私はもう、あなたの所有物ではありません

たくわん

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第三章 王都の策謀と迫る脅威

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異変に最初に気づいたのはエルザだった。

市場に買い出しに行った帰り、エルザはいつもと違う空気を感じた。すれ違う人々の視線がどこかよそよそしい。いつもなら声をかけてくる八百屋のおかみが、目を逸らした。

「何かあったのかしら」

屋敷に戻ってハインリヒに報告すると、ハインリヒの顔が険しくなった。

「実は私も気になっていることがありまして。ここ数日、領内に見慣れない商人が出入りしています」

「商人?」

「王都方面から来たと名乗る者たちです。各地の酒場や市場で、リーゼ嬢に関する噂を流しているようで」

ハインリヒはリーゼには伏せたまま、独自に調査を始めた。


だが噂の広がりは予想以上に速かった。

三日後、リーゼが街に出た時に、それは表面化した。

いつものようにヴィンターフェルトの広場を訪れると、子供たちが駆け寄ってきた。だがその母親の一人が子供の手を引いて、小声で何か言っている。子供が不満そうな顔をして引き下がった。

リーゼは胸がざわついた。

通りを歩くと、以前は笑顔で声をかけてくれた人々が視線を避ける。全員ではない。変わらず挨拶してくれる人もいる。だが明らかに、空気が変わっていた。

パン屋で買い物をした帰り道、背後から声が聞こえた。

「あの人が公爵様を誘惑したって本当かしら」
「王都じゃ男を渡り歩いてたって話よ」
「まさか。でも若い女が公爵様の屋敷に住んでるのは事実でしょう」

リーゼは足を止めた。

振り返ろうとして、やめた。振り返っても何も変わらない。噂とはそういうものだ。王都の社交界で嫌というほど学んだ。

だが知識として理解していることと、実際に刃を向けられることは違う。ここは王都ではない。リーゼが居場所だと思い始めた土地だ。その土地の人々に疑いの目を向けられるのは、想像以上に堪えた。

屋敷に戻り、自室の扉を閉めた。ベッドに腰を下ろし、膝の上で拳を握る。

泣かない。泣いても何も解決しない。

「リーゼ様」

エルザが入ってきた。リーゼの顔を見て、全てを察したようだった。

「お聞きになりましたか」

「ええ。でも大丈夫です」

「大丈夫な顔をしておりませんよ」

エルザの声は優しいが、真剣だった。

「嘘に負けてはいけません。リーゼ様が何をしてこられたか、この屋敷の者は全員知っています。領民だって、本当にリーゼ様を見てきた人たちはわかっています」

「わかっていても、噂は人の心を変えます」

「ならば、噂より強い真実を見せればよいのです」

エルザの言葉は力強かった。リーゼは顔を上げた。


翌朝、リーゼは訓練場に立った。

いつもより早い時間だった。まだ夜が明けきらない薄闇の中で、白い息を吐きながら手袋をはめる。

アルヴィンが来る前に、一人で訓練を始めた。核を形成し、結界を展開し、維持する。何度も何度も繰り返す。

噂が何だ。疑惑が何だ。

自分にできることは一つしかない。力を示すことだ。言葉ではなく、結果で証明する。

「リーゼ」

アルヴィンの声がした。振り返ると、訓練場の入口に立っている。外套を肩にかけた姿が、朝靄の中に浮かんでいた。

「噂のことは聞いた」

「はい」

「気にしているか」

リーゼは少し考えてから、正直に答えた。

「気にしていないと言えば嘘になります。でも、私がやるべきことは変わりません」

アルヴィンは黙ってリーゼを見つめた。それから小さく頷いた。

「その通りだ。だが、噂の出所は潰す。ハインリヒに調べさせている」

「ありがとうございます」

「礼はいい。訓練を続けろ」

リーゼは頷き、両手を前に出した。掌に光の核が灯る。

傷ついた心を、力に変える。ここが自分の居場所だと証明するために。

朝日が雪原を染め始めた。リーゼの結界が光を受けて虹色にきらめいた。
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