私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第二章 目覚める力と芽生える想い

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力の暴走から三日が経った。

アルヴィンの左腕は包帯で巻かれていたが、翌日には通常通り執務をこなしていた。リーゼが謝罪に訪れると、「気にするな」とだけ言って書類に目を戻した。

その素っ気なさが、逆にリーゼの胸を締めつけた。

訓練は再開された。だがリーゼは慎重になりすぎていた。力を引き出そうとするたびに、あの暴走の瞬間が蘇る。アルヴィンの腕から流れた赤い血。自分のせいだった。

結界は掌の前に薄く現れるだけで、それ以上大きくならない。暴走前よりも後退していた。

「恐怖で力を抑え込んでいる」

アルヴィンが訓練場の端から声をかけた。包帯の巻かれた腕を組み、壁に寄りかかっている。

「わかっています。でも……」

「あの日の暴走は、お前の力が本物だという証拠だ。制御さえできれば、あれは武器になる」

わかっている。頭ではわかっている。だが体が言うことを聞かない。

アルヴィンが壁を離れ、リーゼの前に歩み寄った。

「手を出せ」

「え」

「手を」

リーゼが恐る恐る両手を差し出すと、アルヴィンがその手を下から包むように支えた。大きな手のひらは硬く、だが不思議と温かい。

「目を閉じろ。力を出そうとするな。ただ、体の中を流れるものを感じろ」

リーゼは目を閉じた。アルヴィンの手の温もりが伝わってくる。その温もりに導かれるように、意識が体の内側に沈んでいく。

ある。

体の奥底に、光の泉のようなものがある。静かに、だが絶え間なく湧き続けている。それは暴れる濁流ではなく、穏やかに満ちていく泉だった。

「感じるか」

「はい……」

「それがお前の力だ。無理に引き出す必要はない。泉から水が溢れるように、自然に流せばいい」

リーゼは力まなかった。ただ、泉の水が指先に向かって流れていくのを許した。

掌が温かくなる。瞼の裏が白く光る。

目を開けると、二人の手の間に光の球が浮かんでいた。拳ほどの大きさだが、暴走の時とは違う。安定して、穏やかに脈動している。

「これは……」

「結界の核だ。ここから膜を広げることで結界が形成される。お前に足りなかったのは力ではない。核を作る手順だ」

光の球は数秒間揺れたのち、ふわりと広がって二人を包む半球状の結界になった。薄い光の膜を通して見る雪景色が、虹色にきらめいていた。

リーゼは息を呑んだ。

美しかった。自分の力が生み出したものが、こんなにも美しいとは知らなかった。

結界は十秒ほどで消えたが、リーゼの手はまだ温かかった。アルヴィンの手もまだ、リーゼの手を支えたままだった。

「あ……」

二人は同時に気づき、同時に手を離した。

アルヴィンが一歩下がり、そっぽを向いた。

「今日はここまでだ」

「は、はい。ありがとうございました」

リーゼは深く頭を下げた。顔が熱い。寒空の下なのに、頬が火照っている。

アルヴィンが足早に去っていく。その耳がまた赤いことに、リーゼは気づいた。

今度は寒さのせいではないと、わかっていた。


訓練場の隅でハインリヒが一部始終を見ていた。

腕を組み、にやにやと笑みを浮かべている。

「手を取って教えるとは。あの朴念仁がまた随分と大胆なことを」

独り言を呟きながら、ハインリヒは屋敷に戻った。今夜の晩酌は、いつもより美味くなりそうだった。


部屋に戻ったリーゼは、自分の掌をじっと見つめた。

さっきまでアルヴィンの手が触れていた場所が、まだ温かい。いや、それは結界核の余熱かもしれない。どちらなのか、リーゼにはわからなかった。

けれど一つだけ確かなことがある。あの人の手に導かれた時、怖くなかった。暴走の記憶も、失敗への恐れも、全部溶けていくようだった。

「核を安定させること……」

アルヴィンの言葉を反芻する。焦らなくていい。泉の水が自然に流れるように。

リーゼは目を閉じ、体の奥底にある力の泉を思い描いた。静かに満ちる光。それはとても穏やかで、温かかった。

手袋をはめた掌を、そっと胸に当てた。心臓の鼓動が少しだけ速いのは、訓練の疲れのせいだと自分に言い聞かせた。
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