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3章 血液城
59話 舐めんじゃねぇ
しおりを挟む「ナハハハハハハ!」
鎌を殺意に任せて振り回すミクリにカゼジロウが応戦する。しかし確実に押されているのが分かる。
「シル!なんかあいつに勝つ方法はないの!?このままじゃ私達全滅だよ!」
「そうだね、そうなんだけど」
秘策、と呼べるかどうかは分からないがシルには一つ策がある。しかし。
「方法が無いわけじゃない。でも、もしこの作戦が成功したとしても、ボク達全員が生きて帰れる確率は低い」
シルの作戦が全てうまくいったとしても、全員で生還してライヤも救出出来る可能性はゼロに近い。それでも。
「構わないよ。だってその作戦をやらないと全滅するんでしょ?」
「おうよ。冒険者ってのはいつでも命懸けで冒険するもんだ」
「はい、お兄様とお姉様に着いて行くと決めた時から覚悟は出来ています」
キョウカは迷いなく即断。その言葉に傷をキュアに治して貰っているフィンとナズナも同意する。
「敵わないなぁ」
シルはポツリと一言呟いて自分の頬を強く叩いた。
「絶対に死なせない。約束するよ」
誰にも聞こえない程小さな声で笑いながら口を開いた後に大声で叫ぶ。
「よし!作戦を伝える!!」
「あ?作戦!?」
「させると思う?」
唯一会話に入っていなかったカゼジロウが驚き、ミクリは宙に血液の剣を数えきれない程作り出す。
「まず!カゼジロウはそいつを止めといて!鎌による攻撃だけなんとかすればいいよ!!!」
「おい!簡単に言うがオイラも怪我人なんだぞ!?それにオイラの真の実力を出せてもこいつには」
「え?出来ないの?あーぁ。やっぱその程度の奴だったかー」
「やってやろうじゃねぇか!!!」
先程まで押され気味だったカゼジロウがシルの一言で顔を真っ赤にして怒り、槍の速度をあげる。
「っ!なんでそんな言葉一つで急に強く!?」
「ナハハハハハハ!!!」
瞬足の指輪を最大限に活用。足も、腕も、心臓の鼓動さえもその速度を限界まで高めていく。今のカゼジロウならミクリの鎌による接近攻撃は心配する必要はない。
「よし!じゃあみんなに作戦を伝えていくけど、剣はカゼジロウでも防ぎきれないから回避ー!!!」
「「「ええええ!?」」」
腕を振り下ろしたミクリの指示に従い血液の剣が一同に襲い掛かる。シルの言葉をよく聞きながら、更に能力を一切使わずに全ての剣を回避する。
「確かに!これは死人が出るっ!!」
キョウカは死を回避するのに必死。ナズナとフィンはしっかりシルの作戦を聞いて自分がどの様に動くのか考えながら回避している様だが、キョウカにそれ程の余裕は一切ない。
「しょうがないなぁ。キョウカにはボクが付いててあげる。ボクの言う通りに動けば大丈夫!」
「おっけ!信じるからね!!」
作戦は伝えられた。後は実行するのみ。
「よし!作戦開始ぃぃ!」
シルの合図で各々が動き始める。
「無駄だよ、ミクリに人間如きが勝てるわけねぇだろうが!!!」
「がっ!ぶぇぇぇぇ!!」
怒りに任せて顔面を殴りつけられたカゼジロウが地面に叩きつけられる。
「行きます!変化!!!」
作戦の始めはナズナの変化。今のナズナが変化の指輪を使える最大回数は二回。その一回の変化先は。
「お兄様、そのお姿借ります」
ナズナの変化先はライヤ。一瞬でナズナの姿はライヤ・アラタという人物に変わる。
「ライヤ君の姿なら躊躇するとでもっ!?」
「そんなのは考えてませんよ、狙いはこれです!」
ライヤの声で敬語を使っているがそんなものはこの指輪には関係ない。その指輪は収納の指輪。この収納の指輪はライヤの祖父による改造が施されておりライヤしか使えない。故にライヤの姿に変化するしかないのだ。
「取り出し!閃光弾、十四連発!」
収納の指輪に入っていた全ての閃光弾をナズナの命を奪う事しか考えず突貫してきたミクリの目の前で爆発させる。
「っ!」
あまりの眩しさにミクリの視界は数秒間完全に消え失せる。ナズナの動きは成功。次は。
「俺の番だ」
血涙を流しながらフィンが目を見開きミクリの姿を捉える。使う指輪は勿論一つ。
「曲がれ!!歪曲の指輪!!!」
今度こそ歪曲の指輪を発動。ミクリの体を真っ二つに、いや、八等分に切り分ける様に空間を歪ませる。
「甘い」
その直前、ミクリは笑って呟いた。ミクリの体は数百体のコウモリに姿を変えていた。
「マジ、かよ」
コウモリ達は歪んだ空間に飲み込まれ、食いちぎられ、引き裂かれる。が、三体のコウモリが生き残った。
「詰めが甘かったな!!!」
コウモリから人間の体に戻りミクリは目を閉じながら笑う。が、数秒後に驚愕した。
「生命の指輪が、ない!?」
ミクリの体はコウモリになり空間の歪みに耐えた。しかし生命の指輪はそうは行かないので絶対に逃げられる位置にいるコウモリに持たせて回避した。回避には無事成功し、人間の姿に戻ったミクリの左手の薬指にある筈だった。しかし、その指輪が指にない。
「ナッハッハッハー!!!なんかよく分からんが!指輪!取ったぁぁぁ!!!」
閃光弾を投げた理由は視界を奪うため。しかし視界を奪うのは歪曲の指輪を当てる為ではない。カゼジロウが生命の指輪を奪う為だ。
「きっ!貴様ァァァァ!!!」
カゼジロウにわざと大きな声でミクリを止めろと指示を出し、シルとボイスの合わせ技で脳内に直接指輪を盗む様に指示を出す。ミクリを止めることだけしか指示を受けていないと思い込んでいるミクリの不意をつく作戦だ。
「オイラは元盗賊だぜ?大切なもんは常に身に付けてないで金庫にでも入れてないとすられちまうぜ!?」
これでミクリの体は再生しない。今ミクリの命を奪う事が出来ればミクリを殺せる。
「今だ!行けキョウカ!!!」
回避に専念しながらキョウカに下された作戦内容は一つ。合図があった目を閉じる。そしてシルの声が聞こえたら全力で走り、ナイフを全力で振り下ろしてミクリの首を斬り落とす!
「オラァァァァァァァァ!!!」
「お姉様に力を!変化の指輪!!!」
最後の力を振り絞りナズナが変化の指輪を使用。変えるものはナイフの大きさ、そしてキョウカの筋力。
「なっ!」
短いミクリの悲鳴。フィンの斧の二倍はある様な大きさになったキョウカのナイフがミクリの首に激突する。
「ムッダァァァァ!!お前みたいな雑魚の人間程度に私を殺せるかよ!!!」
ミクリの言う通り。キョウカは冒険者として未熟だしここにいる誰よりも弱い。ヴァンパイアに勝てる訳がないしその最上位のヴァンパイアクイーンになど勝ち目はゼロだ。だが、それがどうした。
「私がお前に勝てない?」
そんな事は百も承知。それでもキョウカはナイフを振るのだ。
「知らないね。そんな事はどうでもいい」
キョウカ一人ではどう頑張ってもミクリには勝てない。が、キョウカは一人ではない。
「あんたの敗因は一つ。私らを舐めた事だ」
フィンがミクリの力を大幅に削った。カゼジロウが生命の指輪を奪った。ナズナがキョウカに力をくれた。シルがキョウカに秘策をくれた。ライヤが命を懸けて救ってくれた。
「人間!舐めんじゃねぇぇぇ!!!!!」
キョウカのナイフがミクリの首に入り、少しだけ血が噴き出す。
「キョウカちゃん!」
「女ぁ!」
「お姉様!」
「キョウカ!」
仲間の声が聞こえる。腕が悲鳴をあげる。これ以上は無理だと。このヴァンパイアの首を斬るだけの力はないと腕が訴えてくる。だが。そんなものは知らない。
「キョ、ウ、カ」
微かな、今にも死んでしまいそうな声がキョウカの耳に入る。
「やっ、ちまえ」
「ウオオオオオオオオオ!!!」
誰よりも小さな声に一番の力を貰い、キョウカのナイフがミクリの首を切り裂いた。
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