魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~

あめり

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57話 攫われたリリー その2

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「ねえ、手錠はずしてくれない? どうせ、頑丈そうな牢屋からは出られそうにないしさ」


 アゾットタウン郊外にある洞窟。頑丈そうな鉄格子の中にリリーは閉じ込められていた。見たところ怪我をしている様子はないが、両手には手錠も付けられている。


「黙れよ、女。てめーはシリンスの令嬢なんだろ? 万が一にも逃がすなって、ヴィンスヘルムさんからの命令だからな」

「逃がしちまったら、俺たちが殺されてしまうぜ」


 傭兵と思われる二人組はけらけらと笑いながら話していた。リリーが倒した傭兵ではないが、話は通っているのか、彼女の強さもわかっている様子だ。


「へへへ、しかしいい女だな」

「ああ、ヴィンスヘルムさんからは、女には手を出すなとは言われてねぇしな……いただいちゃうか?」

「おう、いいんじゃねぇの?」


 このあからさまに不快な態度。リリーは出身地である女王国にもこういった傭兵が居たことを思い出した。彼女は以前から、傭兵にはあまり良い印象を持っていない。


「調子乗るんじゃないわよ……本当に最低ね。私が従うと思ってる? 近づいたら、ぶっ殺すから」


「へへへ、さすがに手錠付けられてる状態で、俺たちに勝てるってのは舐めすぎだぜ? ええ?」

「………!」


 図星だった。二人は鉄格子の扉を開けて悠然と入ってくる。この空間内で、手錠をされたリリーが、傭兵二人の相手をするのは、確かに無理があった。自慢の蹴撃や打撃も威力が半減してしまうからだ。


「抵抗してもいいんだぜ? お嬢ちゃんみたいな若い奴は、元気さが売りだからな」

「まあ、無理やり押さえつけてやりたいだけなんですけどね?」


「あはははははははっ!!」


 今すぐにでも殺してやりたい連中ではあったが、どうみても勝てる状況ではなかった。鉄格子の扉も閉められているので、逃げることもできない。本当に不味い……このままでは、確実に傭兵たちのいいようにされてしまう。リリーは絶対にそれだけは許容できなかった。


 なんとか、ならないのか……なんとか助かる為には。



 と、そのとき……影が……影だけが見えた気がした。残像とでも言えばいいのか、とにかくリリーの視力でも上手く捉えることができないもの。


「な、なんだ……?」

「えっ……?」


 それが傭兵二人の最後の言葉であった。彼らは気づいた時には、首と身体が切り離されており、胴体や足も幾つかのパーツに分かれていた。


「うそ……一体なにが……?」


 リリーは無事だ。傭兵以外に斬られていたのは鋼鉄の鉄格子だった。こちらもバラバラになっており、今ならば容易に脱出できる状態であった。




----------------------------------


 リリーは状況が分からず、すぐに逃げ出すことはできない。もしかしたら罠かもしれない。彼女がしばらく立ち塞がっていると、牢屋の部屋に見覚えのある男が現れた。ドフォーレ・ヴィンスヘルムだ。


「わずかに奇妙な音がしたから、なにかと思って来てみたら……おやおや、これはこれは」


 ヴィンスヘルムは顔色を全く変えていないが、その部屋の状況には興味を示していた。さすがに予想外の情景が広がっていたのだ。



「これは……君がやったの?」


 ヴィンスヘルムは傭兵の二人がバラバラにされていること、さらに同じようにバラバラになっている鉄格子を見ていた。リリーではさすがにここまでのことは不可能だ。もっと常識外れの存在が近くに居る。

 ヴィンスヘルムは即座に回答に至った。ゆえにリリーからの返答は不要だ。


「ち、違うわよ……」

「だろうねぇ。第一、君まだ手錠もしてるしねぇ」


 鉄格子までバラバラにして、彼女の手錠がそのままなのはどう見ても不自然だ。ヴィンスヘルムの別の存在の可能性は、そこからも来ていた。


「どこだろうねぇ……」

「……??」


 リリーはヴィンスヘルムの言葉の意図がわからない。ソウルタワーに挑める程の強さを持つ彼女ではあるが、力の次元が違うのだ。その「モノ」が存在しているかどうかすら、彼女にはわかっていない。だからこそ、ヴィンスヘルムが何を言っているのか、わかっていなかった。


 ヴィンスヘルムは気配を集中させる。手には1本のナイフが持たれていた。どこにでもあるような果物ナイフだ。

 彼はしばらくの間、周囲を見渡し……そして地面の一点に向けてナイフを投げた。


「出てきなよ。そこにいるんだろう? ナイフ程度の攻撃では、ダメージは受けないはずだ」


 ナイフの突き刺さった地面は、微妙に色が変化していた。よく見なければわからないレベルではあるが、何かが居る。そう思わせる変化は、その直後に起きた。

 黒い塊がナイフの刺さった地面から出てきたのだ。その塊は素早く移動しながらヴィンスヘルムから距離を置いた。そして、美しい人間形態に変化してみせる。レジナの姿がそこにはあった。

「おやおや、これはまた……シャドーデーモンの類かな? 見たことのない気配だ」


「……お前がヴィンスヘルム……レジナの気配を察知できるくらいには強い……」


 紫の髪から見える無表情と、機械のように冷徹な瞳。彼女は智司やアリス達以外に、決して気を許すことはない。ヴィンスヘルムは今、100パーセントの殺気を肌で感じ取っていた。


「こんなに可愛らしいお嬢さんでも怪物の類なんだねぇ……予定外の相手だが……ラーデュイが来るまでには決着をつけないねぇ」


 ヴィンスヘルムは一切の怯みを見せていない。それどころか、両腕はポケットに入ったままだ。


「どうでもいい……死ね」


 相手の行動などどうでも良いとばかりに、レジナは身体からリングブレードを作り出す。


 二人の距離はおよそ5メートルほど。戦いが始まろうとしていた。

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