original ring

藤丸セブン

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4章 オリジナルリング

64話 お話

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「クッソ、私に、もっと力が、あればっ」
 己の無力さに絶望しながらキョウカは地面を勢いよく殴りつけた。
「私には、選べないよ」
 まさに究極の選択とも言えるべき二つのものが今まさにキョウカの目の前にある、しかし。どちらか一つを選び、どちらかを諦めるなど、キョウカには出来ない!
「あの、お嬢ちゃん?」
「お昼はラーメンかうどん!どっちを食べればいいんだぁぁぁ!!!」
 ラーメン屋とうどん屋のちょうど真ん中の道でキョウカが大声をあげて叫ぶ。歩く人全ての注目を浴びすぎているが、そんなもの今のキョウカには些細な事だ。
「いや、そんなに悩んでくれるのは嬉しいけどよ。それで選ばれなかったら地味にショックじゃねえか?」
「そんな事より普通に迷惑だろうが」
 ラーメン屋とうどん屋の店主が騒ぎを聞きキョウカを宥めに来ているが、全く効果は無かった。
「思ったんだが、両方食うってのは」
「お金が、そんなにありません」
 ラーメン屋の店主の思いつきにキョウカは財布の中身を見せる事で示す。あまりにも無力な財布に苛立ちが募る。
「クソ!ライヤがもっとお金を貯めてたらこんな事にならなかったのに!あの計画性のカケラもない男め!大っ嫌いだ!」
「彼氏君、絶対苦労してるよな」
「こんな子彼女にするなんて凄えよな」
 あらぬ勘違いを受けているが、キョウカはそんなことを気にしている余裕はない。この究極の選択は人生を百八十度変えると言っても過言ではないのだ。
「はぁ、しゃーねぇな」
 ラーメン屋の店主は一言そう言い残すと店の中へ戻って行った。その背中を見たうどん屋の店主は豪快に笑うと同じく店の中へ。
「嗚呼神様。私はどうすれば」
 キョウカが地面に放置されて数分後。二つの店の店主が戻ってきた。
「ほらよ、うちの特製ラーメンだ」
「そんでこっちが、極上うどんだぜ」
「へ?」
 突然出された二つの宝にキョウカは頭が追いつかなくなる。
「あの!私お金が」
「へっ!知ってらぁ。これはオレが食おうと思ったけど上手くできなかったから捨てるだけだ」
「お代はお嬢ちゃんの最高の笑顔。それで手を打とうじゃねえの」
「お、おやっさん達」
 キョウカは生まれて初めての感動を覚え、特製ラーメンを口にする。
「こ!これはっ!!」
 動き出した箸は止まらない!このコクのあるスープ、感じたことのない程コシのある麺、そしてそれらを包み込む油!
「美味すぎる」
 しかし、それだけで終わりではない。汁まで残さず平らげた後はうどんへと箸を動かす。
「こっ!これはぁぁ!」
 今世紀最大にツルツルの麺、あっさりしていて、旨味に包まれるつゆ。そしてプリプリの海老の天ぷら!
「美味!!!」
 キョウカは二つの食事を終えた後、満面の笑みでお支払いを終えた。
  ◇
「いやぁ、王都最高」
 店を後にしたキョウカは世界で一番幸せな気分で歩き出す。しかし時計を見るとライヤ達との集合時間までかなりの時間が残っている事が分かる。
「うわ、めっちゃ時間残ってる」
 さて、この後はどうしようか。ライヤと合流して魔道具を見ようか。しかし、ライヤは魔道具の事になるとうるさく、聞いてもいない説明をベラベラベラベラと喋り出す。正直、鬱陶しい。
「じゃあ図書館にでも」
 図書館にならナズナがいるだろう。ナズナと共に本を読んで過ごすのもいいかも知れない。
「けどなぁ」
 本、という物をキョウカはほとんど読まない。図書館に行っても楽しい時間を過ごせるとは思えない。
「後は確か」
 フィンとカゼジロウは武器屋に行っているだろう。キョウカも吸血鬼戦でボロボロになったナイフを新調してもいいかも知れない。
「と、言いたい所だが」
 実はライヤが目を覚ます前に近場の武器屋でナイフを購入している。これ以上新しいナイフは必要ない。
「うわ、すっごい暇じゃん」
 さて、慣れないこの街でどのようにして時間を潰そうか。
「それなら、私とお話しでもしない?キョウカ・アリシスちゃん」
 背筋が凍った。先程まで気配も何も無かった背後に急に人が立っていた。更にその人物がキョウカを愛おしそうに抱きしめてきて、耳元で優しく声をかけてきたのだから恐怖以外の何者でもない。
「は、なれっろ!」
 なんとか力を入れて背後の人物を突き飛ばし距離を取る。そしてその人物を見る。
「あ、あんたは!」
「やっほ。久しぶりだね」
 そこに立っていたのは随分前に出会い、少し前に全く嬉しくない再会を果たした人物。
「なんであんたがここにいる!?ウル!」
 そう。そこにいたのは冒険者ギルドのギルドマスターにしてオリジナルリングを奪い、アリシスの村を破壊した魔族の協力者。ウルだった。
「なんで、か。その質問には私の提案を飲んでくれたら答えてあげようかな」
「提案?」
「さっき言ったでしょ?私もお話ししない?」
 妖艶な声を口から発しながらなぜか口の周りを舌で舐めるウルにキョウカは油断せずナイフに手を伸ばす。
「いきなりそれは無いんじゃない?こんな所でそれを取り出したら、酷い騒ぎになるよ?」
 認めたくないがウルの言う通りだ。ここは人がよく通る一般の道。こんな所でナイフを抜き取ったら間違いなく騒ぎになる。今騒ぎを起こすわけにはいかない。だからオリジナルリングの聞き込みを断念したというのに、ここで問題を起こしてしまっては意味がない。
「大丈夫。私に敵意はないしここで君を襲うつもりもない。今はまだ、ね」
「・・・」
 ウルの言葉を信用は出来ない。しかし、その言葉に嘘がないようには感じる。ウルの誘いに乗るか、はたまた断るか。普通に考えればそく断る話だが、断ったらどうなるか分からない以上、迂闊な発言は出来ない。
「お話ししてくれるなら、キョウカちゃんにとってはプラスしかないと思うけどな」
「私にプラス?」
「そう。私と話すことで時間が潰れてライヤ君達と合流するまで楽しい時間を過ごすことが出来るし」
 ウルは怪しい笑顔を浮かべながら言葉を続ける。
「君が知りたがっているオリジナルリングの情報を、話しちゃうかも知れないよ?」
「っ!」
 キョウカはオリジナルリング、という言葉に反応する。
「情報を私に流すってこと?」
「まさか。ただお話しするだけ。キョウカちゃんが誠心誠意答えてくれるのなら、私も誠心誠意質問に対する答えを返すだけだよ」
 ウルの言葉に嘘はない。何故かは分からないがキョウカほそんな気がしてならなかった。ウルは憎むべき敵の協力者だというのに。
「・・・分かった」
「よし決まり!そうと決まれば場所を変えよっか。こんな所で立ち話もなんだしね」
 ウルは嬉しそうに笑うと王都を慣れた足取りで歩き始める。
「着いてきて、人が少なくて美味しいコーヒーが飲める穴場のカフェへ連れて行ってあげる」
 人が少ない、というのは有り難い話ではあるが、注意しなければならない情報でもある。人が少なければオリジナルリングに関する話を堂々とすることが出来るが、一目があるからという理由でウルが今キョウカを襲わなかったのだとしたら、そのカフェでは戦闘になる可能性がある。
「警戒してる?」
「それは勿論」
「アッハッハ!君を襲うつもりはないって言ったじゃん!」
「うん。今はまだ、とも言ったね」
 楽しそうに笑うウルの動きを一ミリたりとも見逃さない為にキョウカはウルから目を離さない。その警戒心が面白いのかウルは楽しそうに「警戒してるねぇ」と言ったり「今殴りかかったらどう対応する!?」などと言ってはキョウカを困らせる。
「さて、着いたよ」
 ウルに案内されたカフェは何の変哲もない普通のカフェに見えた。中に入ると確かに客は誰もいない。
「大将!とりあえずビール!」
「美味しいコーヒーが飲めるんじゃなかったじゃないの?」
「コーヒーも美味いけど今はビールの気分なの」
 ウルは笑いながらテーブル席に腰をかけると足を机の上に乗せてタバコに火をつけた。
「さて、それじゃあお話をしようか」
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