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2話 忍び寄る影 その1
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エリスとマルクスの二人は、エルド王国の首都、パンゲアの街に繰り出していた。中央に位置するプーハット宮殿から、お忍びでデートを行っているのだ。
「お互い侯爵家の家柄だし、護衛もなしに街に繰り出したのは不用心だったかしら?」
「いや、大丈夫だと思うよ。首都のパンゲアなら特にね。ほら、街には騎士の者たちも居るんだし」
喫茶店のテーブルに腰を掛けている二人は軽い変装は念のためにしていた。しかし、そこまで警戒している様子はない。目の前にある噴水広場や時計塔には、騎士たちの姿が多くあったからだ。
エルド王国は強国であることも知られている。暴漢に襲われたとしても、周囲の騎士たちに助けを求めれば万事解決してしまうだろう。
「それでさ、エリス」
「なに? マルクス」
「ラウツ王子とは、あれから特に何もないかい?」
婚約破棄から1か月以上が経過している。王子の方に非があったとはいえ、第12位王位継承権を持つ相手だ。果たして、そう簡単に引き下がるのかと、マルクスは心配になっていた。
「それがさ……」
「どうしたの?」
「あれから何度か、手紙が来るのよね。会ってくれないか? って……話の内容は不明なんだけど、無視してるわ」
なるほど……やはり諦めてはいないのか、マルクスから見てもエリスは非常に可愛らしい。女癖が悪く、いい加減なラウツ王子が簡単に手放すとは考えていなかったのだ。
「とりあえず気を付けるに越したことはないよ。王子とは会わない方がいいだろうし」
「そうよね、あなたにも余計な心配はかけたくないし」
二股などと妙な噂が出てしまうのは困る。貴族連中は資金面に余裕があるせいか、他人の事情に関心が強い傾向にあった。出来るだけ、誤解を招く行動は避けた方がいい。マルクスは信用してくれても、他の貴族たちはわからないのだから……。
二人の喫茶店デートはしばらくの間、続けられていった。
--------------------
「いたいた……エリス。マルクスの奴とデートをしているなんて、許せないな。あんな婚約破棄、俺は絶対に認めないからな……!」
彼らのデートを影から見ているのはラウツ・コンターチ王子だった。とても恐ろしいその瞳は、エリスを手中に収めることのみを考えているかのようであった……。
「お互い侯爵家の家柄だし、護衛もなしに街に繰り出したのは不用心だったかしら?」
「いや、大丈夫だと思うよ。首都のパンゲアなら特にね。ほら、街には騎士の者たちも居るんだし」
喫茶店のテーブルに腰を掛けている二人は軽い変装は念のためにしていた。しかし、そこまで警戒している様子はない。目の前にある噴水広場や時計塔には、騎士たちの姿が多くあったからだ。
エルド王国は強国であることも知られている。暴漢に襲われたとしても、周囲の騎士たちに助けを求めれば万事解決してしまうだろう。
「それでさ、エリス」
「なに? マルクス」
「ラウツ王子とは、あれから特に何もないかい?」
婚約破棄から1か月以上が経過している。王子の方に非があったとはいえ、第12位王位継承権を持つ相手だ。果たして、そう簡単に引き下がるのかと、マルクスは心配になっていた。
「それがさ……」
「どうしたの?」
「あれから何度か、手紙が来るのよね。会ってくれないか? って……話の内容は不明なんだけど、無視してるわ」
なるほど……やはり諦めてはいないのか、マルクスから見てもエリスは非常に可愛らしい。女癖が悪く、いい加減なラウツ王子が簡単に手放すとは考えていなかったのだ。
「とりあえず気を付けるに越したことはないよ。王子とは会わない方がいいだろうし」
「そうよね、あなたにも余計な心配はかけたくないし」
二股などと妙な噂が出てしまうのは困る。貴族連中は資金面に余裕があるせいか、他人の事情に関心が強い傾向にあった。出来るだけ、誤解を招く行動は避けた方がいい。マルクスは信用してくれても、他の貴族たちはわからないのだから……。
二人の喫茶店デートはしばらくの間、続けられていった。
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「いたいた……エリス。マルクスの奴とデートをしているなんて、許せないな。あんな婚約破棄、俺は絶対に認めないからな……!」
彼らのデートを影から見ているのはラウツ・コンターチ王子だった。とても恐ろしいその瞳は、エリスを手中に収めることのみを考えているかのようであった……。
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