたシルは後方、今もなお戦っているであろうフィンがいる方向へ振り返った。
「フィン」
「シル、どうかしたの?」
急に前へ進むのをやめて後ろを振り返ったシルを心配してキョウカがシルに声をかける。
「なんでもない。それよりキョウカ、準備はいい?凄まじい力を感じる。どうやら敵の親玉はすぐ近くみたいだよ」
シルの言葉にキョウカは無言で頷く。戦う準備ならとうに出来ている。
「ふふっ、頼もしいね。じゃあ行こう!」
振り返る事をやめ二人は前に進み続ける。
(ボクは心配なんてしないよ。君という相棒を信じてるからね。だから、絶対に死ぬなよ。フィン)
数秒後、二人の前にはいかにもお姫様の部屋と言わんばかりの美しい飾り付けがなされた扉を発見した。
「ここにライヤが」
少し息を呑むが覚悟を決めてキョウカはゆっくりと扉を開ける。
「はあ、はあ、ふふ。やっぱりライヤ君の血は美味しいね。なんだが飲んでると凄く、興奮する」
「ライヤ!」
部屋の中は想像以上に物が無かった。ただ広い部屋の真ん中に豪華なベットが一つ置いてあるだけ。しかし、キョウカ達の求める人はそこにいた。
「キョ、ウカ」
黄色かった髪の毛が七割ほど血液の様に赤く染まり、口元には牙、背中には片方ではあるものの大きな羽を生やしてはいる人物。ライヤ・アラタだ。
「来たんだ、あの女がライヤ君が言ってたキョウカって女、ね」
ミクリは口元に残るライヤの血液を乱暴に手で拭い去ると楽しげな笑みを浮かべてキョウカの前へと歩み出る。
「ようこそミクリの部屋へ。私は貴方を歓迎するよ」
口元は笑っているのに目が全く笑っていない。そんな女を前にしたキョウカは恐怖を感じるが、そんなものに負けている暇はない。
「あっそ。せっかくだけどその歓迎はいらない。さっさとウチの冒険バカ返してくれない?」
「ウチ、の?」
ミクリの声質が明らかに変わる。キョウカはしっかりミクリの地雷を踏んでいた。
「私はライヤ君のお嫁さんだよ?つまりライヤ君は私の物。お前の物じゃない!」
「ああ、ライヤは私のもんじゃない!ライヤはライヤのもんだ!ライヤが本気であんたと結婚する事を望んでるなら私は止めないよ」
ライヤが冒険をやめてまで一緒になりたい人が出来たのならキョウカはそれを止める気はないし、そんな資格もない。
「けどね、私にはライヤが冒険を求めてるんだったら冒険に連れれってやる義務があるんだよ!!」
出会って二日目にライヤとした約束。その約束を破ることなど出来ない。
「ライヤ君は私との結婚を求めてるよ。だから帰って」
「本気で結婚したがってるやつが両手両足鎖で縛られながらも脱出しようとなんてすると思う?」
ミクリのベットに寝かせられているライヤは両手両足鎖で縛られており自由がない。だが、それでも芋虫の様に動きこちらへ向かおうとしている。
「分かった、殺す」
「最初からそのつもりだっつーの。かかってきやがれ!」
ミクリが血の剣を周囲に五本作り出して即座にキョウカに放つ。
「ボイス!!」
キョウカの呼びかけに応えてボイスが姿を現し、息を大きく吸い込み音の障壁を作り出そうとする。
「ムダ」
ボイスは準妖精。妖精だが妖精ではない見習い妖精だ。そんな見習いが吸血鬼の女王の剣を防ぐことが出来る訳がない。
「ァァァァァァァァ!!!」
だが、ボイスは全ての血液剣を弾き飛ばし見事キョウカを守った。その声は美しくも凛々しく、今までの声にならない叫びを放っていたボイスの声とは思えなかった。
「・・・へぇ」
「よし、上手く行った!どうだ!これがボクとキョウカの裏技だ!!」
◇
ミクリの部屋へ殴り込む少し前。
「キョウカは準妖精術師が正式な妖精と契約出来ない理由って知ってる?」
契約を交わす途中、シルからの思わぬ質問にキョウカは首を傾げた。
「え?実力が足りないからじゃないの?」
「うーん。五十点」
少し唸ってシルが辛辣な点数を伝える。
「妖精が準妖精術師と契約しないのはね、妖精は自己中だからだよ」
シルからの思いがけない答えにキョウカは更に首を傾げる。まず妖精が自己中心的だと言う話も聞いたことがないし、妖精が自己中であることに何の関係があるのか。
「妖精術師の人間は妖精を使役していると思ってるやつが多いよね。妖精も同じ。人間が妖精を使役していると思っている逆で、妖精が人間を使役していると思い込んでるんだよ」
「う、うん?」
「自分が使役する人間が実力の足りない準妖精術師だなんてプライドが無駄に高い妖精は良しとしない。だから妖精は準妖精術師と契約しないの」
シルの言葉のトーンや話し方からシルが嘘を言っている訳ではないことは分かる。分かるのだが。
「知りたくなかったなー」
妖精の裏側の事情がそんなに黒かったとは。出来れば知らずに墓に入りたかった。
「まあそんな訳で妖精と準妖精術師は契約しないんだけど、ボクはそんな妖精共とは違う。ボクとキョウカには信頼があるから契約出来るのさ!」
「うん、それは分かったから早くサポートの詳しい内容教えてよ。時間ないんだから」
「ぶー、せっかちだなぁ。まあいい。早速教えてあげよう!」
シルが笑顔でキョウカの周りを飛び回り何回か回った後人差し指を立てて内容を口にする。
「ボクのするサポートはズバリ強化さ!本来妖精と妖精術師の関係は人間の体力、もしくは精神力を妖精に渡す事で妖精が力を発動する。ボクのサポートはその逆さ!」
「逆?シルの体力を私に送ってくれるって事?」
「その通り!」
シルには体力がないので精神力をキョウカに回す。そしてキョウカはシルから送られた精神力と自らの精神力を合わせてボイスに送り込む。
「二つの精神力を送り込む事でボイスを強化。ボクが精神力を送り込む間だけではあるけどこの方法ならボイスを正式な妖精へ昇格させられる!!」
◇
「ふうん。で、妖精になれた所で実力差が埋まるとでも?」
「マスター!右方向から凄まじい速度で攻めてくる!」
「了解!それにしてもいい声だねぇ!!」
ミクリが剣を握りキョウカに襲い掛かる。しかし攻撃する場所とミクリの居場所を把握できているお陰でなんとか回避に成功する。
「そのまま音の障壁を展開し続けられる!?出来ればそれでいて騒音歌も撃ってサポートして欲しいんだけど!!」
「相変わらず無茶言いますねマスター。やってみせますよ」
ボイスはキョウカからの無茶振りに苦笑を見せた後目を見開いて言い切る。
「それでこそ私の相棒!」
キョウカもマキに教わった短剣捌きでミクリに攻撃を
「無理早すぎっっ!!」
仕掛けようとしたが即座に方向転換。なんとか恐ろしい吸血鬼の剣から逃れた。
「ァァァァァァァァ!!」
「邪魔」
ボイスの騒音歌を身につけていたマントで受け止める。マントの防御力で騒音歌を受け止めるなど無謀なのだが。
「少しも効いてませんね、あれ」
「どうしようキョウカ。ボク今すぐ逃げ出したくなってきたんだけど」
「弱音吐くなっ!」
ボイスの言葉にシルが同意。そして弱音を吐く妖精二名にキョウカが喝を入れる。
「思ったよりは動けてる。けどね、その程度で私を殺すなんて夢のまた夢!」
「ぐっ!!」
ミクリの剣による攻撃を回避したがもう片方の腕による赤く長い爪に肩を抉られる。激痛が走り肉が悲鳴をあげる。だが。
「舐めんじゃねえっての。私だってなぁ!」
激痛に耐え、肉の悲鳴を無視してキョウカは歯を食いしばる。
「私だって冒険者の端くれだってのぉぉ!!!」
肩を貫かれたままキョウカがミクリに頭突きを喰らわせる。
「・・・で?」
「ぐっはっ!」
ミクリは冷めた目でキョウカを睨んだ後剣を無理やり引き抜きキョウカを蹴り飛ばす。
「安心してよ。簡単には殺さない。ゆっくり、じっくり痛めつけて。限界まで苦しんで死ねる様にしてあげるからね」
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