魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり

文字の大きさ
50 / 126

50話 不穏な動き その2

しおりを挟む


「さて、本日も智司くんとソウルタワーへ向かうことになるが……ジープロウダの連中には、くれぐれも気を付けるように」

「はい、わかりました。十分に注意を払います」

 カシムの忠告に、サラが代表して頭を下げた。

「評議会の君が居れば、余程のことがない限り大丈夫だとは思うが……用心に越したことはないからね」

「心得ております」

 この数日間で能力を付けたのはリリーとナイゼルだけではない。サラに至っては、なにをしたのかという程に、明らかに闘気が上昇していた。その確かな強さがカシムの信頼を買ったのだ。


「それじゃあ、行って来るね」

「うん、気を付けてね、智司」

「ありがとう、リリー」

 智司はリリーを始めとした仲間に手を振りながら歩いて行った。リリーと智司の自然な形での会話……二人はやはり相当に気が合うのだ。サラはそんな光景を見て焦りを覚えていた。

「どないしたんや? サラ?」

「いえ、なんでもありません」

 サラはナイゼルに気取られないように、視線を逸らす。彼も特にそれ以上、追及することはなかった。

「それにしても……智司の奴もソウルタワーにすっかり嵌りおったな。あかんで、そんな戦闘狂は矯正しないとあかん! お兄ちゃん許しませんよ!」

「なに言ってんのよ。目的持って進むって格好いいじゃん」


 リリーは智司を見ながらそう言った。思わず出た本音といったところだろうか。。



「ほう、リリーの奴はすっかりホの字というわけやな?」

「な、なに言ってんのよ……!」

 リリーはからかわれているだけとはわかっているが、恥ずかしさから、強烈な蹴りをナイゼルにヒットさせた。彼はそのまま倒れこんでしまう。それを心配そうな目で見ているのはサラだった。

「ナイゼル、大丈夫ですか?」

「お、おう……問題ないわ。ったく、馬鹿力女やな」

「あんたが悪いんでしょ」

 むくれているリリーは怒りを露わにしながらそう言うと、智司へ再び向き直った。


「……大丈夫よね、智司……カシムさんも一緒だから」

「さあな。ソウルタワーも230階以上になるんやろ。そんな高階層を攻略してるんは、現代では1組しか居らんのやし。智司の強さを信じるしかないな」

 ナイゼルはそのように言い切ったが、智司を心配する気持ちはリリーと同じだ。最強の冒険者パーティである「アルノートゥン」以外では、カシムですら敵の強さを把握しきれない領域なのだから。

「そうですね、智司くんを信じる……それが私達に出来る唯一の方法かもしれません」

 天網評議会序列10位のサラも智司を見送っている。最早、彼女でも到達できないところに智司は行っているのだ。

 自分たちが心配しても意味がない……皆がそういう感情を持つほどに智司の実力はかけ離れていた。


 智司の無事を心の中で祈った学友たちは各々、自由行動へと移って行く。課外活動でアゾットタウンに来ているはずだが、この街で生活しているような錯覚を覚えながら。



--------------------


「しかし、ジープロウダの誰やったっけ? 塔の攻略している奴ら」

 自由行動の時間、ナイゼル、リリー、ネリスの3人は食料調達の為、買い物に来ていた。ここに住み込んでいるので、彼らは順番に料理当番を決めて仲良く自炊をしているのだ。


「ああ、メンフィスとシスマのことか? 彼らなら今頃は100階近くまで探索していそうだな」

 ネリスは食材を選びながらナイゼルの質問に答えた。手にしている食材から、今夜はカレーライスを作るようだ。お頭の側近たちがどこまで行っているかは、ジープロウダに戻っていないネリスにはわかっていない。

「すごいわね……まあ、智司たちは230階だけど……。そういえば、アルノートゥンって何階まで行ってるの? ナイゼルなら知っているでしょ?」

 リリーはふと疑問に思い聞いてみた。特になにかを意図したわけではない。

「アルノートゥンか……まあ、何階でもええやん。俺もはっきりとはわからんしな」

 いつものナイゼルらしくない、曖昧な言葉が返って来る。わざとはぐらかしているようにも見えた。当然、リリーからの突っ込みが入る。

「ちょっと、分かってるなら教えてよ。300階は超えているんでしょ?」

 ソウルタワーの300階越え……レアモンスターであるブラッドハーケンが出て来る階層を越えていることになる。

 ブラッドハーケンは300階のエリアボスよりも強いとされている為、ブラッドハーケンを倒せる根拠にはならないが、300階を越えられる強者であれば相当に強いということは約束されていた。しかし、ナイゼルが答えを出すことはなかった。

 彼の前に見覚えのある人物が現れたからだ。


「よう、ネリス」

「……アルガス」

 急に声をかけてきたのは、ネリスと同じチームに所属しているアルガスだ。アゾットタウンに居る冒険者の評判を確実に落としている人物である。彼の顔を見た瞬間、ナイゼルとリリーの表情は明らかに変化した。


「何日も戻って来ないでよ、心配したぜ? お前の顔色から見ると結構いい暮らししてるな?」

「私のことはしばらく放っておいてくれないか?」

 ネリスは思いの外、冷静な物言いで返した。ナイゼルやリリーが居るからというのもあるが、彼女の中でも心境の変化はあったのだ。

「てめぇ……誰に口聞いてるのか、わかってんのか?」

 アルガスはネリスの驚いていない口調に腹を立てていた。成長していないのは、彼の方と言えるだろう。

「そんなこと言われても困るが。お頭に対する恩は忘れていないが、お前に対しては特に恩はなかったと思うが……」

「なんだと……!?」

 この何日間の間にマインドコントロールでもされたのか……アルガスは顔をしかめると同時に信じられないという表情も見せている。

 現在は3人だけ……天網評議会のサラが居ない為に、余裕をかましていられるわけはないはず、と心で思っているのだ。

「よう言ったネリス。それでこそやで」

「ネリスも前向きになったわよね。受けた恩を返すのに身体を捧げるなんて変なんだから。恩はわすれなければ、いくらでも返せるわ」

 ネリスを守るように、ナイゼルとリリーは一歩前へと踏み出した。その表情は余裕に満ちている。


「邪魔するなら、容赦しねぇぜ」

 アルガスもしかめた顔を戻し、余裕のある顔へと変化していた。彼の両サイドから屈強な男二人が現れたからだ。

「おいおいアルガス君よ。舐められてるぜ、成敗していいわけ?」

「頼めますか? アルバさん」

「いいぜ、へへへへ。かなり可愛らしいじゃねぇか」

 傭兵団体に所属しているアルバと呼ばれる男。坊主頭の彼は、半分ほどの年齢であるリリーを気に入ったようだ。

「気持ち悪い……普通、あの年代ならもっと大人な女性に興味示すわよね? 20代とか」

 アルバに全身を見られているリリーは、怖気が走り、ナイゼルに助けを求めていた。

「いや、俺に聞かれても困るけどな。まあ……あのおっさんの気持ちにはなれんわな。俺ガキんちょやしっ」

 アルバは33歳の為、ナイゼルとも倍ほどの年齢差がある。彼は敢えてそこを攻めたのだ。ナイゼルはアルバと視線を合わせながらニヤニヤと笑っていた。


「ひゃははは、アルバ! 馬鹿にされてるんじゃねぇか?」

 怒りを露わにしているアルバ。その顔を見て、もう一人の傭兵であるゴンズイは大笑いしていた。

「はっ、とりあえず男の方は殺すか。そっちの女は奴隷にして、犯しまくってやるよ」

 アルバは冷静さを取り戻した。ナイゼルは殺し、リリーは性奴隷として連れて行くということだ。

 坊主頭のアルバ。黒髪の長髪がトレードマークのもう一人の男の名はゴンズイ。髪型は対局の二人だが、放つ闘気の強さは対等、それもかなりの高レベルである。



「おいおい、リリー。喧嘩売られとるで? どないするんや?」

「相手の言葉を引用して成敗ってことでいいんじゃない? ネリス守る為だしさ」

 彼らの余裕の表情は一切変わることはない。自らの強力になった闘気……上昇した強さの実験台になるのは傭兵団体の二人だ。

 ナイゼルとリリーは負ける気など微塵もないという雰囲気を醸し出しながら、傭兵二人に視線を合わせた。

 しかしこの時、ナイゼルとリリーは気付いていなかった。敵の真の狙いというものに……。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

処理中です...