魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり

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12話 学内ランキング その3

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 「実戦」形式での模擬戦闘。戦いを生業にするランシール学園はいわば、国家に於ける、将来の軍事部門養成学校の役割を果たしていると言える。もちろん、卒業後は他国へ移動する者も少なくはないが、アルビオン王国の将来を支える重要な柱の一つであることは間違いがない。

 そんな中、トム教官の提案でSランクの教室は実戦訓練が行われることになった。専用の修練場へと移動する最中、智司とリリーの二人だけは意味がわかっていない。他の者達は驚いてはいるが、どういったことをするのかはわかっている様子だ。

 いきなり列を作って歩き出している為、智司も質問がし難い状況であった。彼らがしばらくして到着した場所は、広々とした空間の部屋だ。体育館やグラウンドのように、大砲やリング、射的などは一切なく、本当に広いだけの空間となっていた。


「今回は市街地戦だ。各々得意な武器、魔法の使用も許可する。ほぼ、全力を出せる状況だが、敵のリーダーを仕留めた段階で戦いは終了だ。いつも通り、魔法空間で戦闘を行うことになるぞ」

 トム教官は静かな口調ながら、全員に生き渡るように言葉を出していた。

 教室内での覇権争いの場。この市街地戦は誰が優位に立つかというものだ。実力が全てのランシール学園に於いてはある意味で最も平等な裁定方法と言えるかもしれない。市街地戦を勝負の場にしたのは、単純な実力では上位陣に勝てない教室の下位の者への配慮だ。

 自らの得意な戦法を取れば勝機を見いだせる可能性、さらにはグループ戦でもある為に、下位の者が勝利をしなくても良いという平等さがあるのだ。

「んじゃ、考えの近しい者達でグループ作れ。勝てたら大分好き勝手できるぞ」

 適当なトムの言葉。教官としてはあるまじき態度だが、このランシール学園に於いては許される範囲だ。

「ただし、サラは……お前はどんな戦法だろうが、この中でトップに来るな。さて、どうしたもんか」
「私は……」
「サラは俺らが貰ったで」

 そう言いながら、彼女の肩になれなれしく手を置くのはナイゼルだ。陽気な笑みを浮かべている。

「私があなたとですか?」
「うん。俺だけやないけどな」
「……!」

 そこで初めて、サラは後ろの智司とリリーの存在に気付く。彼らも同じグループということになる。

「サラさん、ですよね? 初めまして。転入生の相沢智司です。智司が名前になります」
「これはご丁寧に。サラ・ガーランドも言います。智司くん、で宜しいですか?」
「はい、よろしく」

 智司とサラの初めての挨拶は完了した。智司としても思いの外、自然と挨拶を終えたことに安堵している。間近に見る美人……青いポニーテールの髪と青く澄んだ瞳は間近で見る程、美しさが増していた。リリーもかなりのものだが、サラも相当な美貌を誇っていた。

「それから、そちらの人は……」
「初めまして、サラ先輩! 智司と同じ転入生のリリー・シリンスです」
「ええ、よろしくお願いしますね」

 リリーは礼儀正しくサラと挨拶を交わした。あまり見ない光景だけに智司は新鮮さを感じていた。リリーは誰にでも気さくに話す印象があるからだ。

「おっし、これで挨拶も終わったし、俺らは4人グループでの参戦でいいんちゃう?」
「待て、戦力的なバランスが……」

 トム教官は智司、リリー、ナイゼル、サラの4人をそれぞれ見回す。そして、他のグループにも目を向けた。

「デルトのグループが10人程度で、他はビシャス率いる連中とそれ以外か。合計で4グループだな、よし……俺も参戦するか。これでまあなんとか……まだバランスが良いとは言えないが、しょうがないだろ」

 考えが近しい者達で構成された4つのグループ。ある意味では想像通りのグループではあるが、戦力のバランスの問題から、トム教官も参戦をすることになった。

「トム教官も出るんかいな。これは楽しくなりそうやな」
「教官って強いのか?」

 智司の問いかけにナイゼルは頷いた。Sランクの生徒の態度からも強いことは感じていたことだ。

「強いで。確か騎士団長のハンニバルと喧嘩したこともあるんやろ? 酒に酔っての衝動で」
「ありましたね、そんなことも。まだ1勝も出来てないみたいですが。ハンニバル様も大変ですよ」

 トムとの付き合いもそれなりにあるナイゼルとサラは、本人の前だというのに容赦を見せない。言いたい放題だ。トム教官は怒ることはなかったが、「お前らな……俺は目の前にいるんだが……」とうめき声にも似た声を上げていた。

「へえ、そんなことあったんだ。ハンニバルって言えば、アルビオン王国ではかなり有名な人でしょ?」
「なんや、知らんのか? リリーはこの辺の出身やないんやな。アルビオン王国の人間で騎士団長知らん奴は居らんやろ」
「それはすごい有名ね。ま、私は違う国出身だから、あんまり知らないわね」

 そこまでリリーが話し終えると、ひと段落ついたと判断したのか、トムは大きく咳払いをした。

「よし、そろそろ本題だ。いいか、お前ら! 使用する武器は自由だ! リーダー以外を倒しても意味を成さないが、戦力を低下させる意味合いでは有効だから、その辺りは臨機応変に動け! 今回のテーマは俺の独断で市街地戦だ、行くぞ!」

 トムは皆に聞こえるように叫ぶ。30名程度の生徒は既に概要がわかっているので、平然と準備にとりかかった。わかっていないのは智司とリリーだけだ。

「ちょっと、説明なし!?」
「それは流石に……」
「ナイゼルとサラから適当に聞いとけ。お前らのハンデってところだな」

 市街地の実戦について、ほとんど聞かされない状態で参加することになる智司とリリー。主にランキング1位のサラに対する足枷の意味合いが強い。

「くくく、サラ・ガーランド。足手まとい二人ってのも大変だな? 俺の女になるって言うなら加減してやってもいいぜ?」

 そんな時、近くまでやって来たのはデルトだ。挑発的にサラに話しかける。サラは悪者のお決まり過ぎる言葉に呆れているのか、特に返答をすることはなかった。

「てめぇ、無視してんじゃねぇぞ! この登校拒否野郎が……!」

「……お前はとりあえず、一対一のバトルでサラを打ち倒してから偉そうにしたらええのに。今のままやと、空元気な猿山の大将やぞ?」

「ナイゼル……てめぇはたかだか4位の分際で調子に乗ってんじゃねぇぞ……! いいぜ、この市街地戦で証明してやるよ。一番強いのはこの俺だってな。おい、行くぞ!」
「お、おう」

 デルトは後ろに居た同じグループの者達を引き連れて、サラの前から立ち去って行った。
彼の後ろに居る者達の中には1桁のランキングの者の姿もあった。

「デルトのグループも相当密度が濃いな。俺らの所は1位と4位が居るけど、ランキングだけで言えば、11位の智司と13位のリリーが足引っ張ってるしな。おまけにお前らは市街地実戦初めてやし……」

 そう言いながら、ナイゼルは市街地戦初心者の二人を見た。リリーはそんな彼にしかめた表情を向ける。

「なによ……私も智司も適性試験は新記録レベルなんでしょ? なんとかなるわよ。目の前の敵倒せばいいだけじゃない」
「簡単に言えばそうですね。ただし、そう単純でもありません」
「Sランクの身体能力を持っいてる奴らが、得意な陣形や攻撃方法フル活用で死角から同時に攻めてくるからな。単純な実力差なんて役に立たん。おまけに市街地戦初めてなら、なおさらや」

 ナイゼルの表情はいつの間にか真剣になっていた。その表情が、市街地戦が一筋縄では行かないことを物語っているようだ。

 トムの姿もいつの間にかなくなっており、どういうカラクリなのか、周囲は適度に破壊痕のある広々とした市街地に変化していた。数キロ先まで市街地が広がっている。

「トム教官って人が悪いよな? 開始の合図もとうとう失くしたか」
「実戦ではそんなものないですし。リアルという意味では良いことかもしれませんね」

「周囲が一瞬で街並みに変わった? ……これはどういうことだ!?」

 さすがの智司も合図もなく、いきなり市街地へと変化したことには驚きを隠せなかった。冷静に考えれば、魔法空間がその景色を投影しているのだとわかるが、初めての光景には変わりない。

 合図もなく始まった市街地の実戦型訓練。智司の不安など無視するかのように、それは開始されたのだ。
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