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4章 オリジナルリング
70話 魔王と言う名の希望
しおりを挟む「生き残りがいたか」
コモリの目の前に立った少年は手にした剣を鞘に戻すと木箱の中にいるコモリに手を差し伸べた。顔立ちの整った少年だった。髪の毛は両親や人間の血を思わせる様な赤色で、目つきは鋭い釣り目で睨まれただけで恐怖を感じてしまう程だ。だが、コモリには今の少年の目はとても優しく感じられた。
「君、名前は?他に生き残りがいるかどうか分かるか?」
少年の手を取り木箱から出たコモリは正気に戻り、少年の質問を無視して両親の元へ駆け寄る。
「パパ!ママ!」
「・・・両親か」
「パパ!ママ!お願い!目を開けて!」
コモリは両親に必死に語りかける。しかし、両親はコモリに返事をしない。
「ーーーすまない」
「へ?」
そんなコモリを見ていた少年がコモリに向かって頭を下げた。その予想外の行動にコモリは目を丸くする。
「我が、もっと早く着いていたら。君の両親を、救えたかもしれない」
少年が謝る必要などない。現に少年はあの場にいた人間を殺してくれた。コモリを助けてくれたのだ。だというのに、その少年はコモリに頭を下げた。
「そんな!謝らないで、下さい」
「いや、王として。家臣を守れなかったのは我の落ち度だ」
「王?王様なの?」
コモリの疑問はごもっともだ。人間には王という人間が存在するが、魔族にはその様な存在はいない。
「ああ、我は魔族の王、魔王になる男だ。残念ながら今はまだ勉強中で、家臣の一人もいない未熟者だが。いずれ王となる身としてこの結果は実に不甲斐ない」
初めの声は明るく、後半になるに連れて声のトーンが下がっていった未来の王様を名乗る少年が、コモリには実に輝いて見えた。昔母親に読んでもらった黒馬に乗った王子様とはこの様な人なのだろうと考えるまでに。
「ときに少女よ。君はこれからどうする?」
「へ?あっ!これから。これから、ですか」
美しい妄想に耽っていたコモリはハッとなって今後の事を考える。が。
「・・・」
今度、など。考えたこともなかった。コモリはただ両親と幸せに暮らしたかっただけなのだ。だというのに、両親はもういない。生きる希望が、存在しない。
「もし、もし良かったらだが。我に着いてくるつもりはないか?」
「ーーーあなたに?」
少年からの思いがけない言葉にコモリは驚く。
「ああ。見ての通り我は一人だ。しかし、王とは一人ではない。共に国を守る大臣や王を守る四天王。更に四天王に仕える兵士!そしてその我らを讃え、我の管理の元生きていく民達!それらが揃わなくては我は王になれん!」
「民、達」
「そうだ!王とはただ強いだけでなく頭脳明晰で!海の様に広い心を持ち!母の様に優しい!そうでなければ全ての民から愛される王などにはなれん!」
少年は初めて会った時のミステリアスさを完全に捨て、目を輝かせて楽しそうに王について語る。その様子が少しだけおかしくて、コモリはクスリと笑った。
「ん?何処に笑う所があった!?王として何か足りないものがあったか?」
夢を笑われた、という考えは微塵も起こらなかった少年は必死にコモリが笑った王として足りない部分を探し始める。
「ああいえ、違うんです。でも、なんだか可笑しくて」
「何!?分からん、お手上げだ。頼む、俺の王計画に足りないものを教えてくれ」
少年が再度コモリに頭を下げる。違うと言っているのに完全に聞いていない。しかし少年の真っ直ぐな目で見られるとどうにも言葉が出せない。
「え、えっと」
コモリは戸惑い、考えた結果。先程の少年の計画には足りないものを見つけてしまった。
「ーーひ」
「ん?」
「えっと、あの、おおお王妃が、足りないのではないかと」
コモリは耳まで赤く染まらせながらそう呟く。少年は真顔のまま暫くコモリを見つめると、真顔のまま顔を一瞬で赤く染めた。
「なるほど、王妃か。つまり我の妻、妃となる存在か」
平然を装いながら少年はコモリから顔を逸らす。
「す、すすすすみません!私なんかが指摘してしまって!し、死罪ですか!?死罪なのですか!?」
「ば、馬鹿者!民を死罪にする王など我が目指す王ではない!いや、君はまだ我の民ではないのか?」
二人して手を謎の動きをさせながら慌て始める。この二人が落ち着くまでに暫くの時間がかかった。
「お、おほん。では改めて。行き場がないなら、我と共に来るつもりはないか?我が民として」
「えっと、は、はい。でも、一つ条件が」
「ほう、恐れず王に条件を立てるとは、面白い!申して見ろ」
「あ、すみません!そうですよね!王様に意見なんて!やっぱりなんでもないです!ごめんなさいごめんなさい!」
少年から直ぐに距離を取るとコモリが何度も頭を下げ始める。その様子はまるで赤べこの様だ。
「良い。王が発言を許す。申してみよ」
コモリはモジモジとしながら少年に小さな声で言う。
「じゃあ、た、民じゃなくて、おおお王妃として、着いていきたい、です。ーーーなんて」
コモリの言葉に、少年はまた真顔で黙った。
「す、すすすすすすみません!私なんかが王妃だなんてご迷惑ですよね!?ですよね!?すすすすみません死にます」
「何故そんな直ぐに死のうとする!生きろ!どんな事があっても生きろ!!」
速度の速い赤べこになったコモリを少年が宥める。その甲斐あってコモリも落ち着いた様だ。
「そして、そんな事を言うものではない。君は我が妻になれる程に美しいではないか」
少年の言葉に今度はコモリが言葉を失った。
「そそそそそんな私が美しいだなんて畏れ多い!すみませんすみません!」
「そのすぐ謝る癖も何とかしなくてはな!さあ謝るのをやめろ!」
「はっ!えへ、えへへへへへ」
コモリの顔は幼く、美しいというよりは可愛らしいという言葉の方が適切ではあると考えられるが、コモリは照れくさそうに笑う。この少年と旅をしていたらこの笑い方が癖になってしまいそうだ。
「そうだ、君の名前を聞いていなかったな。名乗ってみよ」
「あ、はい!コモリ。コモリ・ヒキメナです」
「コモリか。いい名だ」
少年の真っ直ぐな瞳と言葉でそんな事を言われると、どうしても照れてしまう。コモリはまた「えへへへ」と笑いながら頬を赤く染めながら頭を掻く。
「えっと、王様の名前は?」
「我か?」
コモリの質問に少年は答える。
「我はルシフェル。ルシフェル・アシュヴォールだ」
◇
それからコモリとルシフェルの旅は続いた。冒険者と呼ばれる人間を殺し、人間の王の兵士を殺し、コモリを戦える様にする為特訓をして、人間に復讐する為の道を探した。その旅の中で何度も殺された同胞の死体を見ることになったが、それは二人が立ち止まる理由にはならず、逆により一層足を進める動機となった。
「これだ、人間を皆殺しにして我が国を作るにはこれしかない!!」
「これは、御伽話、ですか?」
ルシフェルが握っていた本をコモリが覗き込む。その本にはとある御伽話が描かれていた。そう、オリジナルリングという御伽話が。
「これを奪い、我らの物とする。そしてこのオリジナルリングの力で人間の王に復讐するのだ!」
「す、素晴らしいです!えへへ、流石ルシフェル様」
「そうすれば我が理想が果たされる。しかし、我が王になるには圧倒的に民が足りないな」
ルシフェル達は旅の中で魔族を見つけたらスカウトしていくつもりだったが、まず生き残っている魔族が少なく、仮に生き残っていてもルシフェルの夢を馬鹿馬鹿しいと罵り逃げていった魔族が多かった。一人「たのしそー!」とルシフェルに協力してくれることになった吸血鬼と人間嫌いの人間の協力者が出来たが、それ以外は皆無だ。
「ならば、人間を民にしよう」
「へ?ほほほ本気ですか!?人間は我ら魔族を殺しにくる、のでは?」
「ああ。だから我らを憎むべき敵から敬うべき対象へと認知を変える必要がある」
ルシフェルは不敵に笑って御伽話の一節を指差す。
「オリジナルリングが全て悪用された時、原初の竜が降臨し人間に裁きを降す」
「それが、どうかしたんですか?」
「分からないか?オリジナルリングが全て悪用され、竜が裁きを降しにやってくる。人間は当然竜を恐れ、恐怖に支配される。そんな時!竜を殺し!人間を救った者が現れたらどうだ!?」
ルシフェルの言葉にコモリはハッとする。自分達のピンチを颯爽と助けてくれた存在がいたならば。その存在は憧れたヒーロー、最高の英雄、敬わざるを得ない人物となる。かつての自分がそうだった様に。
「なるほど!それが出来れば人間を、ルシフェル様の民に出来る!」
「そうだ!故にまずはオリジナルリングを奪う!奪った後はオリジナルリングに適性があり、更に悪き心を持つ者にオリジナルリングを譲渡する」
悪い事を考える人が力を持ったら、当然その力で悪事を働く。するとオリジナルリングで悪事を働いたことになり、竜の降臨に近づく。そして最後のオリジナルリングが悪事に使われれば。
「この計画、必ず果たしてみせよう。我が史上最強の魔王となる為に!!!」
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