私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第二章 目覚める力と芽生える想い

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その夜、リーゼは眠れなかった。

訓練の疲れはある。体は休息を求めている。なのに頭が冴えて、暗い天井を見つめるだけの時間が過ぎていく。

街で見た子供たちの笑顔。領民たちの温かさ。アルヴィンの不器用な優しさ。この北方での日々は、王都で過ごした十八年間とはまるで違う。

だからこそ、ふと不安になるのだ。

こんな穏やかな時間が、いつまで続くのだろう。自分は結界術を習得するために招かれた身だ。もしも期待に応えられなかったら。もしも力が足りないとわかったら。

また、捨てられるのではないか。

その考えが浮かんだ瞬間、胸が締めつけられた。

毛布を跳ね除けて起き上がる。部屋にいると息が詰まりそうだった。外套を羽織り、静かに部屋を出た。


屋敷の中庭は、月明かりに照らされて青白く輝いていた。

雪が月光を反射して、まるで地面が光っているように見える。息を吐くと白い煙が立ち上り、すぐに夜気に溶けた。

石のベンチに腰を下ろし、空を見上げる。雲のない夜空に、満月が冴え冴えと浮かんでいた。

「眠れないのか」

声に振り向くと、中庭の反対側にアルヴィンが立っていた。

黒い外套を肩にかけ、月光の中に佇む姿は、まるで一枚の絵画のようだった。いつもの鎧のような冷たさは薄れ、夜の静けさの中では少しだけ柔らかく見える。

「アルヴィン様こそ」

「俺は毎晩ここに来る。眠りが浅い質でな」

アルヴィンが歩み寄り、リーゼから少し離れたベンチの端に腰を下ろした。二人の間に、一人分ほどの隙間がある。

しばらく沈黙が続いた。だが気まずさはなかった。月明かりと雪と静寂が、言葉の代わりに二人を包んでいた。

「アルヴィン様」

「何だ」

「一つ、伺ってもいいですか」

「言ってみろ」

リーゼは膝の上で手を組んだ。

「なぜ私なのですか。結界術の素養がある者は、他にもいるはずです。もっと優秀な術者を招くこともできたはず。なのになぜ、教会にすら微弱と評価された私を」

アルヴィンはしばらく黙っていた。月を見上げたまま、言葉を選ぶように間を置いた。

「他の術者では駄目だった」

「どういう意味ですか」

「結界術の使い手は確かに他にもいる。だが境界壁の結界を蘇らせるには、並の力では足りない。歴史上それを成し遂げたのは、常に聖女と呼ばれる者だけだ」

「でも私は、聖女と認められたわけでは……」

「教会の認定など必要ない」

アルヴィンの声に力がこもった。

「七年前、庭園であの光を見た時に確信した。お前こそが本物の聖女だと。教会の連中には見る目がなかっただけだ」

リーゼは黙った。

「それに」

アルヴィンが少し声を落とした。

「お前でなければ駄目だった」

心臓が跳ねた。

「力の問題だけではない。あの庭園で、枯れかけた花に話しかけていた子供。誰にも見えない場所で、誰にも気づかれずに優しさを注いでいた。そういう人間でなければ、結界は生きた力にならない」

リーゼは息を止めた。

「結界術は単なる魔力の壁ではない。守りたいという意志が形になったものだ。だからこそ、その意志を持つ者でなければ。お前でなければ、駄目だったんだ」

月が雲に隠れ、中庭が一瞬暗くなった。そしてまた雲が流れ、月光が戻る。

アルヴィンの横顔が白く照らされた。彼はまっすぐ前を見ていた。

リーゼの目から涙がこぼれた。

「泣くな」

「すみません。嬉しくて」

声が震えた。

「私、ずっと何の取り柄もないと思っていました。地味で退屈で、誰の役にも立たないと。クラウス様に言われた通りだと」

「あの男の言葉は忘れろ」

「でもアルヴィン様は、七年前から私を見ていてくださった。私の力を信じてくださった。それが、どれほど……」

言葉にならなかった。涙が止まらない。

ふと、肩に温もりを感じた。アルヴィンが外套をリーゼの肩にかけたのだ。

「泣くなら風邪をひかん程度にしろ」

不器用すぎる慰めに、リーゼは泣き笑いになった。

「はい」

月が二人を見下ろしていた。雪の庭に、長い影が二つ並んでいた。

少しだけ、その影の距離が縮まったように見えた。
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