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4章 オリジナルリング
71話 楽しげな幻聴
しおりを挟む「終わりだ!!!」
カゼジロウの槍がコモリへ近づいてくる。しかしこのまま貫かれる訳にはいかない。コモリにも負けられない理由がある。ルシフェルの願いを叶える為。彼が立派な魔王になる為に。
「負けられ、ない!」
カゼジロウの槍がコモリの胸を貫く寸前、コモリが翼をはためかせて空へと退避した。
「はぁぁ!?」
カゼジロウの槍はコモリが空へ飛んだことにより空を貫きそのまま武器屋へ突撃した。
「カゼジロウ!」
カゼジロウが派手な音を立てて武器を壊しながら転がる中コモリの背後からフィンが斧を振り下ろす。
「っ!」
「流石にバレずにとはいかねえか!」
カゼジロウが大きな音を立てたので気づかれずに接近できるかと考えたが、そうは問屋が下さない。フィンの存在に即座に気づいたコモリがコモリとフィンの斧の間に黒い障壁を展開させる。
「おらぁぁ!!」
斧と障壁がぶつかり合い激しい金属音を響かせるが、その音は長くは続かなかった。フィンが素早く身を引いた為だ。
「あ?フィン!てめぇ根性見せやがれ!パワー型じゃねえあいつが根性見せたのにサラッと諦めてんじゃねえよ!」
「いや、あいつの障壁。前より格段に硬度が上がってやがった」
フィンの言葉にマキは眉を顰めてコモリを見る。
「なんだって硬度が上がったんだよ?理由があるんだろ?」
「勿論だ。硬度が上がった理由は想いが強まったからだな」
オリジナルリングと人工の指輪の大きな違いとして挙げられるのは単純な威力以外に二つある。その一つが想いの力。負けられない理由、成し遂げたい理想、叶えたい未来。それらをその手に掴む為に使用されるオリジナルリングには想いが乗る。竜から授かった八つだけのオリジナルリングはその様な人の想いに共鳴して指輪の能力を向上させられるのだ。
「つまりカゼジロウが言った戦う理由ってやつの答えによってあの子が想いを宿したと!?」
「正確に言えば思い出したんだろうな。明確な理由は分からんが、多分そんな感じだ」
「ルシフェル様の為に、邪魔となる貴方達はここで殺します!!」
コモリが腕を上空に掲げるとひし形の形をした障壁が大量に出現する。正確な数は数えられないがざっと二百はくだらない数だった。
「黒障壁の豪雨!!!」
「ひとまず避けるぞ!!」
黒い障壁の雨から全力で逃げるフィンとマキ。しかし黒い障壁は飛ぶ速度も上がっており、回避するだけでも手一杯だ。
「やべぇ!」
「こんなのずっとは避けきれねえぞっ」
二人とも致命傷は上手く避けるが、切り傷が体の至る所に増えて行く。腕、足、頬。体が鋭く尖った障壁に抉られるたび二人の動きが少し遅くなる。
「フフフフフ。このまま死んでくだっっ!!」
楽しそうに薄気味悪く笑うコモリが急に言葉に詰まる。そして次の瞬間に口から血を吐き出した。
「ゴハッ?あ、あれ?おかしいですね。何故」
血は止まらずコモリは首を傾げる。しかし目に宿る殺意だけは消えない。
「反動だ」
フィンの一言にコモリは不思議そうな顔をする。オリジナルリングと人工の指輪のもう一つの違い、それこそが反動だ。オリジナルリングは威力が高く、想いの力によって更に強くなる。しかし、使用者がその力を完全に制御出来るとは限らない。
「は、反動?そんなもの、えへへ。知りませんけど、?」
オリジナルリングの反動はオリジナルリングの適性を持つ者の個人差によって決まる。ライヤの様に雷鳴の指輪を使う為だけに生まれてきた様な適性の高さ故に反動が全くないような人も居れば、フィンの様に歪曲の指輪の適性を持ってはいるけれど非常に適性が低く、一度使うだけでかなりの反動を受ける人もいる。コモリは恐らく前者だったのだろう。
「だが、想いの力が加わった指輪は更なる力と共に更なる反動も味わう」
「想いの力込みの指輪に体が耐えられなかったってことか」
マキの言葉にコモリが絶望の表情を見せる。それは反動が大きくて自らの命の危機を感じたからではない。反動があるせいでフィンとマキを殺せないと思ったからであった。
「いえ、いいえ!例え反動が襲ってきたとしても!!ルシフェル様の邪魔をする人は排除します!!!」
コモリは大声で雄叫びをあげて障壁の指輪を発動。透明な障壁がフィンとマキを殴り飛ばした。
「ガッッ!?正気か!?これ以上やると嬢ちゃんが死んじまうぞ!!」
「私は死んでもいい。私が死んでも貴方達を殺す!!」
血走った目をしたコモリが腕を前方に突き出し更なる障壁を作り出す。次の障壁は透明ではなく黒かった。
「だが、これはこれでチャンスかも知れねえぞ。フィン!ここを乗り切ればあいつが反動で死ぬ!そうすれば」
「いや、ぶん殴ってあの子から障壁の指輪を引き離すぞ」
フィンの言葉にマキは口を開けたまま数秒間唖然とした。フィンが何を言っているのか分からなかった為だ。
「何言ってんだお前!ここで耐えきれば勝てる!あいつに近づこうとしたら黒い障壁に貫かれて死ぬぞ!?」
「だが!攻めないとあの子が死ぬ!!」
「あいつは敵だ!私達を殺そうとする魔族だ!なんでそいつを助けようとしてんだお前は!!!」
マキの言葉は正しい。現にフィンはこれまで自らの命を狙ってきた魔獣や度を超えた盗賊などを殺してきた。この世界では悪人殺しは罪ではない。正当防衛だから。殺されそうになったら相手を殺す。それはこの世界の常識なのだ。フィンは今までその常識に従ってきた。だが。
「あいつなら」
「あん?」
「あいつなら。目の前で死にそうになってる女の子を見殺しにしたりしない」
真っ直ぐなフィンの目を見て、マキはフィンが誰の事を言っているのか理解した。確かに、あの少年ならば目の前にいる血を吐きながら戦う少女を救おうとするだろう。
「だが、私らが死ぬかも知れねえぞ?」
「そうだな。だが、死を恐れて救える命を救えなかったら、きっと俺は自分を許せねえ」
知らず知らずの内に影響を受けていた様だ。あの少年の生き様に。その生き様を、フィンは誇りに思うし、同じ生き様を貫きたい。
「はーーーーーーぁ」
そんなフィンの言葉にマキは大きな、大きなため息を吐くと、口角を上げてニヤリと笑った。
「私は死にそうになったら即逃げるからな」
「ああ、それで構わねえ」
精一杯背伸びされた小さな拳と可能な限り腕を下ろした大きな拳が合わさった。
「死ねぇぇ!!!」
コモリが耳から出血させながら黒い障壁を放つ。しかしコモリ自身が弱っている事もあって回避できない速度ではない。
「攻撃だけじゃない。防御面だって性能が上がってる。斧じゃあの子に届かない」
元々障壁の指輪は防御の為の指輪。斧による障壁の破壊は先ほどの一撃で可能性が限りなくゼロに近い事は分かっている。それならば方法は一つ。
「目には目を。歯には歯を」
オリジナルリングには、オリジナルリングを、だ。
コモリの防御を破壊するには同じく想いを込めた一撃が必要だろう。しかし、同じ条件が揃えば確実に勝てる。何故なら障壁と歪曲では圧倒的に歪曲の方が有利だから。例え障壁で守られようと、その障壁を捻じ曲げてしまえば済む話なのだ。
「だけど、ちっとキツいなっ!!」
襲いかかってくる障壁をジャンプして飛び越えたフィンが指輪を構えると、即座に次の障壁がフィンに飛びかかってくる。この状況では歪曲の指輪が発動出来ない。
「あーーーーー!!思い出したわーーーー!!」
そんな事を考えながら障壁を回避していると、思わず視線を向けてしまう程の大きな声を聞いた。
「ルシフェルってどっかで聞いた事ある名前だと思ったらーーーーー!私が殺した魔族じゃねえかーーーー!!」
「あ?」
ドスの効いた聞いただけで思わず漏らしてしまうほどの殺気の篭った声が声の主に向けられる。マキの放った爆弾は勿論嘘である。だが、虚言が真実かなどコモリには関係ない。言葉そのものが罪なのだ。
「黒障壁の!!!鉄槌!!!」
一段と重く、大きく、殺意の篭った障壁の一撃がマキへ向かって飛ばされる。周囲の障壁の全てを集めたその障壁がフィンとは反対方向に走っているマキに。
「今しかねぇ!!!」
フィンは即座にオリジナルリング、歪曲の指輪を発動。揺るがない想い。目の前の少女を救うという信念を込めて捻じ曲げる空間を選択。
「っ!」
した時、反動への恐怖がフィンを包んだ。今までなんの反動もなかった少女が血を吹き出す程の反動。それが普通に指輪を発動しただけで血を吐くフィンの体に襲いかかってきたら、フィンは無事で済むのか。この体は今やフィンだけのものではない。この体、この命を生かす為に消えた、とある妖精の命でもある。その命を、ここで使えるのか。
「なんだよ、君の生き様を見せてくれるんじゃないの?」
そんな思考が、柔らかく楽しげな幻聴に掻き消された。
「君の心の力を見せてくれよ、相棒」
条件は揃った。己の全身全霊を込めた一撃を、
「歪めろ!!!歪曲の指輪!!!!」
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